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俺氏、俺が俺である事を証明する。

 「でも、天野……君? 今朝女の子になったばっかりという割には、女の子の仕草が……なんていうか……板についているね?」


 おっと、さすが白城さん。鋭い観察力。


 そうなのである。俺は口調こそ男の時のままではあるが、仕草は完璧に女子を擬態出来るのである。


 なぜならば! 女装レイヤーだったからだ!


 スカートを履いて座る時はちゃんとスカートを抑えるし、膝も開かない。指先までポージングの意識を通して、にこやかにカメラに向かって微笑むべし。


 つまり口さえ開かなければ、今の俺は完璧な美少女にしか見えないのである。


 ちなみに、コスプレイヤーだからといって、キャラにずっとなりきっている訳では当然無い。撮影中はともかく、その合間はみんな素のまま駄弁っている事がほとんどだ。社会人レイヤーさん同士なんかは、会社の愚痴を。学生レイヤーであれば、学校やバイト先の愚痴を言い合ったりしている。きらびやかにマンガやアニメのキャラクターを着飾ったレイヤーさん達が、世知辛い世間話をしているのを見るのは、なかなかシュールで楽しい。



 さて。俺が俺である事を証明するには、俺の(メイクと写真屋で加工マシマシの)コスプレ写真を見せるのが一番早い事は明白。しかし俺はこの趣味を現段階ではバラしたくない。そして俺の女装コスプレ趣味を知っている人間は、このクラスには一人しかいない。


 ヤツの応援を頼むとしよう。


 「うーん、仕方がない……カケル! 頼む! 俺が俺である事を証明してくれ!!」


 クラスみんなの視線が、一斉に一人の男子生徒へと集まっていった。


 カケルもまた、白城さんと俺の会話に耳を傾けていたのだろう。食べかけのお弁当の傍にお箸を置いたままである。そこに急に俺に名前を呼ばれたものだから、驚いた顔をしていた。


 「え!? 僕?!」


 カケルは俺の親友の一人だ。成績優秀、スポーツもそこそこ優秀、さわやかな甘いマスクのイケメンさんだ。彼女は居ないが気になる子が塾にいるらしい。


 俺はクラスではオタクである事自体は隠していない。進学校にはなぜかオタク……とまで呼べなくても、ライトオタクくらいのレベルの生徒は多い。オタクである事がバレても、陰キャ呼ばわりされたり、いじめられるような事は無い。


 このカケルもまた、そのような人物の一人だ。俺とはよくマンガの貸し借りをしている。そして重要なのが、校内で唯一、俺の女装コスプレ趣味を知っており、写真も見た事がある。



 俺はカケルの前までつかつかと歩いていった。


 「ほら、よく見てくれよ!ちゃんと俺の顔だろう?」


 そう言って、ずいっと俺は顔をカケルに近づけた。しかしヤツは顔を赤らめて、視線を逸らす。


 「おいこら、ちゃんとこっちを見ろっての!」


 俺は両手でカケルの頬を挟み込み、強引に俺の方へと向かせた。ヤツの顔が更に赤くなっていき、頬に熱が帯び始めるのを、両手で感じ取った。


 ……ははん?コイツ、緊張しているな?こんな美少女に近寄られては、さすがのカケルも赤面せざるを得ないと見た。


 「……顔を見てもわからないか?」


 「ごめん、君のような……その……可愛い子とは会った覚えが……」


 可愛い子ときた! 親友からそう褒められるのは嬉しいね! しかし今は俺が俺である事を証明してもらう方が大事だ。


 「ちょっと耳を貸せ」


 俺はカケルの顔を両手で挟んだまま、ヤツの顔を俺の胸元まで引き寄せた。


 「「「キャー!」」」


 主に女子からの黄色い声が聞こえたが気にしない。


 ヤツの耳元で囁いた。

(……俺のコスプレ写真、覚えてるか?思い出してみてくれ。あの顔と同じだろう?)


 そう言われ、カケルは俺の胸元に顔を預けたまま、俺の顔をしばし凝視した。


 「……本当だ。彼女はコータ……天野耕太で間違いない」


 カケルは、そういって俺が俺である事を証明してくれたのだった。




 「ほら見ろ!な! 俺が天野コータだってカケルも証明してくれただろ?」


 俺は嬉しさのあまり、カケルを抱きしめた。ついでに胸を押し付ける。


 (ちょ……コータ……胸、当たってるって)


 胸元の中で視線を逸しながらカケルが呟く。


 当ててんのさ。




 「という訳で、急に女の子になってしまったけれど、中身は俺のままだから。みんな暫くこのままよろしくな」


 俺は教壇に立ち、クラス全員に改めて挨拶をした。気分は転校生だ。そしたらクラス全員から質問攻めにあってしまった。


 いつから女の子になったの?

 もとに戻れるの?

 俺と付き合ってくれ!

 女の子の服とか持ってないでしょ?一緒に買い物にいこうか。


 などなど。


 知らない事は知らないと答え、付き合ってくれなどというヤツにはヘッドロックを噛まし(幸せそうにしていた)、最後の「買い物に行こう」という提案はとても嬉しかった。


 実際俺はコスプレ衣装以外の女物の服をほとんど持っていない。それになにより、提案してくれたのが白城さんだったから。


 「白城さん、ありがとう! 女の子になったばかりなんで、服とか下着とかなにも持ってないんだ。この制服も姉貴のお下がりだしさ」


 「天野君、せっかく可愛くなれたんだからさ! 色々買いにいこうね!」


 にこやかに笑う白城さんが天使に見えた。 ああ、はやくこの天使を堕天させてレイヤー仲間にしたい。


 「じゃあ放課後に、よろしく頼む!」


 やったぜ! 白城さんとデートだ!

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