異-15 貴族襲撃後の夜
村の広場で宴会が始まった。
貴族襲撃を無事終わらせた僕たちは、今そのお祝いで宴会を開いている。
予想以上に今回の実入りはよかったようだ。
馬車を確認するとさまざまな金品や装飾品があったのだ。
母さんの話によると、貴族達はどこぞの街で買い物をした後、道すがら狩りにきたのだろうと推測した。
その大量にあった金品や装飾品は僕の魔法袋に入っている。その他にも洞窟の一室に無造作に置いてあった金品等も僕の魔法袋の中にある。
前回の戦闘から僕は母さんや団員達の信用を得ることができ、今では山賊団の金庫番となるに至った。
魔法袋に入れておけば、洞窟の一室に置いておくよりも安全だし、僕からこの魔法袋を奪える奴なんてそうそういないだろうという母さんの考えだ。
前回の戦闘で一気にレベルアップしたおかげで、魔気量が増大し魔法袋はいくら入れても満杯にはならない。
【 職業 】☆=2
剣士:LV.9
武闘家 : LV.8
魔法使い : LV.15 ☆
貴族襲撃から帰ってきた後、ボードを確認するとレベルが大幅に上がっていたのと、☆の数が増えていることに気づいた。
☆は現在就いている職業を意味する。それが増えているってことは……
【 職業 】☆=2
剣士:LV.9 ☆
武闘家 : LV.8
魔法使い : LV.15 ☆
現在就いている職業を増やせました。
やっべ。やっべーぞ。これチートすぎるやろ!
剣士を新たに就けると闘気量がかんなり増大した。身体から溢れんばかりの力が湧いてくる。
僕の考察では、職業それぞれに増大する闘気・魔気量が決まっており、魔法使いを就けることにより増える魔気量にプラスして、剣士の闘気量が追加されたのだと思う。
団員の話では一つしか職業に就くことはできないはずなので、今の僕はかなりのチート野郎だ。
これってもしかして、神様に頼んだチート能力だったりして……。
けど何がきっかけで☆が増えたんだろう?
人殺し? それはないか。
魔法の練度? それならもっと早くに増えていてもいい気がする。
職業レベル? うん、これが一番しっくりくるな。職業レベル総数が今は三十二。ということは三十毎に☆が増えるとか。
もしそうなら、これからまだまだ強くなる可能性があるということだ。
テンション上がるわー!
そんなことを考えながら、僕は今料理を作っている。
前世一人暮らしで鍛えた家事スキルを惜しみなく発揮し、料理を作る。もちろん野生動物や魔物の肉、森で得た食材を使っている。
魔物の肉を焼いていると、周囲には瞬く間に人が群がり始めた。
『おいおい、これはなんの肉だ? めちゃくちゃいい匂いだぞ』
ティンバーさんはなにかいいものを見つけたと言わんばかりに、目を爛々と輝かせている。
ちっ。
もう見つかっちまったか。
まるでハイエナのように匂いに釣られてきたゴブリン人間め。
「これは巨大ウサギの肉だよ。あっちのテーブルに出来立てが置いてあるよ」
『ウッホー! さっそくいただいちゃうか! サンキューな!』
一目散で肉に向かうティンバーさん。
『はぁー、これだからゴブリン野郎はねー。もっと大人の私のように優雅に食事を楽しんでほしいよー』
誰が大人? と言いそうになるが、リムさんの人を殺さんばかりの目線で言うことをやめる。
彼女は小柄で、幼い身体つきをしているので大人という単語に突っ込みたくなるんだよねー。
しかし突っ込んだが最後、リムさんの拳をもらって意識を狩られるのは必須だ。
リムさんは僕と少し話すと、別のテーブルに移って行った。
テーブルには熱々の煮込みや魔物肉のステーキ。
お酒もたくさん並んでいる。
そこでは可憐な美少女が出来立ての料理やお酒を並べている。
よく見ると給仕服を着たフレイヤだった。彼女は宴会の手伝いで宴会に参加している。
白を基調とした給仕服はとてもフレイヤに似合っている。
まあ、フレイヤは何を着ても似合うに決まっているけどね。
フレイヤかわゆし。
料理を並べ終わるとフレイヤは僕へと歩み寄ってきた。
『ふぅ……これでだいたいは並べ終わったかな。ヴァンも肉焼くのは一旦休憩して、一緒に食事しよう。私お腹ペコペコだよ』
「そうだね。僕もお腹ペコペコ。そこのテーブルで肉でも食べるか」
宴会参加者は各々好き勝手に飲み食いをしている。
僕たちも空いているテーブルに座り食事を始める。
「しかしフレイヤさんよ。そんなにお皿に肉を盛って食べれるのかい?」
『ヴァン何言ってるのー。こんなのペロッといけるよ。まだまだ食べるよー!』
フレイヤは食べる手を一旦止めてから答えた。
かなりの量を食べているが、彼女は大食いか?
