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日本の母

小さい頃、陽妃は死んだ者と生きている者の区別がつかなかった。

その子は陽妃が入退院を繰り返していた病院の中庭にいた。

ぽつんとベンチに腰掛けて何かを待っているのか、通りを眺めては落胆している。

今思えばその子には影がなかったが、その時の陽妃は知るよしもなかった。

忙しい合間を縫って両親は陽妃に会いに来てくれていたが、それでも毎日と言うわけにもいかず、来られたとしても丸一日側にいてくれることはなく、寂しさを抱えていた陽妃は彼のことが気になった。


「どうしたの?」


陽妃が声を掛けると、男の子は少し驚いた顔をした。それも霊になった彼に声を掛ける人間がいなかったから、陽妃だからこそ彼の姿が見えて話しかけられのだ。

その子はその病院で亡くなった子で、陽妃と違い滅多に見舞いに来る人がいなかった。

何度か一緒に遊ぶ内に、彼は成仏してしまった。孤独な彼は陽妃が話しかけたことで、思い残すことなくこの世を去ったのだった。


「初恋が幽霊なんて笑えるよね」


恥ずかしくて誰にも言えなかった話を、今陽妃は石榴に漏らした。


「可笑しくはありません。初恋は実らないと申しますし、陽妃様にとっては真面目な話ですから」


そんな陽妃を石榴が慰める。


「まあ、私の恋バナのストックは以上です」


つまらないよね、という陽妃に石榴は首を振る。


「人を思う心につまらないというものはありません」

「ありがとう、初恋の相手が幽霊なんて、ずっと誰にも言えなかったの。紫水はずっと私の側にいたから知っているかもしれないけど」

「どうでしょう。男親というものは娘に対して鈍感なところがありますから。私がこんなことを言っていたことは内緒ですよ」


かつての主君だった相手に失礼な発言だったと石榴が唇に人差し指を立てる。


「女同士の秘密だね」


日本の母の姿に似せた石榴と話をしていると、陽妃は母親といるような懐かしい気持ちになる。


「石榴といると、日本のお母さんを思い出すな」

「私が申すものおかしいですが、お綺麗な方だったのでしょうね」


石榴の姿形は母を模している。母は生粋の日本人だったが、彫りが深く目鼻立ちもはっきりしていて、瞳は薄い茶色。背も高く手足もすらりとしていて、ハーフかとよく間違われた。


「うん、カリスマモデル。美の化身とか言われてパリコレにも出てた。だから海外が多くて、私も色々あったから滅多に会えなかった。でも、帰ってきたら、抱えきれないくらいお土産を買ってきてくれた。一番はギュッと抱きしめてくれた時に、ふわりと良い匂いがするのが好きだった」


中学生の時に街でスカウトされて雑誌モデルから始まり、ショーモデルにまでなった。日本のブランドだけでなく、海外の有名ブランド服の専属モデルとしても活躍した。

出産で二年休業したが、産後太りもせず見事にショーモデルへと返り咲いた。


「カリスマ…とかパリコレはわかりませんが、凄い方なのはわかりました」


母親のことを褒められて陽妃はとても嬉しかった。

父と母の出会いはどこかの有名なブランドのパーティだったと聞いている。

学生時代、学費のためにモデルの経験もあった父は、弱冠二十五歳で既に年商二十億を稼いでいた注目の実業家だった。

そんな二人が出会い恋に落ち、愛を交わした結果生まれたのが陽妃だった。

デキ婚と騒がれたが、二人は「授かり婚」とコメントした。


「陽妃様にとってはご自慢の両親だったのですね」

「そう。でも、もう会えないけど」

「一度繋がった縁は、なかなか切れないと聞きます。今生では無理でも、いずれどこかで再び会えると思います」

「そうかな」

「はい」


生まれ変わってまた会えたとしても、記憶はないだろう。

それでも、巡り巡ってまた会えると思うと、陽妃はその時が楽しみだった。


「ここで陽妃様に取っての幸せを見つけ、生きることがご両親への親孝行ですね」

「そうだね。じゃあ、頑張らないと」


陽妃はそう言ってガッツポーズをした。


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