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大罪持ちの復讐計画  作者: 晴
幼少期編
14/29

異-10 魔法使いに僕はなる!!

 ラウルとの試合から一週間が経った。

 ラウルは禁止されていたナイフを使用したため、後日母さん達からこっぴどく怒られ三ヶ月間の鍛錬禁止令を出された。

 もっと厳しくしてもいいんじゃないかと思ったけど、まだ十歳だったため情状酌量の余地ありということで今回の罰になったらしい。


 僕はというと、ラウルとの試合ののち二つ目の職業【武闘家】を習得したので、職業について詳しく聞いてみることにした。

 もちろん新たに武闘家を習得したことは内緒だ。さすがに【剣士】を習得してすぐ次の職業を習得したなんて知ったら、みんな発狂してしまうだろう。特にティンバーさんが。


『ヴァンちゃんは武闘家の道に進むべきだよー。ラウルとの試合の時に繰り出した拳の連打! 武闘家の私が断言するよー。ヴァンちゃんは武闘家の才能があるよー!』

「あ、ありがとう……」


 リムさん曰く、武闘家は特徴の一つとして闘気量が他の職業に比べて多くなる。増えた闘気をコントロールし肉体を強化。己の身体一つで戦うため、戦場を選ばないという大きな利点があるという。


『何言ってんだおめぇ! ヴァンは剣士に決まってんだろうが! そもそも剣士の職業を習得してるんだから剣士の才能があるに決まってる! そうだろ、ヴァン!?』

「そ、そうっすねー……」


 ティンバーさん曰く、剣士は武闘家ほど闘気量が増大するわけではない。しかし剣士が覚えるスキルはとても有用で、戦闘において無類の強さを発揮するという。

 スキルは使用すると闘気を多く消費してしまうがそれ以上の効果をもたらしてくれる。

 現に僕もすでにスキルを一つ覚えている。


 【疾風切り】。このスキルを使うと、足の闘気量が一時的に増加し、目にも留まらぬスピードで相手に一撃を与えることができる。その分、減る闘気量も多いんだけどね。


 僕の鍛錬の指導者であるティンバーさんとリムさん、二人の意見を聞いたが武闘家と剣士、どちらも捨て難い。

 というわけで、リムさんと稽古をするときは【武闘家】を就け、ティンバーさんと稽古をするときは【剣士】を就けることにしている。

 現在のレベルはこんな感じだ。


【職業】☆=1

剣士  : LV.5 ☆

武闘家 : LV.3


 ちなみに☆マークは現在就いている職業だ。


 剣士、武闘家の職業を得て、次に欲しいのはやっぱり【魔法使い】だろう。

 前世では魔法使いに憧れていた頃もあった。

 手から炎を出したり、瞬間移動したり、透明人間になって女風呂を覗いたり……。

 やりたいことを山程ある!


