異-6 美少女との出会い
書庫を見つけ、この世界の知識を身につけ始めてから三年が経った。
あれからもたくさんの本を読んだ。主に貴族と平民の恋物語だが。マジでどんだけ貴族様は恋愛に飢えてるんだよ!
書庫の八割はそういった内容の本。
さすがの僕だって、ライトノベルは全書籍の七割だったぞ!
中にはためになる本もあったが、読みたかった魔法やスキルに関連した本はなかった。
残念で仕方ない。
母さんに聞いてはみたが、『ない!』の一言で一蹴された。
なんか機嫌が悪かったのは何故だろう。
女の子の日だったのかな。
魔法やスキルについてはおいおい山賊団の人達に聞こう。
みんな気さくな人達だからきっと快く教えてくれるだろう。
それに僕には最強の武器、営業スマイルがある。
ニッコニッコニー。
この三年間は非常に平和な日々だった。
主に書庫に入り浸っていたが、母さんと外に遊びに行くこともあったし、団員の人達に遊んでもらったりもした。
外に出るようになってわかったが、この山賊団、規模がでかい。
洞窟だけでなく、洞窟の外にも住居区があり、まるで小さな村だった。
その小さな村は基本的に非戦闘員が暮らしている。
戦闘員の食事の準備をする者から、鍛冶職人、農作業や畜産業を営む農民、酪農家までいる。
村から洞窟まで毎日鍛錬に通っている団員もいる。
こんな村まであるので食事は意外と豪勢だ。
洞窟暮らしなので大したものが出ないと思っていたが間違いだった。
パンやスープ、肉、野菜、乳製品も揃っている。
街に出なくても最低限暮らしていけるだけの食材は村で確保できるようになっている。
外の村には子供もたくさんいる。
母さんはその子供たちと僕が仲良くなって欲しそうにしている。
けどさすがにねー。
僕中身は二十代後半だよ。
実は母さんより年上だったりする。
見た目は子ども、頭脳は大人、
その名はヴァンちゃん!
そのため村の子供たちと遊ぶことはなく、必然的に一人でいることが多い。
え?
一人ぼっちで寂しくないかって。
そんなの前世の頃からボッチだった期間が長い僕にはどうってことないですよ。
強がりじゃないよ?
寂しくなんてないんだから!
僕は今では五歳になり、一人で洞窟の外に遊びに行けるまでになった。
外は雲一つない快晴。
燦々と照りつける太陽。
陽の光を全身に浴びる僕。
みてっ!
僕輝いてるよ! 外って素晴らしいね!
今日は気分転換に少し離れた場所まで散歩をしてみよう。
母さんからは魔物が出る森、ニョルズの森は入ってはいけないと言われているが、それ以外特別行く場所は禁止されていない。
いつもは洞窟周りまでしか行くことはなかったが、今日はもう少し先まで行こうと思う。
洞窟を出て、村の方に歩く。
洞窟と村は二百メートルほどしか離れていない。
村までの道は舗装されているわけでないが、歩きやすいように道は整えられている。
歩いて数分で村に着いた。
村の中心には大きな広場がある。
ここでは特別な日にはテーブルを置き、大勢で飲み食いし騒ぐことがある。
一度だけ僕も参加したことがある。
確か山賊団が大勢の商人たちを襲い、実入りが良かったときだ。
村の広場では子供たちが元気に遊んでいる。
追いかけっこをしたり、ボールを使って遊ぶ子供。
おままごとのようなことをしている女の子もいる。
その姿を横目で見ながら広場を後にする。
広場を通り過ぎ、村を背にする。
目の前にはたくさんの樹木が生い茂る森が広がっている。
人通りはない。この森をずっと先に進むとニョルズの森に入るからだ。
だがこの森の入り口付近はまだ安全なので、村人が山菜を取りに入ることはある。
森を少し進むと、鬱蒼と茂った樹木に囲まれた広場があった。
するとそこに、艶やかな水色の髪の少女がいた。
髪は背中まで伸びている。
燦燦と降り注ぐ木漏れ日の下。
小柄な切り株の上に佇んでいる。
円らな瞳は透き通るような青みがかっている。
髪色と瞳は同色で、雪のように真っ白な滑らかな肌。
女神様と見間違えてしまうような整った容姿。
歳は僕より少し上くらいだろうか。きっと二つか三つくらいしか離れていないだろう。
「あっ」
彼女は僕が見ていることに気づいたみたいだ。
するとちょっと照れたようにはにかんだ。
「!!!!!!!!!!」
身体に電気が走った。
呼吸の仕方がわからなくなる。
いや呼吸をするのを忘れた。
苦しい。
これは呼吸をしていないせいか。もくしは彼女のせいか。
きっと、いや確実に彼女のせいだろう。
