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俺氏、ロリィタ体験サロンへ行く。

 ロリィタ体験サロンのドアを開けると、コスプレ撮影スタジオばりに整えられた背景と、数々の衣装が俺達を出迎えた。


「おおー!すげー!」

「種類沢山あるな!」


 衣装は定番の黒ロリ白ロリ……いわゆる甘ロリから、クラシカルロリィタに、ゴシックロリィタ。そして最近流行りのミリタリーロリィタまで、一通り揃っているようだ。


 撮影背景も、パンク風なのからお嬢様部屋風なのまでと、各シチュエーションがばっちりおさえられている。


 外歩き用の靴以外は、服からウィッグまで全てお店でレンタルが可能。手ぶらでロリィタ体験が出来るという寸法だ。




「いらっしゃませ」


 目を輝かせて店内を見回す俺たちにサロンのお姉さんが声をかけてきたので、予約している者だと告げるた。


「天野さまと笹宮さまですね。お待ちしておりました」

「「今日はよろしくお願いします!」」


「楽しみだな!アマミヤちゃん!」

「はい!」


 期待に胸を膨らませて、頷きあうハルカさんと俺。


 背が小さいながらも、普段は凛々しい雰囲気をしているハルカさんだが、今日はまるであどけない少女のように目をキラキラとさせていた。よほど楽しみだったのだろうと、俺も口元を綻ばせてしまう。




 まずは衣装選びだ。


「ハルカさんは、着てみたい衣装あります?」

「うむー……ゴスロリ甘ロリクラロリ……ああ、悩むなっ!」


 豊富な選択肢を前にして唸るハルカさん。そりゃ悩むよね。


 俺としてはミリタリー風も捨てがたい。ハルカさんが着ると可愛さとかっこよさが同居して良い感じになると思うのだが……だが今日はせっかくのロリィタ体験だ。ここは定番で行ってみたいと思う。


「初めてですし、まずは黒ロリを着るってのはどうでしょうか」

「よし!それでいこう!」


 衣装を着用して、次はメイクに取り掛かった。これはスタッフのお姉さんにお任せである。他人にメイクしてもらうのは久しぶりだ。


 普通の女性メイクとは違い、ロリィタメイクは立体感を造りすぎない事が重要なようだ。女装コスプレメイクも、いかに立体感を消していくか……つまりいかにして男臭さを消していくかがキモになるので、いい勉強になった。


 最後はウィッグを装着して完成。双子ちゃんルックをテーマにしたので、俺たちはヘアスタイルも合わせてみた。前髪ぱっつんの薄い金髪色のウィッグを、ボリュームのあるツンイテールに整えてもらう。




 姿見の前で最終チェックをする俺たち2人。おおお……ハルカさんお人形さんみたいだ!!


 くるんっと回って決めポーズをする俺。うむ!俺もカワイイ!


「うああ、アマミヤちゃん……か、可愛いぞ!」


 ハルカさんは、感激したかのように俺を見つめてくる。


「ハルカさんこそ。お人形さんみたいで愛らしいですよ」


 俺はハルカさんの手を取ってそう言った。ハルカさんは「えへへっ」と、照れながら俺の手に指を絡めてきた。いわゆる恋人つなぎという奴だ。今日のハルカさんは大胆である。


 一緒に並ぶと、身長差もあって、まるで姉妹みたいだ。もちろん、俺が姉で、ハルカさんが妹。


「こうして見ると……なんだかアマミヤちゃんが姉に思えてくるな」


 同じ事をハルカさんも思ったようだ。


「俺もそう思いましたよ。……じゃあ、俺の事は『お姉ちゃん』って呼んでもいいんですよ?」


 いたずらっぽく微笑んだ俺に、ハルカさんがとろんとした上目遣いではにかんだ。


「……お姉ちゃん」

「うふふっ、ハルカちゃん、お姉ちゃんですよー」


 ウチのお姉ちゃんは俺の事をちゃん付けで呼ぶものだから、調子に乗ってしまい、俺もその真似でハルカさんをついちゃん付けで呼んでしまった。嫌がられるかなと思いきや、彼女の頬が一気に朱色に染められて行くのが分かった。


 カワイイなぁもう!! 今日は徹底的に妹扱いしよう。




 衣装、メイクそしてウィッグの準備が整った後は、記念撮影をして、二時間の散歩へ出かけるだけである。ここからが体験サロンの本番であると言っても過言ではない。ロリィタに変身した自分を徹底的に楽しむべし!


