魔-1 魔王会談
ニヴルヘイム大陸のとある城。周りは数多くの魔物がはびこっており、来るものすべてを敵とみなし、襲いかかる。
そんな人族では到底辿り着くことができない場所で、二人の強力な魔人族が会話をしていた。
『お久しぶりですなー、スペルビアさん。なんだか出かけていたみたいですけど、どこ行ってたんですかー?』
『マモンか。私がどこに行こうがお前に関係ないだろう。しかし何しにきたんだ。お前が私に会いにくるなんて何年振りだ』
スペルビアと呼ばれた人物は、まるでドラキュラが着るようなマントを羽織っている。マモンと呼ばれる人物は、とても怪しい奇抜な色をした服を着用している。話し方も怪しい商人のようで、相手に不信感を抱かせる。
『久しぶりにあったのに連れないですねー。なんかないんですかー、こう、久しぶりの再開を祝っての抱擁とか』
『いいから要件を言え』
スペルビアは表情を一切変えずに、マモンに向かって強い口調で問う。
『いやーある噂を聞きましてねー。なんとあのベルゼブブさんが死んだらいんですよー。ちょっと信じ難いんですがねー。なんせあの方の実力はスペルビアさんも知っての通り、反則級に強かったですからねー。なにがあったんでしょうねー?』
マモンは微笑を浮かべながら、まるで真実を知っているのに知らないふりをしているような口調だった。
『はっ、そんなことを知らせにわざわざ来たのか。しかしベルゼブブがな……まあ、所詮その程度だったと言うことだ』
『あら、以外に驚かないですねー。やっぱり知っていましたか? さすが魔族の王の中の王とまで言われる御方。しかし儂は思うんですよ。あの方を殺せる人がこの世界にいるのかと。儂が知る限りですと……あなたくらいですかね、スペルビアさん』
マモンは言い切ると、鋭い目をしてスペルビアを一瞥する。まるでベルゼブブを殺したのは貴方だ! と言っているかのように。
『ふん……何が言いたい』
『いや、儂はただ誰がなんの目的でベルゼブブさんを殺したのかなと思いましてねー。もしかしたらスペルビアさんが知ってるかもと思いまして』
『私は何も知らない。もし知っていたとしてもお前に教えることはない』
マモンの揺さぶりにもスペルビアは一切動じない。
この二人、実はこのニヴルヘイム大陸を支配する【七人の魔王】のうちの二人であるのだ。そして話に出たベルゼブブもその一人だった。七人のうちの一人が死んだという大変重大な内容であったが、お互いに事の重大さに関してはそこまで関心が高くなかった。
マモンが知りたいのはただ一つ。どうやってあの絶対強者であったベルゼブブを倒したのかだけである。
マモンは微笑を崩さずに話を続ける。
『……そうですか。まぁそう言うと思っていたのでいいですけどねー。ちなみに……スペルビアさん、最近は隠れてこそこそなにをされているのですか?』
『……!? お前どこまで嗅ぎつけた』
今まで表情を変えることがなかったスペルビアが、マモンの言葉で表情を歪めた。
『ふふふふふ。それは内緒ですよー。ですが儂はなにも邪魔はしないので、そこはご安心ください。へへへへへへ』
『くっ、得体の知れないやつだ。しかしもし私の邪魔をしたら……わかっているな?』
『わかってますよ。儂もベルゼブブさんの二の舞はいやですからね……しかしあの能力がこの世界からなくなったのはよかったですねー。さすがにスペルビアさんもあの能力には警戒していたはずですからねー』
マモンは争いはごめんですと言わんばかりに、両手を上にあげ降参のポーズを取る。しかし口調は変わらず相手に嫌悪感を与える。
『……あの能力はこの世界にあってはならないものだ。それほど強力なものだった』
スペルビアはなにかを思い返しながら、呟いた。
『そうですね。まぁ、なくなった今、心配することはなくなりましたけどねー。それでは儂はそろそろ帰りましょうかね。これ以上お邪魔するとあなたの飼い犬に噛まれてしまいそうですからねー』
『ふん!』
マモンは言い終わると振り返る。するとそこには黒装束の少女が立っていた。目付きは鋭く、身長はマモンよりも若干高いくらいだ。
部屋の隅で気配を消しながら立っていた少女が始めて声を発した。今までは主人であるスペルビアの会話の邪魔にならないように気配を消して黙っていたが、マモンに対する殺気がだだ漏れだったため簡単に存在を認知されていた。
『また何か面白い情報がありましたら来ますねー』
『(もうくんな)』
少女は聞こえないように小さな声で呟く。
『ベルゼブブか……やっかいな能力だった。【暴食】はこの世にあってはならない!』
悠然たる態度で言い放った。
『もちろんです。スペルビア様。……あのマモンとかいう奴はどうしましょう? 殺しますか?』
『やめておけ。奴はああ見えて強い。今のお前では勝てないだろう。魔剣も無くしてしまったしな』
『も、申し訳ございません! まさかあの後に誰かに盗られることなど考えておらず。す、すぐに取り返しますので、少しばかり時間をいただけないでしょうか?』
少女はかなり取り乱してはいるが、忠義を表すため、片膝をつき低姿勢から主人であるスペルビアに再度ミッドガルド大陸へ行く許しを請う。
『いや、今はだめだ。あれにはお前の力が少なからず必要だからな。それに魔剣は急がなくともなくなることはない。あとでゆっくり探しに行けばよかろう』
『はい、かしこまりました!』
スペルビアはマモンには見せなかった、柔らかい表情で少女を諭した。少女は頭を下げ、主人の命令を了解する。
『さて……神どもに一泡吹かせてやるか』
スペルビアは悪い笑みを浮かべ、少女を連れて城の地下深くへと足を進めるのであった。




