天-1 目が覚めると……
「……」
僕は朝の目覚めが非常に悪い。よく二度寝をする。目覚ましがないと、お昼近くまで寝ている自信がある。
現に目覚ましをかけ忘れてしまった日は、お昼ごろに起きることがある位だ。
まだ小学生だったころは、よく寝坊して遅刻をしていた。
そういえば子供の頃、のび○なんてアダ名をつけられたこともあったな。けど僕は悪口だとは思っていない。
の〇太はあやとりプロ級だし、射撃の腕前もスナイパー並なんだよ。
つ、強がりとかじゃないんだから!
そんなあだ名ではあったが、学校へ行けばそれなりに成績は良く、スポーツもこなす、いわゆるクラスの中心的存在だった。自分で言うのもなんだが、女子生徒にも少しはモテていたと思う。
だけど朝だけは唯一の苦手だった。
妹が小学生に上がると、毎朝部屋にやってきて、無理やり僕を起こす。なぜなら一緒に学校に登校するためだ。
目覚めが悪い僕も、かわいい妹の頼みだとすんなり起きることができた。
僕の妹とは思えないくらいの可愛さ。目に入れても、痛くなくはないだろうが、我慢できるくらい可愛い。
周りはよく僕のことをシスコンだと騒いでいたが、あえて言おう。
―――僕はシスコンである!
そんな大好きだった妹とは十年前に両親が離婚してから一度も会っていない。妹は母さんの元へ、僕は父さんについていくことになったからだ。
母さんと妹と離れてしまう日、僕は無様に泣きじゃくっていたのを覚えている。いや今でも鮮明に思い出すことができる。それほど彼女たちとの別れが嫌だったのだ。
三人でいた幸せな時間がもう訪れないと思った途端に、涙が溢れ出てきた。母さん達と別れてからも暫く涙は止まらなかった。
父さんはほとんど家に帰ってくることがなかったため、僕は父さんと話をしたことがほとんどなく、これからどう接していけばいいのかわからなかった。
そもそもなんで僕だけ父についていかなくちゃいけないのか。母さんは僕のことを犠牲にして、自分たちだけ幸せになるつもりなんだと思った。
それからの父さんとの生活はとても酷いものだった。
父さんは仕事から帰ってくると酒を飲み、暴れ、しまいには僕を殴ってきた。
―――なんで僕だけこんな目に合わなきゃいけないんだよ!!
理不尽な暴力や心ない言葉に僕の心は荒んでいった。落ちるとこまで落ちなかったのは、いつか母さんと妹とまた暮らすことを夢見ていたからだろう。
大学生になり、父さんのもとを僕は離れた。
必死に勉強した甲斐もあり、大学は日本でもトップクラスの大学に合格することができた。
それから三年、父さんとはほとんど連絡を取らずに大学生活を送っていた。
普段は昔のことなんて思い出すことがなかった。なぜか今朝は妙に朝から頭が冴えており、過去の出来事がどんどん頭の中に浮かんでくる。
いつも目を覚ました後は、頭はボーっとしていて、体がだるくて起き上がるのに時間がかかる。
だけど今は違う。全くだるさがない。むしろ軽い。
軽いというか、浮いている感じがする。まるで体全体が水中の中にいるみたいだ。
カナヅチだから泳ぐことはできないんだけどね。
目を開けると、そこには視界一杯に広がる白の世界だった。三百六十度すべてが白。生き物や建物など何もない世界。
まるで雲の中にいるような景色の中に僕は浮いていた。
―――ここはどこだ?
と、とりあえず落ち着くんだ。僕はクールな男。慌てたことなんて、中学生の頃におねしょをした時しかない。
僕の脳内はぐちゃぐちゃに混乱していたが、冷静な一部は今の状況を解析している。
(なんで僕はこんな場所にいるんだ?)
そんな言葉を呟きながら、直前までの行動を思い出そうと試みる。
そして僕は直前に何があったのかを思い出した。
『そうだ。僕は死んだんだ』