異-11 魔法開発の日々
『オラオラオラァアアアー! 魔気がコントロールできるようになったからって、剣の鍛錬に手を抜くんじゃねぇぞ!』
「ぐっ……もちろんですよ!」
今では剣を打ち合いながらティンバーさんと会話をする余裕も少しは出てきた。
しかしティンバーさんの力は尋常ではないので、剣を受けるだけで精一杯だ。 もっと闘気量があれば受けるのも楽になるのに……。
『ヴァンちゃん、動きはかなり良くなってきたよー! けど逃げてばかりじゃダメだよー。私の拳とヴァンちゃんの拳で語りあいましょー』
「いや、無理だって! リムさんの拳と語り合ったら、僕の拳が粉々になる未来しか見えないから!」
リムさんの突きを避けながら、彼女の話に反応する。 リムさんは闘気で強化した拳でいとも簡単に大きな岩を叩き潰している。
(あんなの当たったら、病院送りじゃすまないだろ……)
今日も命をかけた鍛錬をティンバーさん、リムさんと共に行なっている。彼らは子供の僕に対して手加減することがなくなった。
僕は今では団員の中でも上位の実力を身につけている。だからといって本気でくるのは大人気ないだろ。
特にティンバーさんからは殺意を感じることがあるし。
『ヴァン、一回死ねやぁあああーーーー!』
「うわぁああああー!」
『あちゃー、ティンバーのやつまた発作が起きちゃったよー』
ティンバーさんは僕が魔法を使えるようになってから、さらに自我の崩壊が進み、今ではときどき鍛錬の最中にバーサーカー化することがある。
マジ勘弁。
『いやーすまんすまん。たまに我を忘れてしまう時があるんだよ、ここ最近』
「本当に勘弁してくれよ。 ティンバーさん、いい大人なんだから子供にムキになるのはどうかと思うよ」
『そうだよー。いくらありえないスピードで強くなってるからって、ヴァンちゃんはまだ子供なんだから加減しないとだよー』
「いや、リムさんもだよ……。大人といえばリムさんって今年でいくつなんですか? とても若く見えるけど」
『ヴァンちゃん女性に年は聞いちゃいけないんだよー。大人の綺麗なお姉さんって思ってればいいよー』
「大人かー。それにしちゃ幼児体型だけど……ごめんなさい。謝るからその拳を引っ込めてください……」
『ヴァンちゃん次はないからねー』
僕は無言で頷くしかなかった。
その時のリムさんの笑顔がとても怖かったのは言うまでもないだろう。
魔法が使えるようになってからは、午前はティンバーさん、リムさんとの鍛錬。午後からは魔法の鍛錬となった。
ヒュミルさんは山賊団の副団長でもあるので案外忙しい身である。そのため基本的には一人で魔法の鍛錬を行なっている。
最初は火球魔法を放つ際に自分の手を燃やしていたが、ヒュミルさんから
『手に集めた魔気すべてを炎にするのではなく、手の表面には魔気を残しておけ。 そうすれば手にダメージは受けない』
「なるへそ!」
というわけで、自分の魔法でダメージを受けることはなくなった。
また感覚さえ覚えてしまえば、身体の好きな場所に魔力を集めることができるようになった。今では火系統の魔法だけでなく、水や風、雷、土が使えるようになったのだ。
イメージさえしっかりしていれば、大抵の系統は使えるんじゃないかと思う。
ちなみにヒュミルさんは火と水系統の魔法しか使えないらしい。
僕ってやっぱり天才?
いや、ここで調子に乗ってはダメだ。外の世界に行けば、もっとすごい子供がいるかもしれない。 そういえば、地球では幼少期に英語を勉強すれば、英語ができるようになるとか、運動も若いうちからやっておいた方がいいって言ってたな。
きっとこの世界でも同じだろう。若いうちからいろいろなことに挑戦する方が伸び率がいい。
だからこそ、今は調子に乗らないで愚直に鍛錬あるのみだ!
