俺氏、ゲーセンへ行く。
「うわっ、視線が突き刺さる!!」
「カケルと俺が一緒に下校すればこうなるわな」
放課後になり、俺とカケルは一緒に駅前のゲーセンまで向かう事になった。
いやー、しかし周りの視線が凄い。カケルはイケメンで、今の俺は美少女だ。俺たち2人が並んで歩く姿を、道行く人たちのほぼ全員が見てくる。
「カケル、イケメンだからな。そりゃあみんな見るわな」
「主にコータのせいだと思うけれどね」
「と、言いますと?」
「……コータが可愛いすぎるんだよ」
赤面しながらも、はぁと盛大なため息を付くカケルに、俺はいたずら心が芽生えてしまう。
「お?可愛いって思ってくれてたん?」
カケルの右腕に抱きついた。
「うわっ、ちょっと!! 急に抱きつくのは止めてって言ったでしょ!?」
そう言いつつも、振りほどこうとしないのはカケルの優しさなのか、ピュアさゆえなのか。
「ふふん、なに緊張してんの。俺ですよ?コータ君ですよ?」
ニンマリと笑いつつ、俺は胸をぎゅっとカケルの腕に押し付ける。
「どうよ、この感触。最高じゃね?」
「……コータ、あのね、今の君は女の子なんだからさ。そういう事は、その……やめようよ」
ドギマギしながらも正論を言うカケル。だが俺は離さない。親友のピュアピュアな反応の一つ一つが楽しいのだ。
「まぁまぁ、そういう事言わずに……実際、男の時と重心が違ってるせいか、なんか歩きにくいんだ。ちょっとは寄らせろよ」
「そういう事なら……しょうがないなぁ」
苦笑いしつつ、歩調を緩めて俺に合わせてくれるカケル。やっぱりこいつもナイスガイだぜ。
そんな訳でゲーセン到着。放課後のこの時間。中は学生で賑わっている。
俺のバイトやカケルの塾の時間まで1時間もない。ゲーセンでは本当に毎回ちょっとした暇つぶし程度に押さえて遊んでいる。お小遣いやバイト代はほぼコスプレかマンガにつぎ込んでいるので、ゲーセンにはそんなに使えないってのも、理由の一つではあるが。
早速音ゲーコーナーへと向かう俺たち。目的は最近遊んでいるダンスゲームだ。踏む動きだけでなく、足をスライドさせる動作も感知する新機種。この機能のおかげで、ランニングマンなどのリアルなダンスステップが踊れるようになっている。
昨日ショッピングモールで購入したスニーカーに履き替え、鼻歌まじりに選曲を開始する。ローファーのままだと踏んだ時の反応が悪いのだ。
「あれ? カケル、遊ばないの?隣、空いてるぞ」
いつもならカケルも同時にプレイするのに、今は俺の後ろに突っ立ったままだ。
「僕には気にせず遊んでよ」
「そう?じゃあお先に」
選曲完了。この体だとどこまで踊れるのかまだ不安なので、一曲目には比較的簡単な物を選ぶ。EDM系の曲が多いこの機種の中では数少ないアニソンだ。
……うおお! なんか思ったように体を動かせねぇ!!ジャンプすると!!胸が!!邪魔!!それでもなんとかクリアした。次の曲もこの成績でクリア出来れば、三曲目が遊べる仕組みになっている。
「カケルー!いやー、やっぱ重心違うと踊りにくい……な……」
上手く踊れなかった言い訳をしながら背後を振り向いた俺の視界に入ってきたのは、大勢の鼻息を荒くした男どもだった。なぜかしゃがんでいるヤツも居た。
……ふむ、なるほど。今の俺は、女子制服を着用している。可愛いと評判の制服だ。そしてこれはお姉ちゃんのお下がり。俺が着ると胸がぱっつんぱっつんになるのである。
更には踊る度にスカートが翻り、ふとももチラリ。下着も見えちゃうかも……っと言った状態。そりゃあ男達は興奮しますな。
俺も可愛い女の子が眼の前でスカートひらひらさせながらダンスしてたら、興奮してじっくり見ちゃうぜ。
更に近寄って来ようとする男を、カケルがそれとなくガードしていた。だから一緒に遊ぼうとしなかったのか。さすがナイスガイ。
俺はゲーム機から降りて、カケルの耳元で囁いた。
「カケル……ありがとな」
「ん……どういたしまして」
すぐさまゲーム機に戻り、引き続きプレイする俺。
まぁ、ちゃんと露出対策にペチパンツ履いているので、スカートの中を見られても大丈夫なのですがね!!
女装コス時にスカートの中身が見えて、それが男物のボクサーパンツだと萎えるでしょって理由で着用していたのをそのまま流用しているのだ。
でも分かるぞ、男たちよ。パンツが見える見えないは重要じゃない。
見えそうで見えないのが良いんだよな!!
残りの二曲を遊び終え、俺はカケルの傍に戻った。
「ほら、次はカケルの番」
「ん、行ってくる」
カケルは遊び出したが、プレイ中にチラチラとこっちを伺ってくるせいで、普段通りの成績が出せていない。
俺もつられて後ろを見ると、さっきの男たちがまだ遠巻きに俺を見ていた。流石に声までかけてこようとは思っていないみたいだが、カケルは警戒している。……カケルも俺の事は気にせず、しっかり遊べばいいのに。気を使わせちゃうなぁ。
カケルは一緒にダンスゲームをする気は無いみたいだ。かと言ってこのまま交互にプレイしても楽しくはない。カケルがプレイし終えたあと、俺はクレーンゲームコーナーへ行こうとカケルを誘った。
「おお、アイプロの新しいシリーズ出てる!」
「コータ、取れそう?」
「この角度なら……いけるかも」
普段はもったいなくてプレイしないけれど、ダンスゲームを遊べなかった分、今日の軍資金はまだまだある。俺たちは時間まで一緒にクレーンゲームに興じた。運良く、カケルも俺も、目当ての景品をゲット出来たのであった。
クレーンゲーム中はずっとカケルの腕に絡んでいたいたせいか、最後あたりになるとヤツの反応が薄れてきた。つまんねー!
「こうしているとなんかデートっぽいよな。記念にプリクラでも撮っておこうか?」
「と、撮らないよ!それにデートじゃないし!!」
ニマニマと俺はカケルを新たな手段でからかう。反応が一々面白い。
「おっと、そろそろ時間か……俺はバイト行ってくるわ」
「コータ、バイト終わるの10時だっけ。バイト先まで迎えにいくよ」
「いやいや、そこまで心配されなくても」
「……なんか今のコータ、見てて危なっかしいからさ」
気恥ずかしそうに、カケルは俺に絡まれていない左手で首元を掻いた。まぁ……確かに今の俺は女の子だ。この姿になってから、まだ夜の時間帯に一人で外を出歩いた事は無い。心配されるのも頷ける。ここはカケルの好意に甘えるとしようか。
「カケルも、塾終わるの10時だっけ。じゃあ頼むわ」
俺はカケルの右腕から手を離す。その一瞬、残念そうな表情を浮かべたのを、俺は見逃さなかった。やっぱからかい甲斐があるなぁ!!!




