異-8 恋のライバル登場
職業はある特定の分野をこなす事により習得することができる。
剣の鍛錬をすれば【剣士】、武闘の鍛錬をすれば【武闘家】、農業をすれば【農夫】といった具合だ。
職業は基本的に生まれた直後は持っていない。 しかし例外もある。
【勇者】や【神子】といった特別な職業は生まれた時から持っている者もいるらしい。
勇者なんて大層な職業を持ってなくてよかったー。 必然的に魔王と戦わなくちゃいけないなんて僕には無理っす。
職業を習得したかどうかは特別な水晶に手をかざすとわかる。
水晶に習得している職業が表示されるのだ。
僕も一回試したことがあるが何も表示されなかった。
まあ僕の場合、水晶がなくてもボードを見ればすぐに自分の職業がわかるんだけどね。
職業は一つ身につけたら終わりではない、その後の鍛錬により別の職業も習得可能なのである。
しかし複数職業を身につけたとしても、実際に就ける職業は一つのみなのだ。
もし習得した別の職業に転職したい場合は教会に行く必要がある。そこにいる神官により転職をしてもらう。
まるで某RPGゲームのダー○神殿のような感じだ。
流れとしては水晶により習得した職業を確認して、教会で好きな職業に転職するといった感じだろう。
僕はボードにより【剣士】の職業を習得したことを確認したが、あえて母さん達に知ってもらうため、母さん達の前で水晶を使う。
そして今、僕は水晶に手をかざす。
すると水晶は虹色の輝きを放つ。
そして水晶の中心には【剣士 LV.1】という文字が浮かび上がっていた。
『嘘でしょ……』
『これほどの才能を持っていたとは。 もしかしたら魔気も……』
母さんはあんぐりと口を開けて呟いた。
冷静沈着な魔法使いのヒュミルさんも驚いているようだ。
周りの団員の人達も驚きをあらわにしている。
それほど僕の習得スピードは早かったらしい。
母さん曰く、今まででの最高記録は十歳。
それでも鍛錬を開始して四年後のことだ。
僕はというと、現在六歳で鍛錬を始めてまだ二ヶ月ちょっと。 これは異例の速さというほかないだろう。
僕もなぜこんなに早く習得できたのかはわからない。
もしかしてスキル【幸運】の恩恵?
『まさかもう剣士の職業を習得するなんてな……はははは……』
『顔も負けて、剣士としての才能も負ける。 哀れだねー』
『そうだな。 オレなんて哀れなゴブリンキングだな……はははは…』
リムさん。 いつでもティンバーさんをディスる姿勢、尊敬っす!!
そしてティンバーさんは、自我が崩壊気味だ。 そんなにショックだったのか。
……大丈夫かな。
僕の横にいる母さんは、そんなティンバーさんを見て少し居たたまれない表情を浮かべている。
そしてティンバーさんとリムさんのやりとりを見て笑う団員達。
今日も山賊団は賑やかだった。
僕の職業習得の発表会は終わり、本日の鍛錬が開始された。
未だに自我が崩壊しているティンバーさんは放っておくことになった。
僕は以前よりも増えた闘気のコントロールと併せて実戦形式の稽古を行っている。
相手はリムさん。 武闘家の見た目ロリっ娘だ。
武闘家のリムさんは闘気量が非常に多い。 その闘気を自在に拳や脚に集中させる。
拳に闘気を集中させれば、拳で敵を砕く。
脚に闘気を集中させれば、舞うような動きであらゆる攻撃をかわす。
拳と蹴りを使いこなすリムさんは接近戦にめっぽう強い。
素早く動き、重い打撃を打ち込む彼女は、剣を持った僕に一切ひるむことなく突っ込んでくる。
僕は防戦一方になり、一方的にやられてしまった。
「やっぱりリムさんには全く敵わないや」
『いやいや、ヴァンちゃんの成長速度は半端ないよー。 きっとすぐに追い越されちゃうんじゃないかなー』
リムさんに悪かったところを指導してもらい、再度稽古を行う。
この繰り返しでお互いに経験を積むのだ。
−−−
午前の鍛錬が終わった。
すると一人の少年がこちらに向けて歩いてくる。
年齢は僕よりも年上だろうか。
短く切った金色の髪、身長は僕よりも十センチ以上大きい百六十センチほどだ。
手にはショートソードを持っており、挑戦的に見える眼差しを僕に向けている。
少年の姿がはっきり見えた。
確か名前はラウル。 年齢は十一歳。
彼の話を聞いたことがある。
彼は僕が現れるまで職業習得の最短記録を持っていた。
非常に努力家で毎日村から洞窟まで通っている少年だ。
この山賊団の中で彼は僕の次に年齢が低い。
思うところがあった。
僕がフレイヤといるときに、しばしば遠くから冷たい視線を向けていたからだ。
そんな彼が話しかけてきた。
僕は出来る限り、凛々しい顔を心がけ、ラウルの言葉に耳を傾ける。
『お前最近フレイヤとよく一緒にいるらしいな』
「……そうだけど、それがなにか?」
いきなりフレイヤの話題を出してきた彼に、幾ばくか苛立ちを覚えた。
『彼女は俺の女だ。 手を出すんじゃねぇ!』
「……はい?」
何を言っているのか理解できず、聞き直してしまった。
『お前は馬鹿なのか? もう一度行ってやる。 フレイヤは俺の女だから彼女に近寄るな。 わかったな』
お前の方こそ馬鹿なのか。
いきなりそんなこと言われて、「はい、わかりました」とでもいうと思っているのか。
二人の間に沈黙が流れる。
心地よくない空気だ。
リムさんとティンバーさんは黙っている。
僕は嘘偽りなく己をぶつけることにした。
「僕は彼女に惚れている。 彼女を大事に思っている。」
一呼吸置いて、僕は発言を続ける。
「お前に彼女を渡す気は一切ない」
言い切ってやった。
視線が混じり合う。お互いに逸らそうとしない。
ラウルは殺気をむき出しにしている。
『オレと勝負しろ!!』
意地悪そうな笑みを浮かべながら僕に問うてきた。
もういい、わかった。
こいつは話じゃ拉致があかない奴だ。
「……わかった。 その勝負受けてやる。 その代わり負けた方が彼女から手を引くということでいいな」
『もちろんそれでいいだろう』
どう答えるか迷ったか、勝負を受けることにした。
彼は僕の恋敵だ。
この勝負を受けなかったら彼女に悪口を言われると思った。
それに舐められたら終わりだ。 ここで引くわけにはいかない。
僕の横では母さん達が、マジで、という表情をしている。
すまん。
マジだ。
そういうわけで僕は五歳年上のラウルと戦うことになった。