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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
一章 門番との出会い
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2話 契約

 二人の戦闘が始まるが、明らかに鬼石さんが劣勢だった。

 黒い靄の長いリーチをどうにかしようと鬼石さんは奮闘するが、鞭のように自在に動く腕を捕らえられずにいた。


「まどろっこしいな。懐に入れば蹴りはつくよな、鬼石流炎技(おにしりゅうえんぎ) 牙炎(がえん)


 捕らえるのを諦め、一気に距離を詰めた鬼石さんの腕は炎を纏い、銃弾の様に黒い靄を打ち抜いた。


「秋良この後用事あるか? 今回の事をお前には話して――」


「鬼石さん危ない!」


 決着がついたと思ったが、そんなことはなかった。

 間山を殴った時とは比較にならない程の攻撃を受けたのに、黒い靄は平然と立ち上がり、攻撃をしてきた。


「コベットじゃなくてカルマだったか。秋良、悪いがもう少し待っててくれ」


 コベットやカルマが何かわからないが、流れが悪い方に進んでいる気がした。


 そしてそれは正解だった。

 自滅覚悟でさっきの技を何度も繰り出すが、その全てが決定打にはなっていない。

 それに引き換え、無理に攻撃を仕掛けたダメージが鬼石さんに刻まれている。


「鬼石流炎技 鬼薙ぎ(おになぎ)


 何度目かの攻撃で、黒い靄に蹴りが当たり壁を突き破り飛んでいく。


「大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃないな。それとまだ後ろにいろ、まだ終わってない。くそ、火力不足か」


 鬼石さんの言う通り、飛んで行った方から何かが動く音が聞こえた。

 あの攻撃でもまだ動くの?


「僕に何かできることはある?」


「ない。と言いたいところだけど、意地を張れる状況でもないな」


「何をすればいい?」


「あたしがこれからお前を守る。だからお前はあたしに力を貸してくれ」


「うん。それで何をすればいいんですか?」


 そう聞くと鬼石さんは少しだけ恥ずかしそうな表情を浮かべた。

 僕これから恥ずかしいことされるの?


「言っておくが、これはただの契約だ。別にお前にそういう感情があるとかそういう勘違いはするなよ、絶対だからな!」


 勢いよく捲し立てられ、突然鬼石さんからキスをされた。

 理解できない程に突然で、感触も思い出せない程に一瞬の口づけ。

 思考が追いつかない僕の目の前が、赤白く輝く。


 光が収まると鬼石さんは袴姿になっていた。

 赤と白の袴姿になっていることも驚きだが、何よりも驚いたのは、夕日のように赤く燃える髪から闘牛の様な猛々しい二本の角が生えていた。


「動きにくいな」


「ちょっと、何してるんですか?」


「本気で戦うのに服は邪魔だろ」


「えー……」


 僕がいるのに、何のためらいも無く袴の上を脱ぎ、さらしだけの姿になる。


「鬼石さん、何か動いて――」


「見えてるよ」


 さっきまで避けるので精いっぱいだった攻撃をあっさりと掴む。

 その腕を掴み軽く引っ張ると黒い靄が宙に投げ出され、そのまま地面にたたきつけられた。

 どんな攻撃も通用しなかったはずなのに、その一撃で黒い靄はかなりのダメージを負ったらしい。


「決着だ。鬼石流居合術おにしりゅういあいじゅつ 地裂き・炎月(ちさき・えんげつ)


