生-1 ただの平凡な一日だったはずが……
『で、お前は京子ちゃんの告白をもちろんOKしたんだよな?』
よく冷えた紅茶のストレートティーをすすりながら彼は言った。
僕も同じものを飲んでいる。口の中に爽やかな風味と甘みが広がっていく。やはり紅茶はストレートに限る。
今僕たちがいるのは大学の学食。今日は授業が午前で終わりだったので、午後からは友人の隆と話をしていた。
隆は僕が大学生になってからできた友人だ。髪は明るい茶髪、原宿の美容室で切っている髪は、ワックスで無造作にスタイリングされている。身長は僕より高く、顔は中の上といった感じだ。
父さんと暮らしていた頃は、友人と言える人は誰もいなかった僕だが、なんとか人並みに友人を作ることができた。
ボッチ卒業!!
「いやー、実は……断ったんだ」
『なに~~~!?』
隆は紅茶を持ったまま、椅子を蹴って立ち上がった。
う○こ漏らしたんじゃないかって思うくらい驚いてやがる。
四限が始まったばかりなので、学食には僕らを入れて8人ほどしかおらず、隆の叫び声は学食中に響き渡っている。
『お、お前、あの京子ちゃんだぞ!大学で一番人気がある、あの京子ちゃんだぞ!!』
隆は再び椅子にかけ直し、続けていった。
『お前もしかして……男に興味があるとか?』
「んなわけないだろ」
僕は少し呆れながら、隆の言葉に反応する。
もちろん女性は好きだ。いや、大好きだ。
京子ちゃんをおかずにしたことだって、一度や二度じゃない。
けど僕は京子ちゃんの告白を断った。
いやいや、だって、ねえ?
彼女とは無理でしょ。
理由は簡単。彼女のスペックがあまりに高かったからだ。自分と不釣り合いすぎて、彼女と一緒にいる自分が想像できなかった。
僕は身長が低いわけではなく、顔も悪いわけではない。恋人も過去にいたことがあるし、やることはやっていた。
しかし彼女はというと、容姿端麗、性格も良く、勉強もできる。両親が営む会社の社長令嬢。
そもそもなんで僕なんかに興味を持ったのかが不思議なくらいだ。
「本当になんで僕なんだよ」
こめかみを掻きながら呟いた。
隆はというと、僕をじっと睨みつけている。まあ気持ちもわからんでもない。
アイドル顔負けの女性からの交際の申し出を断るなんて、普通考えられない。僕だってそう思う。
「そういえば京子ちゃん、隆のことも気になっている的なこと言ってたぞ」
『マジか!?』
「おう。今度デートにでも誘ってみたらどうだ」
隆は表情を輝かせる。
―――簡単なやつだ。
実際は、「元気な男の子とよく一緒に学食にいるよね」と言っていただけだ。
小躍りするような隆を見ながら、僕は紅茶をまた一口飲む。
そういえば読みかけのラノベがあったな。
時間がある時に読もうと思っていた一冊だったが、一度気になると読みたい衝動が収まらなくなり帰ることにした。
「じゃあまた明日な」
『また明日。もし京子ちゃんがいたら、隆は学食にいるって伝えておいてくれ』
幸せな表情をする隆の顔を見て、少し罪悪感に苛まれながらも、僕は席を立って自宅へと向かう。
自宅は大学から徒歩15分ほどの場所にある。朝目覚めが悪いので、少しでも大学の近くにと思い、今のアパートを借りた。
歩いていると、いくつか遊具が置いてある公園が見えてきた。
普段はたくさんの子供が遊んでいるのだけど、今日は子供が一人もいない。
「こんな日もあるんだな」
軽く呟きながら、誰もいない公園の中を歩く。
公園にはブランコやシーソー、砂場などがある。砂場にはシャベルやバケツ、公園の隅にはサッカーボールが忘れられていた。ついさっきまで子供達が遊んでいたような、そんな感じがした。
不意に嫌な感じがした。僕には霊能力といった不思議な力はない。でもこの時は、凄まじく嫌な感覚に襲われた。
すると公園の中心に突如巨大な魔法陣が現れた。
複雑な模様が描かれた魔法陣が強烈な光を放ち始め、僕は事態の異様さに気がついた。
(これって、やばいんじゃないのか)
直後、光が一際強くなり、耐えきれなくなり目を閉じる。
「――――ッ!!」
激しい爆音と共に、勢いよく身体が後方に飛ばされる。
襲い来る激痛。
身体中が熱い。
頭の中が真っ白になった。
そして僕は死んだ




