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見えない壁

「それで、温室で何をするのだ?」

「殿下はここには良く来られるのですか?」

「俺が先に訊いているのだが」


質問を質問で返されて彼は不機嫌になる。

というか、陽妃に対しては大半が不機嫌な顔しか見せていない。陽妃も別に彼に笑顔を見せてほしいとか、気に入られたいとか思っていないので気にはならない。

その素っ気ない態度がマリオンの関心を引き出しているとは思っていない。

そもそも陽妃は人との付き合いにおいて経験が足りていない。

人生のうちで彼女は大人に囲まれていることが多く、同年代の中では浮いた存在だったからだ。


「良く来られるなら案内していただこうと思ったのですが、そうではなさそうですね」


彼の反応を見ればわかる。ちらりと彼を横目で見て、ふうっとため息を吐く。ここまでの人払いに同行してもらっただけなので、それほど落胆はしていない。


「こちらです」

「わかった」


紫水もマリオンを無視して陽妃の手を引いて奥に連れて行く。


「おい、俺の質問に答える気は無いのか」


強めに言った言葉も聞こえない筈はないのに、二人はどんどん奥へと向かって行った。


「まったく、腹立たしい」


白銀と石榴がそんな三人の様子をオロオロしながら見ていたが、マリオンはぼやきはしたものの、彼女が何をしようとしているのか好奇心の方が勝り、黙ってついていった。


紫水に連れられて奥へ向かって行くと、禍々しい気配がだんだん強くなって行くのがわかった。


「あそこね」


一段と大きな樹木が聳えるその一角は、彼女だけに見えるどす黒い靄がかかっていた。


「こんな何もない場所に来て何をするつもりだ?」


後ろから少し遅れてやってきたマリオンが声を掛けた。


「殿下には何が見えますか?」


陽妃が振り返り、靄が立ち込める場所を指差しマリオンに訊ねた。


「またこっちが訊いているのに質問か。何も無い壁だ」


少し苛ついた言い方をしながらマリオンは正直に見たままの様子を告げた。


「そうか、あなたにはそう見えるんですね」

「どういうことだ?」

「私には朽ちかけて真っ黒な靄に覆われた大木が見えます」


マリオンは、自分にはただの壁にしか見えないその場所を見上げた陽妃の言葉にもう一度その場所を見た。

目を細め、じっとその場所を睨んでみるが、やはり壁があるだけだ。

そもそも生まれてから温室に足を運んだことは数えるほどしかないマリオンは、そこが壁だったかどうかも憶えていない。


「温室は母上が昔よく来ていた。最近はどうかわからない。俺も公務や竜騎士としての任務が忙しくで母上ともたまに食事を共にするが、そんな話はしたことがない」

「まあ、男の子と母親ってそんなものだと聞くし、興味もないでしょうからね」


言葉の裏に役立たずだと言われているように聞こえたのは気のせいだろうか。


「もし、君の言うようにここにそんなものがあるなら、ここに認識阻害の魔法を施しているということか。俺に見えないなら余程の魔力を持った人物が掛けたと言うことか」

「魔法とは言い切れません」

「どういうことだ?」


陽妃はその問いには答えず、ゆっくりと大木に近づいていく。


「今度は無視か」

「え、何か言いましたか?」

「いや、何も」


今度はマリオンがため息を吐く番だった。

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