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俺氏、友人の恋路を心配する。

 俺はカケルと肩を並べ、駅の方向へと歩いていた。


 「綾瀬さんは送らなくていいのか?」


 男である俺ではなくて、本来は女の子である綾瀬さんを送るべきではないのだろうか。


 「綾瀬さんは女の子歴16年で、コータはたったの二日間だ。僕はコータの方が心配だよ」

 「そういうもんかね。まぁ、ありがとよ……で、綾瀬さんとはいつから付き合ってんの?」


 ニヤニヤと尋ねる俺。


 「え?付き合ってないよ?」

 「うっそだー!付き合ってなきゃ、わざわざ俺の顔を見になんて来ないだろ?」


 心外だなとでも言わんばかりにカケルは述べた。


 「綾瀬さんとは本当に、なんでもないんだってば。 塾ではよく喋るせいか、周りから僕たちが付き合っていると勘違いされているみたいでさ。で、綾瀬さんが塾の誰かから僕とコータがゲーセンにいるのを聞いて、僕と一緒にいた女の子を見てみたいっていうから連れてきただけ」

 「じゃあ、カケルが言っていた塾の気になる娘ってのは?てっきり綾瀬さんがそうだと思ってたぜ」


 カケルは秘密がバレた少年のようなバツの悪そうな顔をした。


 「塾に気になる娘がいるってあれ、実は嘘なんだよ……」

 「え!? なんでまた!?」

 「ああでも言わないと、学校で……その……告白とかされると、相手の女の子が可哀想でさ」


 なるほど……カケルにはカケルの苦悩があったんだな。


 こいつはイケメンだ。学校では当然ながら非常にモテる。しかし特に彼女が欲しいわけでもないカケルからすれば、それはそれで大変なのだろう。だから告白を避ける為に嘘をついたと。


 「じゃあ、カケルは綾瀬さんの事、どう思ってんの?」

 「綾瀬さんとはちょっとした切っ掛けで喋るようになってね。可愛い子だなとは思っているよ。いい子だし。だけれどそこに恋愛感情があるかというと。うーん」


 真剣に悩みだすカケル。これは本当に恋愛感情は無いっぽいな。せいぜい可愛い後輩ってところか。なんだか綾瀬さんが不憫に思えてきた。


 「綾瀬さんはカケルの事、好きなんじゃねぇの?俺がカマ掛けた時の反応も満更じゃなかったしさ」


 俺は少し非難がましい口調になってしまった。しかしそれを気にしていない風でカケルは続ける。


 「それはないと思うなー」

 「なんでさ」

 「だって、綾瀬さん、女性しか好きになれないって言ってたんだよ?」




 「ひょ?」


 俺の口から変な声が漏れた。


 「常々、『理想のお姉さまを見つけるまでは、恋愛しません!』と僕に熱く語っていたよ」

 「はへー」


 百合ですか……。そんな世界が本当にあったとは……。


 ま、まぁ、傷つけられた女の子は居なかったのだな!!と、自分を安心させる。


 ……というか、なんでそんなにも共通点が無さそうなカケルと綾瀬さんの仲がいいのか、余計に謎になってきたぜ。


 「ま、カケルが女の子とも仲良く出来るって分かって、俺は安心したぜ。学校では女子と少し距離を置いているように見えたからさ」

 「……うん、そうだね。綾瀬さんには感謝しているよ」


 言いながら、カケルは微笑んだ。



 どうでもいい事を喋っている内に、我が家へと到着。せっかくだし上がっていって欲しいが、もう時間も結構遅い。またの機会にしてもらおう。


 「ちょっと待ってろ。自転車で駅まで送ってく」

 「そんな、いいよわざわざ」


 家から駅までは徒歩だと16分ほどかかる。ここからまたカケルを駅まで歩かせるのは酷ってもんだ。


 「むしろ駅からまたコータを一人で帰らせる方が心配だ。だから大丈夫。それじゃまた明日!!」


 そう言ってカケルは駆け出して行ってしまった。しょうがない。好意に甘えるとしよう。俺は近所迷惑にならない程度に声を張り上げながら手を振った。


 「ありがとなー!おやすみー!」




 お姉ちゃんはすでに大学へと戻っていったようだ。リビングで俺の帰りを待っていた両親に、学校で別れた後の事……主に保健室で行った検査や証明書を報告。そして大学病院で精密検査に関する相談をした後、お風呂に入った。


 立ち仕事の後のお風呂は最高だぜ!


 鼻歌まじりに体をお湯へと沈める。おお!お胸が!浮いた!!まさに人体の神秘!!


 女体の神秘を探るべく、自分の胸をじっくりねっとり研究していると、スマホのメッセンジャーアプリに着信が入った。


 綾瀬さんからだ。


<こんばんは、お姉さま。今日はお店まで押しかけてしまい、大変申し訳ございませんでした>


 ……やっぱり、お姉さまって俺の事だったのか。あの時は聞き間違いかと思っていたぞ。


<こんばんは、綾瀬さん。いいよ気にしなくて。話は大体カケルから聞いてあるから。綾瀬さんみたいな可愛い子なら、いつでも歓迎だよ>


<ありがとうございます! さっき思い出したのですが、私の自己紹介、ちゃんとしていませんでしたね。。大変失礼しました、あの時はお姉さまが元男性だと知らされて混乱していたのです>


<急に言われたら混乱するよね。ごめんね驚かせちゃって>


<いえ!そんな事ないです! では改めまして。『綾瀬ほのか』といいます。ぜひほのかと呼んでください>


<じゃあほのかさんって呼ぶね>


<ありがとうございます! 私、今日はじめてお姉さまとお会いした時から、ずっと、自分に姉が居たらこんな感じの方なのかなって思ってて>


 ハッとして、俺はお風呂場の鏡を見た。 そこに写っていたのは女の子の俺だが……言われてみると、なるほど、ホノカさんを見た時の既視感はこれだったんだなと気が付かせられた。


 彼女は見た目が俺にかなり似ているのだ。姉妹だと言われると誰もがそれを信じるであろうくらいには。双子ほど似てはいないけれど、パーツの造りや、雰囲気などがトータルで類似しているのである。


<今お風呂に入っているんだけれど、鏡を見てびっくりしたよ。俺たち、なんかそっくりだもんね。ほのかさんを見た時に、どこかで出会った事がある気が、ずっとしてたんだ>


<お姉さまもそう思っていてくれていたんですね!うわぁ、なんか嬉しいな!お姉さまの事、ずっと他人だと思えなくて。私も家に帰って鏡を見た時に、ようやく私達、似ているなって気が付いたんです>


<俺には姉が一人いるからさ。妹が出来たら嬉しいとは思っていたんだ。今後もよろしくね>


 その後少しチャットをしておやすみと言い合った。俺に妹が出来るとは。ひゃっほう! 溺愛しちゃうぞ!! そしてお姉ちゃん特権として可愛い妹をコスプレさせなければぐへへへへ!!


 そんな妄想をしつつ、俺はベッドに潜り込み、女の子になってたったの二日間で起きた多くの出来事を思い出しながら眠りについたのであった。

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