で、魔法の訓練をしながら思いつきました!
魔気を身体から離れた位置に集めることができれば、魔法障壁とか火球の遠隔操作みたいのとかできるんじゃね? 昔から考えてた中二病な技ができるんじゃね?
子供の頃、ノートにさまざまな技をまとめていた。
それは大学生になっても続いていたのはここだけの話。
そんな中二病心をくすぐる魔法ができるのではないか?
まあ、僕もそこまで御都合主義じゃないですよ。今までが順調に進み過ぎてました。どうせできないだろうと思っていますよ。
けどやってみる価値はあるかなと思い練習をしてみる。
それから一週間。
身体から離れた位置にも自分の魔力を集めれるようになりました。
僕って天才。
これにより自分の周りに複数のファイヤーボールを空中に出現させたり、水や風の盾、壁を出現させれるまでになった。
また魔気を地面に流すことにより、魔気が浸透した土を操ることもできた。
異能力者バトルでよくある、土が無数の針状になる、あの技ができるのよ。
名ずけて【アースニードル】!!
どや!!
その他に気づいたことは、注力する魔力量に応じて大きさや威力が変わるという点だ。
少しずつチート魔法使いに近づいております。
ふふふふふ。
−−−
魔法が使えるようになってから、半年が経った。
今では、簡単な魔法であれば呼吸をするように使えるまでになった。何とか魔法使いとしては形になってきたと思う。
まだまだ魔法使いとしては駆け出しだと思っているが、ヒュミルさん曰く、
『ヴァンの魔法は今までの魔法使いの常識では考えられない。もう私を軽く抜いて、この世界でも上級の魔法使いだよあんた。一体どうなってんだか』
ヒュミルさんは微妙に引きつった笑みを浮かべている。
ちょっと怖いっすよ。
それを聞いたティンバーさんは拳を握りしててるし。
バーサーカー化しないでよ?
だけど未だ【魔法使い】レベル1の僕が上級? きっとヒュミルさんの冗談なのだろう。
僕を褒めたってなにも出ませんよ?
僕はもっと強くなるんだ。
自重なんてしませんけどなにか?
この頃には【魔法使い】の職業を習得したことを母さんたちに伝えた。
さすがにもう驚く事はなく、なぜか呆れた表情になっていたが気にしない。
今は午前中の鍛錬が終わり、魔法の鍛錬を行うところだ。
念のために今の自分が出せる最高出力の魔法はどの程度なのか調べてみようと思い、人がいない森の奥に移動する。
ちょうどよく大岩を見つけたので、それを標的にして両手で魔法を放つ。
系統は『雷』。
両腕に魔気を貯め、それを電撃に変える。
もちろん自分が感電しないように、身体表面はある程度の魔気で覆うことを忘れない。
バチバチバチッと激しい音を鳴らしながら強力な電撃が腕を取り巻く。
「このくらいが限度かな。よし! いっけぇえええええええええ!」
最大出力で放った電撃は凄まじい閃光と共に、轟音が鳴り響いた。
まるで閃光弾を撃ち込まれたかのような激しい光。
「目が……目がぁあああああああ!!」
天空にいた方が言ってたセリフを言ってしまうほど激しい光。
標的にしていた大岩は砕け、跡形もなく消えた。
大岩の周りの地面は広範囲が黒く焦げている。
想像を絶する威力。
「ほえー、これはピカ◯ュウも真っ青になる威力だわ」
周りへの危険性を考慮すると、普段使いできる魔法ではないと考えるべきだろう。魔気の量を抑えればなんとか使える……かな?
それでも自分の実力を知ることができて満足だ。
まだ魔法の鍛錬は始まったばかり。これからどんな魔法を作っていこうか。
考えるだけで、くすくすと笑みがこぼれる今日この頃であった。
次回はやっと魔物が登場します!そして大罪スキルの効果も発揮して……