表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/60

繫ぎの王妃⑤

その夜からバーネットは同じ夢を見続けた。

どこか見たことも聞いたことも行ったこともない場所。

深い深い谷底まで続く石階段の前に彼女は立っていた。

毎晩毎晩、バーネットは繰り返しその階段の夢を見て、そして少しずつ彼女はその崖の下へ下へと降りて行った。


普通ならそんな怪しい場所へと足を踏み入れることなどない。なのに不思議と恐怖は彼女の心にはなかった。


『おいで。お前を待っているよ』


冷たい地の底から響く声は、普通なら恐ろしいと感じるところだが、不思議と彼女は怖いとは思わなかった。


時間が来て、朝になると夢は覚める。そしてまた次の夜、物語の続きのように昨晩終わった場所から夢は始まる。


『おいで、おいで』


そう声が呼び続ける。


その階段は長い間誰も足を踏み入れていなかったのだろうか。階段の石を覆う苔がそれを物語る。

夢なのだから、転んでも怪我はしないだろう。そう思いながらも転んだらどうなるのかわからないため、慎重にバーネットは岩に掴まりながら降りて行った。


そしてようやく谷底に辿り着いた。


『こっち、こっちへ』


声のする方へと導かれるようにバーネットは歩いて行った。

ようやく彼女が辿り着いた先には、棘の茨を体中に巻き付かせた美しい女性が浮かんでいた。


しっかりと大地に根を張った茨がその太い幹をくねらせて、その棘を彼女の体に食い込ませている。

どれほどの苦痛だろうか。

幹の間から除く女性の顔には生気がない。生きているのか死んでいるのかもわからない。


美しいその顔に、バーネットは見覚えたあった。


「女神・・トリシュ?」


この世界の殆どの国が信仰している女神。目の前の女性はその女神像にそっくりだった。


しかしそんな筈はない。


そう思っていると、女性の瞼が僅かに震えてパチリと目を開けた。


真っ黒に塗りつぶされたような目。普通ならある筈の瞳も無い、ただ真っ暗な穴。


バーネットはその目に吸い込まれるように近づいていった。


透き通るような青白い肌。茨に絡みつく白く長い髪。青白い唇の中で、目だけが真っ黒なその女性は、バーネットがすぐ側で立ち止まると、ニタリと口角を上げて赤い舌を見せて笑った。


『我が名はオルケイラ』

「オル・・ケイラ?」


女神トリシュによく似ていて、しかし彼女では無いと思った時から、バーネットは彼女が何者か気づいていた。


『ようやく、会えたな。そなたが来るのを待っていた』


唇は動いていない。その声はバーネットの頭に直接響いてきた。


「待っていた?」


その言葉を聞いて、彼女は王妃から聞いた「あの方」という言葉が浮かんだ。


『そなたの思っているとおりだ』


考えを読まれたと気づいたが、驚かなかった。相手は女神なのだ。人の常識では計れないことを理解している。


「なぜ、私を?」


『そなたが選ばれた者だからだ』

「選ばれた?」

『そうだ。世の中では『月宮の主』こそが選ばれた存在のように思っているが、それは違う。そなたらこそが真実選ばれた存在なのだ』


その言葉に彼女は目を見開いた。自分が「選ばれた存在」? 「月宮の主」ではなく?


『すぐには信じられないだろうが、真実だ。ウッ』


その時茨の幹が蠢いた。そしてズブリと棘が彼女の体にさらに食い込んだ。


「だ、大丈夫ですか!」


その傷みを想像してバーネットは苦痛に顔を歪めた。


『この茨は我の力を吸って存在し続けている。水もない。光も届かないこの場所でこの茨は我の力を糧にしている』

「そ、そんな・・」

『もう何千年。我はこの場所でこうしている。そして我の力を吸ったこの茨も、ずっと我を拘束し続けている』


それはまさに茨の檻。女神の力を吸い続けてきた茨は、すでにただの茨ではない。己の養分が不足すると、こうして彼女から搾り取るのだと彼女は言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