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俺氏、お姉さまと呼ばれる。

「……ハルカさん、ミラさん、どうしてここが?」


 突然現れた2人を見て、俺の完璧な営業スマイルは一瞬で消え去った。


「アマミヤちゃんのクラスメイトに聞いたのだ」

「……副生徒会長として、我が校の学生がどこでアルバイトしているのかは全て把握していますから」


 ……むう、まぁ隠すつもりは無いので、いつかはバレる事ではあったけれども!けれども!


 よりによってこの2人か!お昼過ぎに2人の前から逃げ出したばっかりなので、なんとも気まずい。


 しかしまぁ、こんな2人でも今はお客さんだ。このままずっと入り口に立たせる訳にもいかない。


「……2名様ですね。席までご案内いたします」


 営業スマイルを再び取り戻し、空いている席へと向かう俺の背中に2人の熱っぽい視線が刺さる。


「ああっ!和風メイド姿も可愛いわ!アマミヤちゃん!」

「ここが写真撮影禁止なのが悔やまれるな……」




「こちらがメニューになります。おすすめは……お二人とも、晩ごはんはもう済ませました?」


 一瞬だけ、接客モードから離れ、こっそりと2人に尋ねた。せっかく来たのだ。おすすめしたいメニューがある。


「ええ、先程頂きましたわ」

「私も済ませたばかりだ」

「ではこちらのケーキセットなどいかがでしょうか」


 このお店の人気メニューと俺個人のおすすめメニューを2人に教え、注文を確認した。カウンターへと戻って来た俺にトーコさんが声を掛けてくる。


「コータ君、お知り合い?」

「ええ、学校の先輩です」

「……ふぅーん、さすがコータ君ね。もうファンが付いているんだ?しかも二人共美人さんだし……ぶつぶつ」


 釈然としない表情を浮かべるトーコさん。どしたん?


 そのあとピークタイムに突入して店内で忙しくする俺を、ハルカさんとミラさんは静かに、だが温かい目で見守るだけだった。さすがに仕事の邪魔をしてくるほど非常識ではなかった様だ。


 しかしこのお店の大正ロマン溢れる内装を背にしても、2人の姿は全く霞まない。お客さんであるはずなのに、まるで主人であるかのような佇まいをしている。さすがお嬢様。




「アマミヤちゃんの働く姿を見られて、楽しかったわ」

「うむ。アマミヤちゃん、素敵だったぞ!」


 暫くして、2人は帰宅する事にしたようだ。レジをしながら少し喋る。


「でだな、アマミヤちゃん……その、お昼はごめん」


 ハルカさんが申し訳なさそうな声を発した。傍にいるミラさんも同じような表情をしている。どうしたんだろうか。


「メイドのバイトの事で、アマミヤちゃんを困惑させてしまっただろう?あれから2人で反省したのだ。それで今後は強引に誘わないと決めたのだ」

「ごめんなさいね、アマミヤちゃん」


 シュンとしている2人に、俺は微笑んでしまう。それを言う為に、今日はわざわざお店に来てくれたのだろう。


「いえ、お二人に誘われて嬉しかったですよ。メイドのバイトは……恒常的には難しいですけれど、いつか体験する機会があったらとは思ってますから」


「「アマミヤちゃん!ありがとう!」」


 さっきまでの沈んだ声を一転、弾ませてハモらせる2人であった。やっぱり仲が良いね。





 22時を少し過ぎてしまった。


「ごめん、カケル、待った?……えっと、その子は?」


 クロージング作業を終わらせて店から出ると、送っていくとの約束通りカケルが居た。その傍に、近隣で有名な女子校の制服を着た美少女が立っているのに気が付く。


 軽くウェーブしている長い黒髪。セクシーさと可憐さが同居しているタレ目と、しゅっと通った鼻筋とのバランスの良さ……そしてなかなかの巨乳!!


 控えめに言って、俺好みの顔つきの女の子だった。コ、コスプレさせてぇえええ!!


 そして、ははん、と俺は察した。さてはこの娘がカケルの言っていた同じ塾の気になる娘だな?親友とまでなると、好みも近くなるのかね。


 しかしなんだろう……初対面のはずなのに、以前どこかで出会った事があるような。或いは見知った誰かに似ているような気がするせいだろうか?そうだ。ウチのお姉ちゃんを少し背を小さくして、スリムにさせたらこんな感じだ。いや、まてよ、他にもよく見た顔を思い出しそうなんだが……。


 そんな俺の思考は、気まずそうに口を開いたカケルの声に遮断される。


「えーと……綾瀬さん、こいつが……彼が今日、僕と一緒にゲーセンに行った人」

「……え?彼?」


 そこ、突っ込みたくなりますよねー。


 そして、ははーん、読めたぞ。俺とカケルがゲーセンに居たのを知った綾瀬さんが嫉妬したんだな?くくく、罪深い男だなカケルよ!!


