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大罪持ちの復讐計画  作者: 晴
幼少期編
11/29

異-7 鍛錬開始

 洞窟が住居のため朝日が届かないこの場所で、僕はしっかり決めている時間に目を覚ました。


(さあ、今日も一日頑張るぞ)


 朝にすることはさほど前世とは変わらない。

 水瓶(ミズガメ)に入っている水を使い、歯を磨き顔を洗う。

 水を救う際に、水に自分の顔が映る。


 僕は母さん譲りの赤い瞳を持ち、父さん譲りの黒い髪をしている。顔は母さんに似て美少年。

 母さんありがとう。

 マジで。


 朝食を食べて鍛錬場に向かう。

 食事の時は団員のみんなと話をしながら食べる。 情報収集には余念がないのだ。


 実は一ヶ月ほど前から大人たちに混ざり、鍛錬が始まった。

 なぜなら僕が強く希望したからだ。


『ヴァンにはまだ早いんじゃないか』


 母さんは少し渋っていたが、いやいや了解してくれた。

 僕は早く強くなりたい。

 森に入り魔物を倒し、自分のスキルを確かめたいというのも一つ。

 本心はフレイヤを守り、養えるくらい強くなりたい。


 村には魔物の素材を買い取ってくれる店があり、それらは高額で買い取ってもらえる。

 魔物討伐はお金にもなり強くもなれる。

 まさに一石二鳥だ。


 まだ五歳なのに彼女を養うとか早いんじゃないかって。

 そもそも付き合ってすらいないじゃないかって。


 うん、正論だ。

 だけど僕はそうするって決めたんだ。


 実は彼女、去年にこの村に来たばかりなのだ。

 正確には、うちの山賊団に救われた。


 山賊団のティンバーの話によると、去年大きな積荷を率いた商人を襲ったときのことだ。

 商人をあらかた排除し、積荷を確認するとそこには多数の奴隷がいた。いや、奴隷予備軍といった方が正確かな。

 これから街に行って売られる前の人たち。

 その商人たちはただの商人ではなかったのだ。


 奴隷商人。奴隷となる人族または獣人を各地で集め、それを王都などで売りさばく。

 非合法な仕事を生業とする者たち。 彼らを恨む人は少なくないという。

 その時にいた奴隷予備軍の一人がフレイヤだった。


 他の奴隷予備軍は無理やり商人に捕まり奴隷にされ、連れていかれるところだった。

 そのため少量のお金を渡し、各々自分の家に帰らせた。

 しかし彼女だけは違った。


 実の親に売られたのだ。

 彼女の実の両親は貴族。彼女の名前を聞いたときに薄々は気づいてはいた。

 なぜなら彼女の名前を聞いた時、彼女は家名を持っていたからだ。

 フレイヤ・ラッカム。


 家名を持つということは貴族であるということ。

 僕も家名を持っている。

 実は父さんは貴族らしい。 母さんが教えてくれた。

 そのことを教えてくれた時の母さんの顔は、今まで見たことがないくらい悲しい顔をしていたから、それ以上詮索することはしなかった。


 彼女の家は貴族だった。

 しかし大きな借金を抱えてしまい、その担保に彼女を売ったのだ。


『私の実の両親はすごい優しかったんだよ。 でも……ある事件に巻き込まれちゃったみたいで。 子供の私にはわからなかったけど、すごい大変なことだったみたい。』


『最終的には売られちゃったけど恨んではいないんだ。 お母さん、お父さんにはそうするしかなかったんだし』


『お別れの日ね、すごい泣いてたんだよ、お父さんとお母さん。 ごめんね、ごめんねって。 私それだけでもう充分だったんだ。 二人ともちゃんと私のこと愛してくれてるってわかったから』


