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俺氏、副生徒会長に狙われる。

 女の子になって迎える二回目の朝は、俺に抱きついたままぐっすり眠っているお姉ちゃんをどかす行動から始まった。


 この姿になってから、お姉ちゃんのスキンシップが激しすぎる。昨夜から眠りにつくまでに、結構な体力を奪われてしまった。


 しかし。しかしだ。眼の前でエロいボディのお姉ちゃんが無防備に寝ているのだ。……ちょっとくらい匂いをかいでもバチはあたるまい。


 こっそりとお姉ちゃんの首筋に顔を当てる俺。甘い香りがして、なんだか安らぐ。


 なるほどこれがお姉ちゃん成分を補給、という概念か……。


 しかしこのまま続けてお姉ちゃんにこの行為が発覚されるとまた大変な事になりそうなので、お姉ちゃん成分を補給する作業はほどほどにし、俺はベッドから離れた。




 親が学校へ電話し、10時に担任と三者面談をする約束をつけた。


 お母さんとお姉ちゃん、そして俺の三人はゆっくりと朝を過ごし、学校へと向かう。


 担任の藤堂先生は、昨日の段階で既に俺に関する噂を手にしていたようだ。それでも、女の子になってしまった俺を直に見て、一瞬呆けたような表情を浮かべる。


 女の子になってしまった経緯の説明から始まり、病院に行く必要はあるかどうか。学校の方で出来るサポートがあったら遠慮なく言って欲しいなどなどを相談しあった。


 女性教諭だからだろうか。突然女子としての生活を強いられた俺の苦労が想像出来たのか、昨日の時点で色々と手を回してくれていたらしい。後ほど保健室で簡単な検査をしてから、このまま基本的には女子として過ごしていい事となった。但しトイレと着替えだけは、教師用のを使うようにと念を押されてしまったが。


 チッ。


 俺とは違って成績優秀だったお姉ちゃんの元担任という事もあり、面談の残り時間は主にお姉ちゃんの話をして、解散となった。



「それじゃあ、お姉ちゃん達は先に家に戻るね」

「コータ、今は女の子なんだから。色々と気をつけるのよ」

「おう、ありがとう、お母さん、お姉ちゃん」




 校門で2人を見送ったあと、保健室へと向かおうとする俺に声をかけてきた人がいた。


「あなたが天野耕太……君……さんね?」


 振り向くとそこにはファルケンレイダー副生徒会長さんがいた。


「はい、俺です」

「良かったわ。初めまして。未来・ファルケンレイダーです。生徒代表として、あなたのこれからの生活をサポートいたしますわ」


 微笑みながら、彼女は俺に手を差し出してきた。


 通った鼻筋。綺麗な碧眼に、美しく編み込まれた流れるような金髪。日本の華族と欧州の貴族との間に生まれた彼女の顔は立体感がありながらも、日本人女性の柔らかさも持ち合わせている。


 本籍は外国にあり、日本へは留学という形で来ている。なんでも、大学に入る前に母親の国の文化を身をもって体験しておきたいという話だ。さすがである。


 その見た目に加え、留学生でありながら副生徒会長にもなれるほどの成績優秀者である彼女は、男女問わず人気がある。


 当然、俺の『コスプレして欲しい人リスト』の中に入っている。女体化された英国の伝説の王様とか、絶対に似合うって!!しかし彼女がコスプレに興味を持つなんてありえないし、ましてや、俺と接点が出来るとは思ってもいなかった。


 俺はやや緊張しながらも、彼女の手を握り返した。柔らかな手である。女の子になってから今に至るまで、この瞬間が一番緊張したかもしれない。


「天野耕太です。よろしくお願いします……ファルケンレイダー先輩」

「うふふっ、ミラでいいわ。ファルケンレイダーなんて呼びにくいでしょう?」


 そう言って笑うミラ先輩。確かに舌を噛みそうな名字だ。ならばお言葉に甘えるとしよう。


「じゃあ……ミラ先輩。俺の事はコータと呼んでください」

「私もぜひお名前でお呼びしたいのだけれど、……女の子である今のあなたをコータさんとお呼びするのには、少し抵抗がありますわね」


 ミラ先輩は、困ったような顔をして、手を頬に添えた。


 そりゃそうか。今までの友人ならともかく、女の子になってから初めて知り合った人からすれば、俺を「コータ」と男の名前で呼ぶ事には違和感しか無いはずだ。


「言われてみればそうですね。申し訳ございません。ならば天野でお願いします」

「……そうですわね……ならば別の名前でお呼びしてもいいかしら?」


 一瞬、この学校では誰もが見た事がないであろう、小悪魔的な笑みを浮かべたミラ先輩。妖艶なその表情に、俺は一瞬、背筋が快楽でゾクリと震えた。


「ど、どんな名前でしょうか?」

「アマミヤちゃん、ってのはどうかしら?」


 な、なんでその名前を!?!?!?

 しかも「ちゃん」付け!?!?!?


 俺は知らないフリをする事にした。


「お、俺はアマノであってアマミヤではないのですが……」

「あら、しらばっくれるの?しょうがない子ですわね」


 面白がっている表情のまま、ミラ先輩はスマホを取り出し、ある写真を俺に見せつけてきた。


「アイプロの、幸子ちゃんのコスプレ、とっても可愛くて似合っているわよ、アマミヤちゃん?」


 アイプロとはアイドルプロデューサーというアイドル育成ゲームの略称である。その中のキャラクターをコスプレした時の写真が表示されていた。


 なんでその写真を!? いや、写真自体は俺がSNSにあげている物なのだが、なぜミラ先輩がこの写真をもっているのだろうか!? というか、アイプロの事、知っているんだミラ先輩!?意外だなおい!?


 今のところ校内で俺の女装コスプレの事知っているのはカケル、白城さんと笹宮先輩だけ。この三人が外部に漏らすとはとても思えない。


「シ、シラナイコデスネー」


 それでも俺は否定し続ける……が、それは無理な話だろう。メイクとソフトでゴリゴリ加工しているはずのコスプレ写真の中に写っている顔は、今の俺の顔そのものなのだから。そういう意味では、別に俺が女装コスプレイヤー「アマミヤ」である事はいつかはバレる事実だし、女の子になってしまった今となっては、他人にバレても別に構わないのである。


 しかし問題は、なぜミラ先輩が俺が今まで隠していた秘密を知っているのか、という事だ。なぜこのタイミングで?という謎もある。


「ふーん……まぁいいでしょう。ではアマミヤちゃん、そろそろ保健室へ向かうとしましょうか。あなたがちゃんと女の子になっているかどうか、学校としてもチェックしない訳にはいかないのですから」


 そんな俺の心情を無視したまま、ミラ先輩は俺の手を引いて校舎へと進むのであった。

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