 そのカケルはというと、チラチラと俺にアイコンタクトを送ってきていた。俺に自己紹介しろって事ですな?了解。


「綾瀬さんだっけ。はじめまして。カケルと同じクラスの天野耕太です」

「え、耕太?あれ?男の子の名前?」


 綾瀬さんは混乱している!!


 一人称や口調を抜きにすれば、今の俺は声も仕草も完璧な美少女。そんなのが彼だの俺だの耕太だのと言われれば、そりゃあそうなるよな。


「こう見えても、男ですから」

「え?女装?」


 困惑しつつ訝しげな視線をカケルに移す綾瀬さん。あー、このままだとカケルは女装する男とデートする人だと思われてしまうな。そろそろ助け舟を出すとしようか。


「えーと、綾瀬さん、これ、うちの学校が発行した書類なんだけれどね。ちょっと読んでみてくれますか?」


 俺は例の証明書を綾瀬さんに手渡した。





「ええ!急に女の子になるなんて、ありえるのですか……?」

「うーん、まだ精密な検査はしていないけれど、多分染色体になんらかの異常が発生したんじゃないかって、保健の先生が言ってた」


 それを聞いて、俺がなんらかの特殊な病気なのではないかとでも思ったのか、目に見えて表情を落ち込ませる綾瀬さん。


「ご、ごめんなさい……その……そうだとは知らなくて……私……」

「いいんだ。ごめんね勘違いさせちゃって。俺、前からこのお店でバイトしてて、カケルが塾の日は一緒にゲーセン行くのが習慣になっちゃっててさ。これからは気をつけるよ。……カケルをよろしく頼むな」


 それを聞いて、俺が2人の関係を察した事を知り、赤面するカケルと綾瀬さん。二人共幸せになってほしいのう。


「あの……お強いんですね、天野先輩は。急に性別が変わって大変でしょうに、私達の事も気にかけてくれるなんて」


 頬を赤くしたまま、俺を見つめてくる綾瀬さん。


「ジタバタしててもしょうがないからね。原因と対処法が分かるまでは、まぁ、この姿を楽しむとするよ」


 にっこりと俺は笑った。そうだ、せっかくの女体化だ。楽しまないとな!主にコスプレ方面で!!


「あの……その……私とも、お友達になって頂けますか?天野先輩。 さっきから思っていたのですけれど、天野先輩、初めてあった気がしなくて……」


 どうやら綾瀬さんも俺を見た事があると思っているらしい。どこで会ったんだろうか。


「俺も綾瀬さんとは初めて会った気がしなくてさ。友達になってくれると嬉しいな!」

「天野先輩もそう思っていたんですね!ふふっ、なんだか嬉しいです……ふ、ふつつかものですが、よろしくお願いします!」


 視線になんだか熱を帯び出した綾瀬さんがもじもじとしながらスマホを取り出した。こんな俺好みの美少女と連絡先が交換出来るとかラッキー!ありがとうカケルよ!


 メッセンジャーアプリのIDを交換し終え、スマホを胸に抱いて笑みを綻ばせている綾瀬さん。可愛いなぁ。ってか、俺を先輩と呼ぶって事は、一年生なのか?カケルめ、うらやまけしからん!!


「あの、天野お姉さまはこの喫茶店で働いているのですよね?今日制服は男女のどちらを着られました?」


 ふと、そんな事を上目遣いで綾瀬さんは尋ねてきた。あれ?なんか聞き捨てならない名詞が混ざっていたような。


「えーと、その……和風メイドの方を着せられた……」


 女性になってまだ二日目だというのに、なぜか学校や職場の女子制服を着こなす変態とでも思われたらどうしよう……。


 しかし目を輝かせる綾瀬さん。


「素敵です!私、ここの制服大好きなんです!! お姉さまが居る時にお店、来てみてもいいですか!?」

「おお、いいよ。おいでおいで!」


 良かった。ただの和風メイドファンだったようだ。綾瀬さんを見た事があると思っていたのも、彼女がお客さんとして来ていたのを俺が無意識に覚えていただけなのかもしれない。しかしこんな美少女を一回でも見れば、俺が忘れる訳もないハズなんだけれどなぁ。


「じゃあ私、お先に失礼しますね! 中嶋先輩!お姉さまをちゃんと送り届けてくださいね!」


 にこやかにそう言い、綾瀬さんは駅の方向へスキップでもするかのような軽やかな足取りで去ってしまった。




 ところで。


 お姉さまって誰の事?

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