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爺ちゃんの形見は世界の鍵でした。  作者: 柚木
一章 門番との出会い
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10話 強くなりたい理由

「土蜘蛛が瞬殺されちゃった」


「次はあんたの番よ」


 百目木虚は体から力を抜き、とんとんと足で謎のリズムを刻みだした。


「顕現装束 大蛇(だいじゃ)


 蛇を身に纏い、何をするのかと身構えるが、百目木虚は鬼石さんに向かっていく。

 予想外の動きに戸惑った鬼石さんの薙刀に大蛇はくるりと巻き付き、一直線に腕を目指す。

 咄嗟に薙刀を放すが、もう百目木虚は鬼石さんの懐に入り込んでいた。


「判断が遅いよね」


 掴みかかる鬼石さんを無視し、僕に向かい方向を変えてくる。

 狙いは最初から僕?


「そっちは判断ミスだけどね。鬼石流氷術 樹氷(じゅひょう)


 氷でできた一本の木が、僕を包むように生え、百目木虚の攻撃を防いでくれた。

 鬼石さんは、その隙に大蛇を踏みつけ薙刀を拾いなおし、攻撃に移ると一気に形勢は逆転した。

 最初は当たらなかった攻撃も、確実に百目木虚を捉え始めていた。


「羨ましいよね。ピンチになると奇跡の復活って、ありきたりができて、羨ましい」


「あんたみたいなのにはそう見えるんでしょうね」


「顕現装束 天龍(てんりゅう)


 一体の龍が、校舎を壊しながら天高く舞い上がる。


「今日はこれで帰る。どれだけ強いかわかったし、今度は殺すから」


 いつの間にか龍に乗っていた百目木虚は、そのまま遠くに飛んで行った。



 急いで焔さんと合流すると、龍が出現すると、百目木現も龍の出現と一緒に逃げて行ったらしい。


「双子で三毒か。あたしが聞いてた三毒とは違うってことか」


「そうみたい。それにどっちかが弱いってわけじゃないみたいだし」


「あの、焔さんは大丈夫ですか?」


「このくらいならすぐに治るよ。こんなのじいちゃんの扱きに比べたらかすり傷だ。それよりも秋良の方が痛そうだぞ」


「僕のは二人ほどじゃないですよ」


 すでに領分も消え、どれだけの戦闘が行われていたかわからない。

 でも、焔さんの体に刻まれた傷が戦闘の激しさを物語っている。


「ところで、二人は契約したのか?」


「な、何を聞いてるの?」


「その反応はしたみたいだな。こっちと同じくらいって言うなら契約してない氷美湖が勝てるはずはないよなって思ってな」


「ええ、しましたよ。仕方なく、本当に仕方なくだからね。私が意地を張ったせいで大事な鍵が奪われるなんてあってはいけないから。神流にそういう感情は一切ないからそこだけはしっかり肝に銘じておきなさいよね」


「はい、わかりました」


 僕も別にそこは嘘だと思ってなかったんですけど。


「そうか、あたしは秋良の事好きだぞ。最初は情けないと思ったけどな、こいつには勇気がある」


 ぐいっと、焔さんに抱きしめられる。

 あんなに強いとは思えない柔らかさ、戦闘の後なのに、埃っぽさよりも強い焔さんの爽やかな甘い匂い。


「お姉ちゃん、それは契約者としてってことだよね?」


「いや、雄として好きだ。秋良の子なら産みたいと思うほどにはな」


「あんた、お姉ちゃんから離れなさい! 今すぐ、大至急よ!」


 ぶんとゴミの様に投げ捨てられ、机に盛大に突っ込んだ。

 僕、何も悪いことしてないんですけど。


「いい、あんたはこれからお姉ちゃんに近づく時私に話を通すこと!」


「ほう。あたしとの蜜月を防ぐと同時に、自分は秋良と二人の時間を作るとは、中々やるな」


「ち・が・う・か・ら! お姉ちゃんが毒牙にかからないようにしてるだけ!」


 なんか、どんどん鬼石さんの印象が変わっていくな。

 もっと人間味が無いと思ってたけど、そんなこと無かった。


「あんたは何笑ってんのよ。あんたと契約したからこんなことになってんだからね」


「焔さん、鬼石さんは鍵を守るために、僕と契約したんですからあんまりからかわないで上げてください」


「前から言おうと思ってたんだが、あたしも鬼石さんだぞ」


「はい、双子ですからそうですよね」


 二人の家にも行ってるんだからそれは重々承知してる。


「契約したんだし、氷美湖の事も名前で呼んだらいいんじゃないか?」


「僕はいいんですけど、鬼石さんが嫌がるんじゃ」


 僕の事結構嫌がってるみたいだし。


「好きにしたらいいわ。不本意とは言え、契約したことに変わりはないしね」


「じゃあ、僕の事も秋良で良いですよ」


「それは嫌。なんか仲がいいみたいじゃない」


 僕が名前呼ぶのもそんなに変わらないと思うけど……。


「あんたが呼ぶ分にはいいのよ。憧れの生徒会長を名前で呼ぶのは普通でしょ」


 それだと僕は完全にストーカーみたいだな。


「それじゃあ氷美湖さん、これからよろしくお願いします」


 二人と契約し、氷美湖さんに見張られながらの帰り道。

 僕はさっき流れてしまった話題を蒸し返す。


「今からお二人の家に行っていいですか?」


「駄目に決まってるじゃないこの変態」


「なんで罵倒されたんですか……」


「家に来てお姉ちゃんにいかがわしいことするつもりなんでしょ?」


「あたしは大歓迎だぞ。体も頑丈だし、人間同士ではできないこともしてやれる」


「やっぱり変態じゃないの」


「勝手な妄想で、僕を変態に仕上げるのは、やめて貰ってもいいですか? 僕が二人の家に行きたいのは、強くなりたいからです。爺ちゃんほどじゃないにしても、二人の足を引っ張らない程度には、強くなりたいんです。だから、巌さんに稽古をつけてもらえないかなって」


 そうすれば、二人は僕を気にしないで戦える。

 僕が強ければ、氷美湖さんが怪我をしなくてもよかったかもしれない。


「あたし達が怪我をしたのはあたし達がまだ弱いからだ。秋良の力がどうってわけじゃない。秋良のじいちゃんができたからって秋良がやる必要はないんだ」


「全く戦闘もできないで後ろに隠れてた、って人も昔はいたわよ。寧ろ、アイザックさんみたいな方が特殊なの」


「そうだとしても、僕は、僕のせいで、二人が傷つくのを見ていたくはないです。僕は二人を大事な友達だと思ってます。二人から見たら、今だけの契約って関係だとしても僕は友達だと思ってます」


 厚かましいと思われても、やっぱり二人が傷ついた姿を見ているのは、自分が傷つくよりも痛い。


「あの、この手は何でしょうか」


 頭が尋常じゃない力で押さえつけられて足元しか見えない。


「ならこれから家に来い、じいちゃんに話通してみるから」


「習うからには死に物狂いで頑張りなさいよ。こっちの世界は厳しいわよ」


 鬼石邸に着くまでの間、僕の頭は二人に押さえつけられたままだった。

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