それにも関わらず、彼女は小柄でスレンダーな体型をしている。
前世にもめっちゃ食べるのに痩せていた有名人がいたな。
『ヴァン! もっと肉をくれー! 足りねぇんだよー! このゴブリン顔の俺に慈悲をー!』
酒に酔ったティンバーさんが肉を要求してきた。
このおっさん完全に出来上がってるよ。
『全く戦闘で役に立ってなかったくせによく食べるねー。ほとんどヴァンちゃんが倒したっていうのに』
『そ、それは言わないでくれ……大人としての面目が……』
リムさんもっと言ってやれー。
と心の中でエールを送る。
リムさんの鋭いツッコミに、フレイヤは少しいたたまれない表情をしていた。
ティンバーさんにも気を使うフレイヤたん、いい子。
ティンバーさんは最後まで冒険者を倒すことができず、最終的に相手は僕の火球で焼かれて死んだ。最後までいい勝負はしていたみたいなんだけどね。
リムさんの方は、きちんと自分の相手を倒し、別の仲間のサポートまでしていたので、今回の功績ではリムさんの方がティンバーさんより上なのだ。
『ヴァン〜。私ももっとお肉が食べたいよ〜』
と言いながらフレイヤはご飯を食べ続けている。
しかも僕の腕を絡めとり、ねだるように僕の顔を見上げる。
「わかったよ。フレイヤの頼みならもっと焼いてあげるよ」
『やったー! ヴァン大好きー!』
フレイヤは僕の腕を抱いて、嬉しそうに口元をほころばせて喜んでいる。見ていてわかりやすい表情の変化。今は本当に喜んでいるんだろう。
しかし腕が……。
き、気持ちいぃいい〜。こりゃ癖になるぜ。
えっ、なにがって?
おっぱいに決まってるでしょ。
フレイヤは年の割にでかい。将来は母さんといい勝負をするだろう。
そんなことを考えていると母さんとヒュミルさんが近づいてきた。母さん達は僕たちの光景を見て、頬を緩めながら腰を下ろした。
『お二人さん。いつも仲がよろしいですねー』
「母さん、からかうのはやめろよ」
『でもあんた達、もう付き合っているんだろ? ならもっと堂々としてればいい』
「えっ!? どういうこと!?」
『違うの? そんな話をティンバーから聞いたよ』
僕の知らないところでそんな噂が流れているらしい。
フレイヤは下を向き、頬を赤らめている。
噂の元凶はやはりティンバーさんだ。
あいつ一回殺す。
もう彼に相談するのはやめようと、心に深く刻んだ。
気を取り直して、女性陣の喜ぶものでも出しますか。
「では、最後にデザートを出すとしますか」
『『キャーー! デザートだー!』』
魔法袋からデザートを出すと、いつのまにか近くにいたリムさんとフレイヤは目を輝かせて黄色い声を上げる。
デザートは森で手に入れたハチミツを使ったものだ。
村で作られている卵と牛乳、それにハチミツを混ぜて作ったハチミツプリン。みんな食べたことがないだろうからきっと驚くだろう。
『おっ! 美味しそうだな。俺にも一つくれ!』
「ダメです。変な噂を流す人にはデザートなし!」
『おーい、俺はヴァンのためを思って噂を流したんだよー』
「意味がわからん。泣きながら近づかないでください。汚い。あっち行って」
『そ、そんなー』
『『『『はっはっはっはっはっはっはっ』』』』
僕はこの賑やかな山賊団が大好きだ。
僕たちは世間的には犯罪者集団なのだろう。しかしそんなことは僕には関係ない。
この幸せな日々がずっと続いてほしい、そう思う。
そんなこんなで楽しい夜の時間は過ぎていった。
もう少しで第一部が終わります! 前半はゆったりなペースでしたが、後半はできるだけスピード感を出して書いたのですが、いかがだったでしょうか?
残り第一部終わるまで、頑張ります!
第二部早く書きたい! もっともっと面白くなる展開になるので、楽しみに待っててください!