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繋ぎの王妃②

部屋の向こうから話し声が聞こえる。


「・・のに。まさかこんなこと」


あれは王妃様?


エステバンの母であり、彼女の義母であり、バイルシュタインの王妃、アーリチェ様の声だった。


エステバンの見舞いも断っていたバーネットは、当然彼女の見舞いも断っていた。さすがに申し訳ないと思いながら、話している間に吐き気が襲ってきては、かえって不快にさせてしまうと思って断ったのだった。


「丈夫なのが取り柄だと聞いていたのに、とんだ大誤算だわ。あんな山猿の貧乏国の王女をエステバンの嫁に迎えたのは、元気な男の子を産んでくれると思ったからなのに、あれでは無事に出産できるかどうかも怪しい」


聞き間違いだろうか。

彼女が知っている王妃はいつもたおやかで柔らかい笑みを浮かべていた。

バーネットが嫁いでから住んでいたのは、王太子宮の離れ。そこは滅多に人が訪れることがなかった。

王女と言ってもろくに作法も知らなかった彼女は、そこで家庭教師をつけてもらっていた。

本来なら嫁ぐ前に身につけておくべきものだったが、生きていくために必要な知識はあっても、王妃としての品格には欠けていた。

それも彼女の実家の事情を考えれば仕方ないことだったが、そのことで王妃は彼女を咎めたりはしなかった。


(お優しい王妃様。国王陛下も立派な方だし、何よりエステバン様がとても大事にしてくださる。私はとても幸せだわ)


そう思っていたが、今耳にした言葉は本当にあの王妃様なのだろうか。

悪阻の苦しさで聞き間違ったのだろうか。

そう思って聞き耳を立てた。


「それで、お腹の子は大丈夫なの?」

「はい。今のところは。しかし、このまま悪阻が収らなければ保証はできません」


もう一人は宮廷の侍医のようだ。

お腹の子のことを言っている。自分もこのままではお腹の子の命を危険に晒すことはわかっていた。


「私の、エステバン様との子ども」


苦しい悪阻も何とか耐えられているのは、それがお腹に子どもがいる証だからだ。この苦しみがあるから、胎児が今もお腹にいるのだとわかる。


「何としても持ちこたえさせなさい。それが『繫ぎの王妃』の唯一の存在意義なのですから」

「は、承知いたしました」

「頼みましたよ」


足音が遠のくと、扉が開いて誰かが入ってきたため、慌てて寝たふりをした。


「繫ぎの王妃」? どういう意味だろう。


目を瞑って今聞いた話の内容について考える。


「『繫ぎの王妃』の分際で偉そうに。自分が王子を産んだからと言っても、所詮は『月宮の主』でないくせに」


そんな悪態が聞こえてきて、我が耳を疑った。王妃様のことを言っているの? なんて苦々しい口調かしら。


「二代続けて『繫ぎの王妃』とは、この国はどうなるのか。せめて世継ぎの王子を産んで頂かないと、この国の未来は真っ暗だ」


それが「繫ぎの王妃」という言葉と「月宮の主」という言葉を聞いた最初だった。


一ヶ月も経つと、悪阻は嘘のように収まった。しかし最初にあんなに寝込んでしまったため、出産までは大事を取るようにと医師から忠告された。


あんな悪態を吐くような人に診てもらうのは嫌な気分だったが、嫌だという理由も言えず、ひたすら我慢した。

悪阻が収まると、生来動き回るのが好きなバーネットは、いつまでも部屋に閉じこもっていることに耐えられず、ひっそりと隠れて散歩するのが日課になっていた。


「王太子妃様、ようやく悪阻が収まったみたいね」


庭を歩いているとそんな侍女達の話し声が聞こえてきた。


「一時はどうなるかと思ったわ」


侍女達にも心配させていたらしく、心配を掛けてごめんなさいという気持ちになった。


「でも王妃様といい、王太子妃様と言い『繋ぎの王妃』様の出産はいつも大変だわ。これも何かの呪いかしら」

「し、滅多なことを言っては駄目よ」


別の女性がその発言について忠告する。

呪い? 今呪いって言った? え、聞いていないのだけど。

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