 よし! 思い立ったが吉日。母さんにヒュミルさんに魔法を教えてもらう許可をもらいに行くか。

 午前の鍛錬が終わるとすぐに母さんのいるに方に向かった。




−−−




「母さん、ヒュミルさんに魔法を教えてもらいたいんだけどいいよね」

『ダメだ』

「っ!」


 えっ!? いきなりの否定! 予想外の返答で一瞬固まってしまう。

 不意を打たれたが、ここで引き退っちゃだめだ。

 臨戦態勢をとるのだ。


「何で? 僕は闘気もコントロールできるようになって、剣士の職業も習得できた。 この次は魔法を覚えてもいいんじゃないの?」


 僕はよどみない口調で母さんに質問をした。

 母さんの隣にいるヒュミルさんは微かに目を見開き、状況を静観している。


「魔法なんてあんたが簡単に使えるほど甘くないんだよ! そんなこと言ってる暇があったら剣の修行をしなさい! わかった!? わかったらさっさと戻りな!」


 僕は体を硬直させ、母さんの言葉にうなだれた。

 何だかやけに機嫌が悪い。もしかして地雷を踏んでしまったのか。

 もしくは今日は女の子の日だったか。

 しかし頭ごなしに言いつけるのはよくない。これじゃあ良い子には育たないぜ、マミー。


 母さんはこれみよがしに溜息をついて話を続ける。


「魔法は特別な人にしか使えないものだ。魔法使いになれるやつなんて数百人に一人っていわれてる。 だから魔法は諦めて剣の鍛錬に勤しみなさい!」

「くっ!……なんで母さんに、僕の魔法の才能がないってわかるんだよ! やってみなきゃわかんないだろ!!」


 涙が込み上げて来た。

 母さんは僕のことを大事に思っていると信じていた。 だから魔法のことも挑戦はさせてくれるだろうと僕は考えていた。

 しかし頭から無理だと決めつけられ、(精神的に)年甲斐もなく大声で瞳に涙を溜めながら反論した。


『うっ……!』


 僕の普段からは考えられない勢いに、母さんも驚いたようだ。

 僕は前を見据えながら口を開く。


「お願いします! 魔法の鍛錬をさせてください!!」


 母さんは両目を閉じ、どこか投げやりに椅子に座る。

 そして僕に問いかけた。


「じゃあもしダメだったら、今まで以上に剣の鍛錬を厳しくするからね?」


 ぶんぶんぶんっ、と僕は首を縦に振る。

 母さんはしぶしぶだが、僕が魔法の訓練をヒュミルさんから受けることを許可してくれた。


 僕はきらきら輝く瞳をしていたに違いない。

 これで念願の魔法が使えるようになる。胸は期待でいっぱいだ。


「(もう、許可するなら最初からしろっての。 鍛錬で疲れてるのに大声出して余計疲れちゃったよ)」


 僕は誰にも聞こえないくらいでつぶやいたはずだった。

 しかし恐るべき我が母がそれを聞き逃すはずがなく。

 僕はボロボロになりながらひとしきり謝った。


 ヒュミルさんを見ると、少し笑っているように見える。


『とにかくよかったな、ヴァン。ではさっそく今日の午後から魔法の訓練を始めようか』

「はいっ! お願いします!」




−−−




 腰まで真っすぐ伸びる光沢に溢れる緑色の髪。

 華奢な体に黒のローブを着て、手にはいかにも魔術師が持っていそうな杖を持つ。

 親しみやすい雰囲気と緑色の瞳を持つ。

 彼女が我が山賊団で唯一の魔法使い。そして副団長のヒュミルさんだ。


『まずは魔法使いという職業について説明しよう』


 まず訓練を始める前に魔法使いについて詳しく説明をしてくれた。

 説明によると、魔法使いは母さんが言っていたように人数が少ない。

 魔法使いになるには、もちろん努力も必要であるが、才能に起因するところが大きい。


 「剣士百人よりも一人の魔法使い」という言葉があるくらい魔法使いは戦いにおいて無類の強さを発揮する。

 まぁ、接近戦でしか戦えない剣士では、遠方から攻撃ができる魔法使いには到底敵わないだろう。

 そのため冒険者の魔法使いは様々なチームから引っ張りだこになるという。


『おいおい、ヴァンが魔法の訓練って本当か? 魔法なんて使えんのか?』

『ティンバーより才能はあるんじゃないかなー』

『はっ、俺は剣の才能があるからいいんだよ。 お前なんか殴ることと食うことしか才能ないじゃねえかよ』

『ティンバーのくせに言ったなー!』

『はいはい。わかったから。二人が仲いいのはわかったらから、静かにして』


 なぜか僕が魔法の訓練をするという話を嗅ぎつけて、野次馬が集まってきた。

 ざわついてきたが、母さんが野次馬を静かにさせる。


「魔法使いが非常に魅力的な職業なのはわかったよ。でも数百人に一人なら、この山賊団の人数でいえば、二、三人いても不思議じゃないでしょ? だから僕がなれる可能性を少しは考慮してもいいんじゃないかな」


 遠回しに母さんに対して皮肉を言った。

 母さんはやはり聞こえているようで、少し眉間に青筋ができている。


『いや、ヴァナディースがいうように可能性は限りなく低い。杓子定規な考え方ではいけないよ』


 ヒュミルさん曰く、魔法使いの優位性はエデン王国ができる前から変わらない。

 エデン王国は大陸を統一すると、魔法使いに爵位を与えた。魔法使いを囲い込むためだ。

 有用な魔法使いに爵位を与えるのは現在も変わらない。


 魔法使いの才能は遺伝によるところが大きい。

 そのため魔法使い=貴族という図式ができているという。


 母さんが昔言っていたのを思い出す。母さんも父さんも魔法使いの才能はなかった。母さんは子供の頃から魔法使いに憧れを持っていたが、才能がないことがわかってとても落ち込んだと言っていた。

