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狐とたぬき

「面白いことをおっしゃるのね」

「母上、面白がることではありません」


マリオンは言葉を失い、リュシオンがそんな母親に注意する。

そして陽妃にも、きつく言い放つ。


「この国ではそのような思想は危険と見なされます。口を慎みなさい。これ以上の失言は処罰の対象となりますよ」


マリオンよりは大人しめな言い方だったが、その体からは静かな怒気が立ち込めている。

赤い炎のようなマリオンの怒りに対し、リュシオンの怒りは青い炎のようだ。


「これ以上話していると本気で息子達から怒られてしまうわね」


口調は軽いが、ここらが潮時だと彼女も理解しているようだ。

陽妃もこれ以上「月宮」を愚弄すると、本気で怒られかねない。

先ほどより黒い靄が薄れてきているが、まだそれは彼女の周りに纏わり付いているのが見える。

彼女の感情の起伏によりそれらは蠢く。ただ彼女に取り憑いているのではなく、それはもっと深いところで王妃と繋がっているのだろう。

もしくは彼女の内から溢れてきているのか。


「あの、私からひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか」

「まあ、何かしら」

「王妃様はここ一年、足繁く温室へ通われているとお聞きしました。何のためにいっらっしゃるのでしょうか」


ここは直球で聞いてみることにした。


「何のため? 奇妙なことをおっしゃるのね。温室にある花や木々を見に行っているに決まっているでしょう」


普通の温室ならそうだが、彼女が通う場所は普通の場所では無い。


「そうですか」


陽妃もそれ以上は追求しなかった。言いたくないならそれでいい。他を当たるまでだ。


「質問はそれだけ?」

「今のところは」

「まあ、恐ろしいわね」


口調は軽いが目は笑っていない。

しかし陽妃は「温室」の言葉に、王妃の頬が痙攣したのを見逃さなかった。


他の人にはただの温室。王子たちも庭師も、あそこには壁しか見えていない。あの薄暗さも感じていない。でも陽妃が何か他の人とは違うものを感じていることは、彼女も気づいている。


(これが狐と狸の化かし合い?)


どっちが狐で狸か。あちらが狐。陽妃が狸と言ったところだろうか。

ゴリラに狐、狸。動物園だな。


そんな皮肉に内心一人ツッコミする。


「王妃様」

「ええ」


それまで離れたところに立っていた女性が王妃に近づいてきた。


「陽が陰ってきたわね。お付き合いありがとう。あなたたちも、いつまでもをブラブラしていないで、さっさと仕事に戻りなさい」


チクリと嫌味も忘れない。

陽妃といることが無駄な時間だと言いたいのだろう。


「わかりました、母上」

「わかっています」


立ち去る王妃の背中を見送って、二人の王子たちはふうっと息を吐いた。


「ヒヤヒヤしたぞ。初めて竜の背に乗った時より緊張した。俺が先に諌めなければ、どうなっていたか」

「そうです。兄上が口を挟まなければ、あなたは大変なことになっていましたよ」

「どうなっていたか、とは?」

「一国の王妃にあのような物言いをして、ただで済むと思っていたのですか。怖い物知らずにも程があります」

「母上はああ見えて北の山間にある部族の出身で、昔は大イノシシを一人で倒したこともある武人だ」

「へえ、そんな風には見えなかったけど」


そんな猛者だとは知らなかった。今の王妃はその面影もないくらいやつれていた。



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