僕の心はこの時彼女に奪われてしまった。
淡い恋心が芽吹いた。
僕はくしゃっ、と破顔する。
彼女の近くまで冷静さを装いながら歩く。
「こんにちは。驚かせちゃったかな?」
『ちょっとね。 あなたはヴァナディース様の息子さんね』
「そうだよ。よくわかったね」
『もちろんよ。 あなたのお母さんにとっても似てるもの』
「そうなの? そんなこと初めて言われたよ」
僕と美少女は笑顔で会話を続けた。
彼女の名前はフレイヤ・ラッカム。
村に住む七歳の少女。
森にはお母さんの手伝いで山菜を取りに来ている。
今は休憩をしていて、その時に僕が現れた。
『ヴァンはなにしてるの?』
「僕は天気が良かったから、散歩をしていたんだ」
『そうなんだ。 そうだ! 私山菜採りも終わったから、もし暇なんだったら一緒に散歩しない?』
思いもしない彼女からの提案。
もちろん断る理由もないので一緒に散歩することになった。
「そういえばヴァンって呼んじゃったけどいいかな? やっぱり団長の息子だし、様をつけた方がいい?」
『ヴァンでいいよ。 たまに村の人からヴァン様って呼ばれることあるけど、なんか嫌なんだよね。 僕自身偉くないし。 それに僕たち子供同士なんだし気にしなくていいでしょ』
「それもそうだよね。 じゃあヴァンって呼ぶね」
彼女は外見からはおとなしそうに見えるが、実際は非常に明るい女の子だ。
こういうサッパリしたところも好感が持てる。
―――ああ、やっぱり。
目の前の美少女に僕は恋をしている。
まだ七歳の少女に中身が大人の僕が恋なんておかしいかもしれない。
ロリコンって言われてもしょうがないだろう。
前世では辛うじてロリコンではなかった……と思う。
妹属性が好きだっただけだ。
断じてロリコンではない。
「じゃあどこ行こっか?」
『ヴァンが好きな場所でいいよ』
僕が好きな場所?
まず頭に浮かぶのは書庫。
そんな場所に彼女を連れて行ったらすぐに嫌われちゃう。
初めてのデートの定番といえば映画館や水族館。
確かはじめてのデートは映画館に行って映画を見たな。
可愛い女の子ばかり出るアニメ映画を見たいと言ったらドン引きされたのは、未だに僕の苦い思い出だ。
その次の彼女とはいきなりネズミがいるランドに行った。
会話が全く続かず気まずい雰囲気になり、その後すぐに別れたんだっけ……。
みんな!
初デートにネズミのいるランドはダメだぞ! お兄さんとの約束な!
しかしどこへ行こう。
(……)
つーか僕ここらへんのこと全然知らないじゃないかー!
やっべーぞ。
だいたい僕、ほとんどの時間洞窟にいるからなー。
あっ。
洞窟なんていいんじゃないか。
『洞窟なんてどうかな?』
「いいよ! 実は私洞窟には入ったことないの。 子供の遊び場じゃないから入っちゃダメって言われてるんだけど前から興味があったんだよね」
「じゃあ洞窟の中を案内するよ」
『やったー!』
フレイヤは両手を挙げてバンザイした。
かわいいなー。
喜んでいるフレイヤを見て、僕も嬉しくなる。
ここは前世の知識をフル動員して、紳士でナイスガイなところを見せるんだ。
僕だって本気を出せばそれなりにそれなりのそれなりを発揮できるはず!
よし!
どうすればいいんだっけ?
と、とりあえず車道側を僕が歩くんだ。
これができる男のマナーさ。
って車道なんてねーし。
『ヴァンって普段は何してるの? 他の子達と遊んでるところ見ないし』
「僕は洞窟内にある書庫で大抵本を読んでるかなぁ」
『ヴァンって文字読めるの!? すごいね!!』
「それほどでも……あるかなー!」
フレイヤはキラキラした瞳で僕を見つめる。
やめてくれい。惚れちまうじゃないか。
すでにベタ惚れですが。
ちなみに僕が文字を読めるのは母さん達も知っている。
幼い頃から本を見ていたら、いつのまにか読めるようになったということにしている。
母さんもたまに本を読み聞かせてくれていたので、それの影響もあるのだろうと魔法使いのヒュミルさんが母さんに説明した。
グッジョブ!
−−−
洞窟での僕のこの世界での初デートは無事終わった。
フレイヤはとても楽しかったようで満面の笑みを浮かべている。
『ヴァン、今日はありがとう! とっても楽しかったよ! また一緒に遊ぼうね』
「……うん! またね。また森の広場に行くよ」
はぁ。
彼女は遊びだと思っているのか……。
まあ、楽しかったならいっか。
それからも僕たちは森の広場で落ち合い、いっしょに遊ぶようになった。
これってもしかしてリア充?