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契約

 二人(一人と一幽霊)は目の前にそびえる館に向かった。


 館に入ると、フワフワとした影がふたつ近づいてきた。


「旦那様、お帰りなさいませ」


 初老の、白髪混じりの短髪を後ろへ流した男性が丁寧にお辞儀した。


「再びお会いできるとは思っておりませんでした」


 茶色の髪を頭の後ろでお団子に整えた中年の女性もお辞儀して父を迎えた。


 ロマーノ・カレンドゥ子爵。それが生前の陽妃の父の名前。何とお貴族様だった。


(と、いうことは私はお嬢様?)


 白黒ボーダーのカットソーにジーンズのジャンパースカートを着たお嬢様。


「ハリイ、メディア…そなたたち、待っていてくれてのか?」


 ハリイは執事として、メディアは侍女頭として、生前は仕えてくれていた。

 十六年前、子爵家を襲った突然の悲劇。主夫妻も主だった使用人たちも全員が命を落とした事件は、未だに犯人がわかっていない。

 子爵家は残酷なことが起こった館として、住むものもなく、荒れ果てているのである。

 そのあまりの荒れ果てぶりに幽霊屋敷として言われて近寄るものもいないらしい。


「陽妃という。私の娘だ」


 二人の霊はかつての主君の傍らにいる陽妃の方に目を向けた。


「容姿は、あちらの世界の親からのものだから、似ていないが正真正銘私とルネの娘だ」


 そう言って、日本での生活について彼らに説明した。


「お嬢様、ご無事だったのですね。奥様のお腹に宿ったとお聞きした日のことを、昨日のように覚えております。そうですか、奥様が命を賭して護られたのですね。ルネ様の母性愛の強さに感服したしました」


 扉や窓には鍵が掛けられていたが、ロマーノが何事か呟くと、カチリと音を立てて解錠された。


 陽妃が見た始めての魔法だった。


「今まで魔法なんて使ってた?」


 これまで彼は白っぽくフワフワしてただけな存在で、会話は出来たがそれ以上のことは何もなかったことを思いだし尋ねた。


「いや、あちらの世界では魔法の元となるマナが圧倒的に足りない。君の霊力のお陰で私は存在し続けてこられただけだ」

「じゃあ、私ももしかしたら使えるようになるのかなぁ」


 ちょっとわくわくしながら、陽妃は父に連いて広い玄関を抜けて正面にある階段を昇って二階へ行った。


「陽妃、結界を張るなら、これを使いなさい」


 二階の主寝室、かつての父の部屋の衣装棚の扉をあけ、さらにその壁の前で父が呪文を唱えると、中から大量の金貨と宝石類が出できた。

 その壁はあちらで言う隠し金庫だった。呪文をかけた者にしか見つけることも開けることもできないということだった。


「わあ、助かる。こんな大きな宝石見たことないけど」


 人気のない屋敷で、生身の人間は陽妃だけになる。外部からの敵を欺くため、四方に結界を張ることにした。


 結界の鍵となる何かを四方に埋めないといけないので、それにこれらの宝石を使えと父が出してくれたのだ。


「結界に使って構わないの?」

「私たちは必要ないものだ。それに正当な跡継ぎの君がどう使おうと君の自由だ。君が生きてい行くのにお金も必要だろう? ここから少し行けば町もある。これで必要なものを買うといい」


 銅貨30枚で銀貨一枚、銀貨20枚が金貨1枚、銅貨600枚で金貨一枚の価値だという。

 隠し金庫のトランクにはその金貨が一杯に詰め込まれていた。

 父はあちらの世界にいたため、ハリイやメディアも死んでから人の世の(ことわり)とは関係なかったのため、今の相場がどれくらいかわからないということだったので、後で確認に行く必要があった。

 それでもきっとかなりの額になるだろう。


「それと、結界を張る前に、君に頼みたい。私と式の契約を結んで欲しい。ハリイやメディアも異論がなければ、陽妃の張った結界内に留まらせ、往き来させるなら、そうする必要がある」

「それはどういうものなのでしょうか?」


 初めてきく言葉にハリイとメディアが問う。


 式は、いわゆる術者の手足となり、動く使役霊。人だったり獣や虫だったり、術者と契約したものだ。


 式は術者に使役される。その意味は、術者に使われるということ。


「でも、それは…」

「気に病む必要はない。親は子を護るもの、だが私には実体がない。できることに限界もある。式になれば、もっとできることもあろう」


 覚悟を決めた力強い笑みを向けられ、陽妃には拒否する術がない。


「ルネ、亡くなったそなたの母の分も、私に護らせてくれ」


 視界がぼやける。いつの間にか泣いていた。


「先に私との契約を済ませなさい。ハリイたちはそれを見てどうするか決めればいい。このまま亡霊として居続けるか、それとも陽妃の式となるか。またはこの世を去るか」

「わかりました、」


 陽妃の涙が乾くのを待って、陽妃と父の霊は向き合い、契約の印を結んだ。


「以後、汝の名は紫水(しすい)


 契約の完了とともに、父の幽体は一瞬光り輝き輪郭が曖昧になった後、実体を持って現れた。

 生前の面影を残し、だが、より人間離れした美しい容貌に変わっている。紫色の髪はまっすぐに腰まで伸び、新緑の瞳をした紫水と名付けた式はすらりとした長身で、その場に膝を折り深々と陽妃に頭を下げた。

 漢字名にしたのは、よりイメージがわいて馴染みやすいからだった。


「主命に従います」


 式の契約を交わすと、式は術者の希望する姿をとる。


 ロマーノの変わりように、ハリイたちは驚いた。


 二人も契約を望んだ。


「名を白銀(はくぎん)とする」

「名を石榴(ざくろ)とする」


 続いてハリイ、メディアと契約をし、名を与えた。


 肩まで伸びた白髪、琥珀色の瞳をしたハリイ…こと白銀。

 ふんわりとした夕陽のような赤い髪にキャラメル色の瞳をしたメディア…こと石榴。

 二人の面影は、紫水以上に変化を遂げていた。


「日本のご両親に似ていますね」


 紫水が二人の姿を見て囁いた。


「うん、別に意識してなかったんだけど、やっぱりきになってたのかな」


 髪や瞳の色は違えども、二人はそれぞれ日本の両親に似ていた。

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