 フレイヤは自分の身の上話を気丈に話してくれた。

 哀れに思った団員の一人が彼女を村に連れて行き、現在家族の一員として養っている。

 その団員は結婚はしているが、子供ができなかったのでちょうど良かったという。


 フレイヤ曰く、家の人は非常に優しく、まるで実の子供のように接してくれるという。

 彼らの期待に答えたいために、フレイヤ自身家事の手伝いや山菜取りを積極的に行なっているというのだ。


 その話を聞いた時、僕の胸は張り裂けそうだった。

 前世では母さんと妹と離れ離れにされ、父に暴力も受けた。

 自分はなんて不幸せな者なんだろう、世界で一番不幸なんじゃないかとも思ったことがある。


 しかしフレイヤと比べればまだマシだ。

 彼女は実の両親に売られたんだ。

 しかも奴隷にされた。 性奴隷にされることだってあるかもしれない。


 彼女の心は大きく傷ついたに違いない。

 それなのに彼女は明るく振舞っている。 周りを心配させないためだ。

 僕には彼女の気持ちがわかる。 なぜなら僕もそうだったからだ。


 母さん達と離れ、傷つき悲しみに明け暮れた。 僕の心は荒んだ。

 でも周りに心配されないように、表面上は普段と変わらず振舞っていた。

 今の彼女のように。


 だからこそ僕は彼女に惹かれたのかもしれない。

 昔の自分と同じように表面を見繕っている彼女に。


 だから僕は決めたのだ。 彼女を守ると。 彼女を幸せにすると。

 そんなことを考えながら本日の鍛錬が始まった。


 僕の体格にあった剣はないため、短い木刀を使う。

 だがまだ幼い僕は実戦形式の鍛錬はなく、基本的には体づくりが中心となる。


 腕立て伏せ、腹筋、背筋、走り込み。

 その後、木刀による素振り。

 鍛錬は夕方前には終わる。その頃には全身疲労困憊。 歩くのもままならない。

 僕にはまだ農業や家畜の世話、料理といった仕事は任されていないので、気がすむまで鍛錬ができる。

 鍛錬が終わったら、夕飯までに身体を水で拭く。 夕飯を食べたら、読書をして寝る。

 そして早朝に起きて鍛錬をする。この繰り返しだ。


 立てなくなるほど鍛錬を行うにも意味がある。

 闘気をコントロールできるようになるためだ。


『おいっ、ヴァン! そんなんでへばってんのか! そんなんじゃ好きな女一人も守れやしねぇぞ!!』

『 ゴブリン野郎にそんなこと言われたくないよねー。 冗談は顔だけにしろって感じー』

『んだろコラー!!!!!!!!!』

『キャー! ゴブリンに襲われるー!』


 顔ヤクザのティンバーさんと、ロリっ娘な武闘家のリムさんが僕の鍛錬を見てくれている。

 この二人はいつも夫婦漫才のようなやりとりをしている。

 仲がいいのか悪いのかよくわからない。

 まあ、きっと仲はいいのだろう。


 ティンバーさんから強くなるための方法を教えてもらった。

 ティンバーさんは顔は怖いが教え方はとてもうまい。

 そんなこと言ったら殴られそうだけどね。


 人間には常に【気】が巡っている。 気は【闘気】と【魔気】から成る。この二つが合わさり気となる。


 闘気は身体能力に関わる。 闘気が多ければ攻撃力、防御力、俊敏力などが大幅にアップする。

 コントロールできるようになれば、意識的に身体の特定の部位を強化することができるようになる。


 魔気は魔法の源。 魔気が多ければ魔法攻撃力、魔法防御力がアップするという話だが、ティンバーさんは魔気をコントロールできないので詳しくは知らないようだ。

 魔気がコントロールできれば、魔法使いになることができる。

 我が山賊団では唯一、副団長のヒュミルさんしかコントロールできないし、教えることはできない。


 闘気と魔気の最大量は人によって決まっている。

 最大量を増やす方法は一つのみ。 職業のレベルを上げることだ。

 僕はまだ職業を一つも持っていないので、気を増やすことはできない。

 ティンバーさん曰く、鍛錬をこなすことにより時期覚えるとのこと。


『とにかく今は立てなくなるまで鍛錬を続けろ。 そして感じるんだ。 自分の闘気を』

「はいっ! わかりましたっ!!」

『いい返事だ! それでこそオレの弟子だ』


 僕はいつティンバーさんの弟子になったんだろうか?

 ここで異議を唱えると後が怖いので、弟子という事にしておこうと思う。


 闘気のコントロールは比較的簡単に身につけることができるという。

 方法は至極簡単。

 とにかく鍛錬をして疲れることだ。


 身体を酷使することにより、闘気は減っていく。

 これは戦闘においてダメージを受けることにより、闘気を失うことを意味する。

 闘気は休めば回復をする。


 闘気を失う感覚と回復する感覚を覚える事により、次第に闘気を身体で感じるようになる。

 闘気を感じることができるようになったら次は第二ステップ。


 闘気をコントロールできるようにする。

 つまり身体の特定の部位に闘気を集めれるようにする。

 例えば腕。 腕に闘気を集めて相手を殴れば、普段の数倍もの威力になる。

 例えば胸。 胸に闘気を集めれば数倍の防御力になり、ちょっとした攻撃ではダメージを受けなくなる。


『まだまだ体力が残ってるだろ! 立て! 立つんだ、ヴァン!!』

「う、う、う………」


 燃え尽きたぜ…真っ白にな……。


『あーあー。 ティンバーやりすぎだよー。 ヴァンちゃん気を失っちゃったよー。 自分がモテないからってイケメンのヴァンちゃんを虐めるなんてー』

『い、虐めてるわけじゃない。 これもヴァンのためを思ってだなー』

『もう! 言い訳はいいから、ヴァンちゃんをベッドに運んであげな』

『くっ……わかった』


 それからも毎日、僕は気を失うまで鍛錬を行うのであった。




−−−




 鍛錬を始めてから二ヶ月が経った。

 随分と今の生活にも慣れてきた。


 今では闘気を自由にコントロールできるようになり、周りを驚かせている。

 母さんもそんな異常な速度で成長していく僕に対して、嬉しさ半分、困惑半分といった感じだ。

 ティンバーさんとリムさんの漫才にも慣れ、漫才に入れるまでになった。


『ヴァン! まだ余裕がある表情だな。 その顔が苦痛に歪むまで今日は終わらねぇからな!』

『うわー。 いくら自分が顔面ゴブリンだからってそこまで言うかねー』

「リムさん。 ティンバーさんはいつまでもゴブリンではないですよ。 人は進化するものです。 すでにゴブリンキングにはなってるんじゃないですか」

『そうだね、ヴァンちゃん。 今度からはゴブリンキングにするよー』

『こ、このガキ共めーーーーー!!!!!!!!!!!!!』


 そんな平和な日々を過ごしつつ、今では気を失う事なく最後まで鍛練をこなせる。

 闘気コントロールにより重い物を持つことができるため、獲物も木刀からショートソードにランクアップした。


 しかしある時を境に急に体力が増えた気がする。


 なんでだろう。


「!!」


 ある考えが頭をよぎり、ボードを確認してみる。



 するとあったのだ。


 職業が。




【 職業 】☆=1

剣士 LV.1 ☆



「よっしゃーーーーーーー!!」


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