 それで僕も魔法使いになれないと断言したのだろう。


『だからヴァンが魔法使いになれる可能性は限りなく低い。』


 ヒュミルさんは説明が終わると最後に付け加えた。

 ヒュミルさんの脅かすような言葉に、僕は少し尻すぼみになった。


『ではこれから訓練を行う。まずは魔気のコントロールだ。これができなきゃ話にならない』


 魔法使いになれるかどうか。すべてが魔気のコントロールにかかっている。

 こればかりは才能によるところがほとんどらしい。

 子供の頃にできなくても数十年の修行の末、できるようになったという話もあるらしいが、僕はそんなに頑張れる自信はない。

 だから今できるようにならなければ、一生できないようなもんだ。


『ヴァン。できなくても落ち込むなよー。お前には剣士の才能があるんだ』

『できなかったらリムお姉ちゃんがよしよししてあげるよー』

「失敬な」


 ヒュミルさん、母さん、その他団員が期待と不安の入り混じった眼差しで見守る中、ヒュミルさんが話を続ける。


『魔気のコントロールを覚えるために、まずは魔気を感じ取ってもらおう』

「どうやって魔気を感じるの?」

『魔法の詠唱をするんだ。私が手本を見せるから見ていなさい』


 ヒュミルさんは目を瞑り、呼吸を整えている。

 なぜか彼女の身体が光っているように僕には見えた。


『獰猛なる炎の精霊よ 灼熱の炎で 我が道を開きたまえ【ファイヤーボール】』


 そういうと手のひらにサッカーボールぐらいの火球を出した。

 そして、鍛錬場の一角にあった木材に向けて火球を放つ。

 木材は炎に包まれ、一瞬で炭とかした。

 すげーーーー!


『こんな感じね。もし才能があってもいきなり魔法を放つことはできないから、まずは魔気の流れを感じることに集中しなさい』

「うん、わかった! でももしできそうなら魔法を放ってもいいよね」


 そうね、とヒュミルさんは相槌を打つ。

 表情はいつもどおり無表情。たまに見せる笑顔は非常に可愛いので、とってももったいない。

 まあ、そんなことは今考えることじゃないか。


 生まれて初めての魔法。

 オラ、ワクワクすっぞ!


『あんまり気負い過ぎずに、ぽーんとやってみなさい』


 ヒュミルさんは悠然とした微笑をしながら僕に声をかけた。

 周りでは、多くの仲間たちが胡乱な目を僕に向けている。

 団員達は絶対にできないと思っている。

 みなさんの期待を裏切って、華々しく魔法を繰り出してやろうじゃないですか。


 よし、まずは深呼吸をしよう。

 吸ってー、吐いてー、吸ってー、吐いてー……


『早くしろー! こっちは待ってんだぞー』

「うるせー! 今集中してるんだよー!」


 やばい。ティンバーさんの野次に反応してしまった。

 ヴァン。集中するんだ。魔法ができるようになって、透明化の魔法なんか覚えてフレイヤのお風呂を覗くんだろ。

 いや、違う。違くないが違う。

 そんな邪な考えじゃ、魔法なんてできるようにならないだろ!

 世界平和、世界平和、世界平和……

 ってもういい! 詠唱しちゃる!!


