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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
二章 十纏
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19話 開花

 次の日も僕は霊山くんをいじめから守るために、彼を探していた。

 逃げそうな場所を探したけど、彼はどこにもいない。


 もう捕まってるのかな?

 それとも、昨日の今日だし、いじめはやめたってことかな?


「ねえ、霊山くん知らない?」


「さっき一人で校舎裏に行くの見たよ?」


「それ、本当?」


「本当だよ、嘘吐く必要ないだろ」


 近くにいた生徒から聞いた情報は、僕もまだ見ていない場所だった。

 校舎裏は僕も何度か連れて行かれた経験がある。

 あそこは人目につかないし、殴られるときは大体そこだった。

 そんないじめられやすい場所に自分から行った?

 脅されてる?


 教えてくれた生徒にお礼を言い、急いで校舎裏に向かう。

 すると、校舎裏から叫び声が聞こえた。


「霊山く、ん……!」


 そこに在った光景は、想像していなかった。

 昨日と同じ三人の内、一人は真っ赤な手を抑え叫び、他の二人は恐怖で小さく丸まっている。

 そいつらを見下ろす霊山くんの手には、赤黒い液体が滴る大きなナイフが握られていた。


「何してるの?」


「仕返しに決まってるだろ? 僕をいじめていた奴らをいじめてやろうとしたんだ。神流なら僕の気持ちわかるだろ?」


「わかんないよ。僕はそこまでやろうと思ったことはないよ」


「そうだよな、お前には強い仲間がいるもんな。僕とは違ったんだっけ。あはは、勝手に僕が仲間意識持ってただけか」


 笑っているようで目が笑っていない、不気味な笑い方に見覚えがある。

 間山だ。

 焔さんに最初に会った時、カルマが宿っていた間山と同じ雰囲気がする。


「僕はお前にもムカついてたんだよ。同じ様にいじめられていたのにさ、お前だけ助かって、対等だと思っていたのに、お前に助けられる僕の怒りがお前にわかるか!?」


「わかるはずないよ。僕と霊山くんは違うんだから、わかるはずない」


 霊山くんの今の気持ちが、僕にはわからない。

 でもきっと今の霊山くんは、どこかかで間違った僕だ。

 僕は歩みを進め、怪我をした一人にハンカチを渡す。


「早く病院に行った方がいいよ。これに懲りたらいじめはやめた方がいい」


 震えるように首を縦に振る三人は、どこかに走り去っていった。


「あんなのにも手を差し伸べるんだ。流石偽善者だ、ムカつくよ」


「ごめん」


「今更ナイフにビビってもお前も俺は許さないぞ」


「もっと早く気づいてればよかった」


 きっと浮かれてた。

 焔さんに好きだと言ってもらえて、いじめが止まって、強くなれて、僕は浮かれてた。

 浮かれて周りを見てなかった。

 前に氷美湖さんが言ってたのはこう言うことなんだな。

 他人の機微に気をつけろってこういうことなんだ。


「お前は本当にムカつく!」


 振り下ろされるナイフは、足を少し引くだけで避けられた。

 地面に刺さったナイフを掴む手を狙うと、霊山くんはあっさり手を離す。

 ナイフを強く何度か踏み、地面に柄まで埋める。


「なんで、お前だけ……、なんで僕なんだよ! なんでお前じゃなくて僕なんだよ!」


「僕も、そう思うよ」


 我武者羅に突っ込んできた霊山くんを、一本背負いで投げ飛ばす。


「今度は僕がなるよ。焔さんが僕にしてくれたことを、今度は僕が君にする番だ」


 手を差し伸べる。

 僕が貰ったものを、今度は君にしてあげるんだ。


 でも、霊山くんは僕の手を払う。


「お前の手は借りない。僕は、僕の仲間はお前じゃない! 調さんだけだ!」


 そのまま走り去る霊山くんを僕は見ているだけしかできなかった。



 昼の事件はあっという間に学校中に広がり、学校は緊急会議を開くことになり、僕達生徒はそのまま帰宅させられた。

 その帰り道に、焔さんと氷美湖さんに事のいきさつを説明した。