 地面に着くほどに体を沈め、いつの間にか腰に差されていた刀を抜く。

 そう思った瞬間に唾鳴りが聞こえ、赤い月の残像が見えた。

 残像が消えると黒い靄は真っ二つに切られていた。


「消滅は確認したし、秋良はこれから時間は取れるか? 取れるなら今日の内に話をしておきたい」


「あの、角、生えてます?」


「怖いか?」


「怖くはないです」


 なぜか怖さは感じなかった。

 驚きはしたけど、黒い靄を見た様な恐怖心は一切ない。


「じゃあ、行こう」


 歩き出した鬼石さんの姿は制服姿に戻っていて、気がつくと周囲からは人の気配が感じられた。



「ここがあたしの家」


 そう言われて案内されたのは立派な和風の豪邸だった。


「本当にお嬢様だったんですね」


「道場も併設してるからこのくらいじゃないとダメなんだよ」


「だからあんなに強かったんですね」


 そう言えば技とかも言ってたな、確か鬼石流だっけか。


「半分は稽古のおかげもあると思うけどね。もう半分はこっちだ」


 さっきの鬼みたいなのがもう半分なんだ。

 歩いている間に冷静になるとさっきのが夢だったんじゃないかと思えてくる。


「ばあちゃん呼んでくるから、ここで待ってて」


 客間らしき場所に通されるが、その広さに圧倒される。

 ざっと十畳を超える広さ、外に見えるのは庭園らしき庭。

 テレビでしか見たことない場所に自分の場違いさが浮き立つ。


「ばあちゃんって言ってたけど、極道みたいな人だったらどうしよう」


「それはどのような方でしょうか?」


「黒い着物着て目つきが鋭い感じの、いかにも極道って、感じの……?」


 僕、今誰と話してるんだろう……。


「そのような服に着替えてきた方がいいですか?」


 そこにいたのは想像とは真逆の老人だった。

 白く落ち着いた模様の着物を着た老女が穏やかな笑みを浮かべ、僕の後ろでお茶を入れていた。


「私が鬼石焔の祖母、鬼石椿(つばき)と申します」


「同級生の神流秋良です」


「早速ですがあなたがお持ちの装飾品を見せていただけますか?」


 首からかけているネックレスをテーブルに置く。


「確かにこれは鍵ですね」


「あの、それって一体何なんですか?」


 ネックレスと僕は言ってるけど、一個のリングがチェーンについているだけの、凄く安っぽい物だ。

 これに一体何があるんだろう。


「あの子は何の説明もしていないんですね。それなのに契約までするなんて。では、最初からお話いたします」



「――以上が私達鬼石家の役割とこの鍵のお話になります」


「すいません、ちょっと話が大きすぎます」


 長い話を聞いて最初に出たのがそれだった。


 おばあさんの話を要約すると、この世界には僕達の住む現世(うつしよ)、死者が済む幽世(かくりよ)、そしてその二つの世界を管理する外界(がいかい)が存在しているらしい。

 その外界で、現世と幽世を統合しようとしているヴァクダと呼ばれる存在で、今のままでいいというメリヨルという存在が争いを始めた。

 そのメリヨルは、外界からの干渉を防ぐため二つの世界に門を作り鍵をかけ、鍵を門の内側に投げ入れた。

 その鍵がこの小さな指輪らしい。

 門の鍵を手に入れるため、ヴァクダは同じように自分の力をわずかにこちらに送り込んだのが、さっき襲われたカルマ。

 そのカルマから鍵を守る役に着いたのが、元々現世をコベットって化物から現世を守っていた鬼石家らしい。


 そんなスケールの話をされても、凡人の僕には話についていけない。


「そうでしょうね。そのお話をするために本日は来ていただきました」


「話は終わった? そろそろ晩ご飯の支度するけど、秋良は食べていくか?」


「えっ?」


「そのリアクションはあたしが家事するなんてってことだよな?」


 正直そうです。

 そんなに割烹着姿が似合うとは思っていませんでした。


「だから見た目は氷美湖(ひみこ)を見習いなさいって言っているでしょう?」


 氷美湖ってどこかで聞いたことがあるような……。


「ああ、氷美湖って生徒会長か」


「今更気づいたのか? 氷美湖はあたしの双子の妹だぞ」


「結びつかないですよ……」


 テストは常に上位、運動神経抜群で生徒どころか先生からの信頼も厚い、僕と同じクラスだけど一度も話したことがない高嶺の花。

 そんな生徒会長と、近隣の学生全員に恐れられている鬼石さんが結びつかなくても不思議じゃない。

 言われれば確かに顔は同じだけど、他人の空似くらいに思ってた。


「まあいいや、それで食ってくのか?」


「今日は遠慮しておきます。さっきの話を聞いて少し自分で考えたくて」


「そうか、それなら送って行くよ。秋良が帰る道を知っておいた方が役に立つだろうしな」


「じゃあ、お願いします」


 言葉だけを聞くと質の悪い不良に目を付けられた感があるけど、さっきのに襲われたら俺にはどうしようもないしな。

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