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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
二章 十纏
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18話 少女の渡す物

 次の日から、僕は霊山くんを助けるように行動を始めた。

 今日だけで朝と昼の二回、助けに入ることができた。

 放課後になって、一緒に帰ろうと声をかけようとしたけど、早々に帰ってしまったらしい。

 焔さん達には先に帰ってもらったし、久しぶりに一人での下校になった。


 真直ぐ道場に向かおうかと思ったけど、今日発売の漫画あったことを思い出し、先に本屋に向かうことにした。

 寄り道をする時以外では来ない道を通ると、公園に見慣れた制服が三人、誰かを蹴っているように見えた。


「何してるの?」


「なんだ、神流かよ。また人助けか? 正義の味方は大変だな」


「霊山くん、ここは僕に任せて早く行って」


「神流、お前何様のつもりだ? そういうのムカつくんだよ、いじめられなくなって、自分が強くなったとでも思ってるのか?」


「そうだよ。いじめをする奴に立ち向かうくらいには強くなったよ」


「そうかよ!」


 師匠達よりもずっと遅いパンチを掴み、反対方向に投げた。

 不格好に転がった一人は、顔を真っ赤にしてすぐに立ち上がる。


「ふざけたことしやがって」


 そいつに向かって構えると、背後からいきなり殴られた。


「俺達が三人いるの忘れてないよな?」


「そうだったね」


 勝手に一対一だと思ってたけど、向こうにしたらそうなるよな。

 拙いなこれ、勝てないやつだ、一対一でも勝てるかわからないのに一対三は無理だ。


「神流、面白そうなことしてんな」


「揖斐川くん、なんでこっちにいるの?」


「これから道場行くんだよ」


 よかった、これで揖斐川くんの力を借りれば、勝てる。


「よかった、お願い助けて」


「なんで俺がお前を助けないといけないんだ?」


 一瞬なんで? と思ったけど、まあ、そうなるよね。

 揖斐川くんは僕のこと敵視してるし、しょうがないと言えばしょうがないか。


「揖斐川、何もしないならさっさと行けよ。俺達はこいつに用があるんグフッ……」


「誰にそんな口聞いてんだよ」


 揖斐川くんは声をかけた一人の顔を躊躇いなく殴り、一人がそのまま倒れた。


「お前、何もしないんじゃないのかよ」


「命令されてムカついたから殴っただけだ。お前よりも俺の方が上だ、口の利き方に気をつけろ」


 やっぱり揖斐川くんは強い。

 たった一撃で、この場を支配した。

 でも、これなら上手くいけば逃げられるかも。


「そんじゃ、さっさと終わらせてくれ。俺はここで見てるから」


「一緒に戦ってくれるんじゃないの?」


「だから、なんで俺がお前を助けないといけないんだ?」


「じゃあ、なんでそこにいるの!?」


「お前がボコられたら、鬼石さんの家まで運んでやるためだよ。お前が来ないと鬼石さん探しに来るだろ?」


「そうかもしれないけど……」


 焔さんがいなくならないように待機って、僕を手伝ったら早く終わるんじゃないの?

 僕を助けるのは気が引けるけど、見殺しにはできないから、見守るだけってのが、揖斐川くんなりの妥協ラインなんだろうな。


「いつまで喋ってんだよ! ガフッ……」


 視線と重心にはフェイントはない、さっきと同じで右のストレート。

 それがわかり、手首を掴み内側に押し返すと、相手は綺麗に一回転し、背中から地面に倒れ込んだ。


「ごめん、大丈夫? 支えないで地面にたたきつけちゃった」


 急いで駆け寄り、手を貸すと、なぜか揖斐川くんが大声で笑い始める。


「てめぇはマジでぶっ殺す! うぐっ……」


 起きてすぐに放たれる三度目のストレートを避けて、首元に腕を押し付ける。

 締め落としたら大変だと、すぐに手を離すと揖斐川くんが更に笑い転げる。


「神流が、こんなに、クク、煽るのが上手だとは知らなかったぜ」


 そこで、これが喧嘩だったことを思い出した。

 喧嘩の途中に何度も相手に手を差し伸べられるのが、どんなに屈辱だったか考えてなかった。


「お前も行けよ、二人が相手ならあいつをボコれるかも知れねぇぞ」


 揖斐川くんに背中を押された一人は、僕と倒れている一人を見て首を振った。


「おい、もう行こうぜ。こんなことしてもしょうがねぇだろ」


 諦めてくれたらしく、一人が伸びている一人を担ぐと、僕にやられた一人も、頷き帰って行った。


「おら、終わったなら早く行くぞ」


「うん」


 初めての喧嘩は心が震えた。

 相手を投げたという感触よりも、相手に勝てたという事実が僕の気持ちを高揚させる。


「揖斐川くんは、僕が勝つってわかってたの?」


「ボコられればいいと思ってた」


 素直な感想ありがとうございます。

 たぶん、揖斐川くんが一人倒してくれなかったら、そうなってました。

 もう一人は、僕よりも揖斐川くんを警戒してたし。


「喧嘩の原因は何だったんだ?」


「霊山くんがいじめられてて、それを助けに入ったらああなったんだ」


「お前以外に誰もいなかったじゃねぇか、そいつはお前を置いて逃げたのか?」


「そうなるかな。それが目的だし、別にいいんだけど」


「つまんねぇ理由だな、おら、急ぐぞ」


 焔さん達に今日の出来事を伝えると、みんなが助けたことを褒めてくれると同時に、喧嘩したことを思いっきり叱られた。



 僕は、夜になるのを待った。

 調さんが近くを通る音を聞き逃さないようにしていた。

 音が聞こえ、僕はまた家を飛び出す。


「やあ、こんばんは。二日連続で深夜徘徊とは、不良になってしまったのかな?」


「違います。また、あいつがしゃしゃり出てきて、ムカついて」


「それじゃあ、公園に行くまでの間に聞かせておくれ」


 調さんは、僕の話を黙って聞いてくれた。


「それは屈辱だね、君が苛立つのは当然だ。でも、順調じゃないか。そいつに盾をやらせることには成功している」


「僕だってバックに誰かがいれば、あんな奴らにいじめられないのに」


「君がみんなに恐れられればいいんだろ?」


「何かあるの?」


 僕のつぶやきに答え、背中から取り出したのは大き目なナイフだった。


「護身用だよ。これを相手のどこでもいいから突き立てればいい。人間が一番恐れるのは、自分の命を奪われるかもしれない奴だ。いいかい、大事なのはためらわないことだ。武器をためらわないで振るうことができれば、君は周りから一目置かれる。その鬼石焔って奴と同じくらいにね」


 手渡されたナイフはズシリと重い。

 これがあれば、僕は他の奴らからいじめられない。

 不思議な高揚感が僕を包む。


「試しに、そこの木を刺してみなよ」


「はい」


 包まれた布を取ると、銀色の刃が街灯の光を鈍く反射させる。

 ナイフを逆手に持ち、何度も何度も木に突き立てる。

 重い感触が木を裂いていく感覚が、気持ちいい。

 ザクザクと木や土に突き刺す。


「こんなに種が順調に育ってるのは始めてだ」


「何か言いました?」


「気に入ったみたいだから、それは君にあげるよ」


「ありがとう、ございます。これであいつらなんて怖くない」


「次に会った時に、どうなったか教えてね」


 これで今度こそ、あいつらに復讐してやろう。

 その時あいつらはどんな顔するんだろう。

 明日のあいつらの怯えた表情を想像するだけで、怒りは興奮に変わっていく。

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