『獰猛なる炎の精霊よ 灼熱の炎で 我が道を開きたまえ【ファイヤーボール】』


 突き出した右手の手の平に、体の周りを漂う何かが集まってくる感覚があった。

 この時始めて魔気を感じることができた。

 闘気とは全く違う感覚。

 闘気を剛としたら魔気は柔だろう。とても柔らかい。だからコントロールしようとすると、すぐに壊れてしまう。

 闘気とは違って優しくコントロールしなくてはいけない気がする。


 よし、集中しろ。

 集中、集中……。


 自分でもよくわからなかった。

 しかしできたのだ。魔気のコントロールが。

 手のひらに魔気をゆっくり集める。

 集まった魔気は熱を帯び始め、炎のような真っ赤な色に変わる。


『まさか……たった一回で魔気のコントロールをできるようになるだと……』

『お、おい……嘘だろ。俺これ以上差をつけられた立ち直れなくなるぞ』

『ヴァンちゃん、どんだけー』


 団員達は静かに僕の姿を見つめている。誰が予想しただろうか。僕が魔気をコントロールできるようになるなんて。


『ヴァン! そのままイメージをするんだ! 円形の火の玉を!」


 ヒュミルさんの言葉通り、火の玉を頭の中でイメージする。

 すると手の平から出ていた炎もどきは、円形を形作った。


『よし! 最後にそれを前方に放出するイメージで押し出すんだ!』

「はいっ!」


 こぶし大ほどの火球が出来上がった。

 これを押し出すイメージ……と思ったら火球は手のひらの上で破裂して無くなってしまった。


 むむ? どういう事だってばよ?


 今のパターンは僕には魔法の才能があって、ほいほーいと高威力の魔法ができちゃう展開じゃないんですかい?


『もっとイメージを具体的にするんだ。火がどういった色をしていて、どんな形で、どんな動きをしていたか、はっきりとイメージをするんだ。そのイメージを魔気に流して、イメージを現実化させるんだ』


 なんかわかったような、わからないような。

 そしてヒュミルさんはどこか興奮しているような感じがする。


『しかし驚いたぞ、ヴァン! いきなり魔気のコントロールを覚えるなんて! もう少し訓練すれば魔法もすぐにできるようになるぞ』

「ありがとう。きっとヒュミルさんの教え方がよかったんだよ」

『ははは……私が教えたのは詠唱くらいだけどな』


 ティンバーさんやリムさん、他の団員も驚いている。

 母さんは……なぜか頭を抱えている。


 せっかく魔気のコントロールができるようになったので再度挑戦してみよう!

 右手を構える。今度こそ火球の魔法を完成させる!

 先ほど感覚を思い出しながら、右手に魔気を集める。魔気の感覚はさきほど掴めたので、詠唱は省いた。

 とにかく前世の知識を総動員して考えてみよう。


 まず火は燃えるために酸素を必要とする。

 火の色はいくつかあるが、赤い火より実は青い火の方が温度は高い。

 赤い火は酸素が不足していて、青い火にするには充分な酸素が必要となる。

 さっきは赤い炎だった。

 もっと周囲の酸素を取り込むんだ。


 その瞬間、手の平に焼けるような痛みが走った。僕はその場にうずくまり、手の平の痛みに耐える。

 手の平の上には青い炎の玉が出来上がっていた。

 先ほどの赤い炎よりもとても熱く感じる。


 やばい! めっちゃ熱い! 早くどうにかしないと!


『私に向けて放て!!』


 その言葉を聞き、僕はヒュミルさんの方に手の平を向ける。

 青い火球を放出するイメージをする。


「いっけぇぇぇぇぇ!!」


 青い火球は真っ直ぐヒュミルさんに向けて飛んでいく。

 するとヒュミルさんは水の魔法を火球に向けて放つ。

 しかし……。


『なにぃぃぃぃぃぃ!!』


 ヒュミルさんは紅蓮の炎に包まれた。

 そう、ヒュミルさんの水の魔法で火球を相殺することはできなかったのだ。


「だ、大丈夫ですか!?」

『も、問題ない。とっさに水魔法で身体に膜をはったからね。ちょっと焦げただけだ。しかしなんて威力なんだ。私の水魔法で相殺することもできず、ましてや水の膜を張ったにもかかわらず、いくばくかダメージを受けたぞ』


 ヒュミルさんは今まで見たことがないくらい目を見開いて驚いている。

 威力が強かったのはきっと青い炎のせいだろう。


 しかしこれで魔法が使えるようになった。

 ボードを開いて見てみると予想通りだった。


【 職業 】☆=1

剣士   : LV.5 ☆

武闘家  : LV.3

魔法使い : LV.1


 これからもっと練習して、魔法のレパートリーを増やしていくんだ。

 そしていつか透明になる魔法を覚えて……。


 にゃっはー、興奮してきたぜ!!


『どうした。そんなに興奮した表情をして。まあ、魔法を使えるようになったんだ。興奮して当たり前か』

「うん! もう興奮が収まらないよ! ちなみにヒュミルさんは透明になる魔法は使えたりする?」『透明になる魔法? そんな魔法は実在しないぞ』

「えっ……!」


 僕は早くも目的の一つを失ったのであった。


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