 俺は手慣れたもので、カメラのお姉さんの指示通りにポーズを取っていく。女の子になってからまだ撮影された事の無い俺は、今日という日の為に家で笑顔の特訓をしてきたのだ!その成果があって、ひたすらあざとく、そして可愛い表情を付けられたと思う。


「天野さま、素晴らしいです!!」


 キャーとはしゃぎながらシャッターを切っていくカメラのお姉さん。


 そしてハルカさんの番となる。このような撮影は初めてのはずなのに、物怖じしていない。さすがお嬢様だ。しかし慣れてはいないのか、凛々しさと初々しさが相まって非常に保護欲を掻き立てられる。


「ハァハァ……笹宮さま!とても愛らしいですよ!!」


 カメラのお姉さんのテンションが上がっていく。うむ。精巧なドールのように愛くるしいハルカさんを見てカメラマン魂に火が付かない訳がない。


「ハァハァ……最後はお二人で一緒にどうぞ」


 興奮しっぱなしのお姉さんに引かれて、俺は再び背景に入り込んだ。


 恋人繋ぎをしたり、ハルカさんの顎を軽く持ち上げてキスする風だったりと、百合風のポーズを指示されていく俺たち。新たなるポーズを指示されては、恥ずかしそうに俯くハルカさんが微笑ましい。


 さっきまでは冷静だったハルカさんは、慣れない衣装を着て暑いのか、体温が上がりっぱなしになっている。


「ハルカちゃん、とっても可愛いよ」


 ハルカさんを頭を撫でながら囁くと、彼女はくすぐったそうに目を細めた。


「お姉ちゃんも……可愛いぞ……」


 ああ!これだよこれ!こうやって女の子と一緒にキャッキャウフフ言いながら撮影するのやっぱり楽しい!!



 今日の体験コースのラストイベントはお散歩だ。スタッフのお姉さん達に見送られて、俺たちはロリィタ衣装のまま、街へと繰り出した。


 まるで姉妹のような俺たちに、道行く人が視線を投げかけてくる。初めはロリィタを見かけた好奇心から。それがすぐに好意に変わっていくのを感じた。


 この感覚は、街歩き系コスプレイベントのそれに近い!


「さ、ハルカちゃん、今日のメインディッシュへ行くとしましょうか!」

「うん、よろしくな、お姉ちゃん!」


 腕にハルカさんを絡ませたまま、ロリィタショップへ出発しようとした所、不意に後ろから声がかかった。


「スミマセン!シャシン、イイデスカ?」

「はい?」


 振り向くと、外国からの観光客とおぼしき女性三人組がスマホを手にしてにこやかに笑っている。街歩き系イベントで一般の観光客から写真を頼まれる事も多いので、俺は動じない。


「ハルカちゃん、いい?」

「もちろんだとも!」


 胸を反らして答えるハルカさん。サービス精神豊富なようだ。そうでなくっちゃ!


 俺は観光客に「どうぞ!」と手を差し伸べた。


 三人組が代わる代わる俺たちの間に入り、一緒に写真に写り込んだ。


「カワイイ!アリガト!」


 上機嫌で三人組は手を振りながら去っていく。旅の良い思い出になってくれるといいね。


「じゃあ、改めてショッピングに向かうとしますか!」

「おー!」


 可愛く張り切るハルカさん。


 ロリィタショップが並ぶ方角へ再び足を向けた途端「スミマセン!シャシン、イイデスカ?」と、また後ろから声を掛けられてしまった。




 その後、少し歩く度に外国からの観光客から写真をせがまれて、それに対応している内に、時間がやってきてしまった。


「ありゃりゃ……せっかくショッピングに行くつもりだったのに」

「これはこれで楽しかったから、良しとしよう!」


 ほとんど出歩けなかったのに、満足そうに微笑むハルカさんであった。

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