「あの騒ぎは、そう言うことだったのか」


「私は刺された奴らの自業自得だと思うけどね、今までの付けが返って来ただけでしょ」


「そっちは当事者同士の問題だが、気になるのは、秋良の感じたカルマっぽい気配と、ナイフを渡した調って奴の事だな」


「私も調べたけど、ウチの生徒じゃないわね。もちろん、教師でもないわ」


「カルマが関連してるってことは、残りの三毒かもしれないな。あたしは荷物を置いたら霊山を探しに行く」


「それならあたしは調について当たってみようかな」


「秋良はどうする?」


「僕も霊山くんを探しに行きます」


 今度こそ、彼は僕が止めて見せる。



「ムカつく! ムカつく! ムカつく!」


 あいつは何様だ、なんで僕の邪魔をする!

 怒りに任せ、僕は公園の木を蹴り続けた。

 もう少しであの三人を殺せたのに、なんで邪魔をするんだよ。

 あんな奴ら、いなくなった方がマシじゃないか。


「こんにちは、ここで何をしているのかな?」


「調さん、なんでこんな時間に?」


「病院の帰りだよ。それより、君こそなんでこんなところにいるんだい? まだ学校のはずだろ?」


 僕は、調さんに全てを伝えた。


「それは残念だったね」


「あいつがいなければ、あいつさえいなければ! 調さん、僕はこれからどうしたらいいと思います?」


 調さんに聞いたが、彼女は冷たい目で僕を見つめているだけだった。


「調さん? どうかしましたか?」


「あと一歩で咲きそうなんだけど、咲かないな」


「なんのことですか?」


 調さんはもう、僕を見ていない。

 僕の胸を見て、よくわからない言葉を漏らしている。


「無駄に理性が残ってるのか。そのせいで折角植えたのに咲かないのか。中途半端なやつだな」


「それって僕の事ですか?」


「ん? ああ、そうだよ」


 恐る恐る聞いた答えはあまりにも軽い言葉だった。


「蕾に変化が見えるね。なるほど、私自身がストッパーになってたのか」


「調さん、どういうことなんですか?」


「私は人の心に煩悩で育つ種を植えれるんだ。それを君に植えてた、それがいい感じに育ってたのに、咲きそうもなかったんだよ」


「待ってくださいよ……。それじゃあ、僕に優しくしてくれたのは?」


「優しく? そんなことしてないよ。花を育てるのに、鉢植えに優しく奴がいるかい?」


 調さんが優しくしていたのは僕じゃない。

 僕の中にあるっていう種だったんだ……。


「君が私に好意を寄せるのは自由だけど、私にも自由はある。君みたいのはお断りだよ」


 沸々と怒りの感情が沸き上がり、僕は調さんの首に手をかけていた。


「あんた、体が不自由なんだろ? 僕がこの手に力を入れればあんたは死ぬよな?」


「死にたくなかったら、自分を受け入れろってことかな?」


「そうだ。それと謝罪だ! 僕に謝れ」


「だからお前は中途半端なんだよ。言う前に首を絞めればいいのに、無駄に話をしようとする」


 心から殺意が溢れた。

 病的に青白く、枯れ木の様に細い首をへし折るように力を籠めた。


「それが全力?」


 首を絞めたはずなのに、こんなか細い首を折ることもできない。

 指がうっ血するほど、強く締めているのにびくともしない。


「お前の言う通り、私の体は不自由だよ。だけど、人間程度には勝てるんだよ」


 僕の手は抵抗できない程の力で首から離された。


「あんたは誰なんだ?」


「十纏の一人。言ってもわからないよね。今ので花は咲いたし、後は実がなるのを待つだけだ。後は好きにやりなよ。もう、会うことはないだろうけどね」


 僕をゴミの様に放り捨て調さんは去って行った。

 なんで、僕だけこんな目に合わないといけないんだ?

 いじめられて、好きになった人に見捨てられて、なんで僕だけ?

 僕は普通に生きてただけなのに……。


「そうか、全部神流秋良が悪いんだ」


 あいつのせいで僕の周りが変わったんだ。

 あいつさえいなくなれば、僕は少し楽になれるんだ。

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