隠世は怖いところでした
ひょんなことから平安時代にタイムスリップしてしまった杏。
そこで三大悪妖怪の酒呑童子、茨木童子と出会う。
そして、出掛けることに…
池の中に飛び込むと池の水が逆流したかのように反対方向へ向かっていく。
気がつけば池の中にいた。言ってしまえば、池の裏側。
「大丈夫だったか?」
「は、はい」
驚くことに着物は全く濡れていない。
それに周りは見慣れない風景だった。所々に鬼火などが浮いている。
「ここって…」
「隠世だ」
隠世とは妖怪の住んでいる世界。
現世、人間の住む世界とはまた違った雰囲気がある。
「あの、私が人間だとバレたら食い殺されるのでは?」
「…そうだろうな、でも俺達から離れなければ大丈夫だ。なんの心配もいらない」
「もし、離れたら?」
「死を覚悟しろ」
前をどんどん歩いていく茨様が突然声を発した、大妖怪から言われるとちょっと不気味だ。
「よし、着いた。ここが妖都だ」
「ここが…」
たくさんのお店や妖怪達、みんながみんな友達のように接していて楽しそうだった。
「凄いだろ、ほら妖怪を探すとか何とか」
「はい、私のいた時代では九尾…あ!」
「急に何だ?」
「私のいた時代は未来だったのでお礼を言っても分からないと…」
「あ~、なるほどな」
「残念だがここで諦めるしかないな」
「そうですよね…」
私があからさまに元気を無くしたからか酒呑様は必死に笑わせようとしてくれた。
「ふふっ…大丈夫ですよ、とりあえず現代に戻らなくてはいけないのですけど…」
「戻る方法か…とりあえず調べておこう。この時代を楽しめ」
「…はい!ありがとうございます」
その時だった。
「茨木様と酒呑様ではございませんか!」
「待っていらしたのですよ」
沢山の女の人が近づいてきた。
私はと言うと誰かに押され尻餅を着いて倒れしまった。
「いたた…着物が汚れちゃう」
「おい、お前ら邪魔だ…大丈夫か?」
茨様が私に手を差し伸べてくれた。
私は茨様の手を借りて起きた。
「あ、ありがとうございます」
今その優しさは色々とヤバいです…
周りにいた女の人が私を睨んでいる。
「ちょっとそこの女、何茨木様の手を借りてるのよ」
そう言ってその女の人は私の手を叩いてきた。
「いたっ」
妖怪だからなおさら力がある。
私の手は腫れて長い爪が当たったのか血が出ていた。
「あんた邪魔よ」
「…おい、お前こそ邪魔ださっさと失せろ」
茨様達は私を守るように立ち塞がった。美形二人に守られている私…お姫様とはこういうものなのか。
「っ……いつもの茨木様達では無いですわよ」
女の人はそう一言言うとどこかへ行ってしまった。
「すみません、ありがとうございます」
私は二人に深深と頭を下げた。
「それより手大丈夫か?」
「全然大事なことがですよ」
私はニコッと笑った二人を心配させたくはない。
腫れた手に少しだけ治癒をかけようとした時、茨様に晴れている方の手を触られ痛みが走った。
「いたっ」
「何が大丈夫だ、腫れてるじゃないか」
「このぐらいなら大丈夫ですよ」
「はぁ…こっちに手をよこせ。巻くだけならいいだろ」
酒呑様はどこからか包帯を取り出し私の手を布で巻いた。
そんなに酷くは無いんだけどな。
「…ありがとうございます」
私は思わず笑ってしまった。
大妖怪で三大悪妖怪の一人が物凄い心配性だと知ったらみんな驚くだろうな。
「何だ?何か面白いか?」
「いや、心配性だなと思いまして」
「こいつはいつもそうだ…他に痛むところは無いのか?」
とか言いながら心配する茨様、この二人こんなに優しいのにどこが悪妖怪なんだろう。
「ん?何かあるか?」
「いえ、何でもないです」
それから私達は妖都を食べ歩きをしながら回った。
「ほら、有名な団子だ」
「お団子ですか?」
「お前その手で食べられるか?」
酒呑様は私の口にお餅を入れて笑った。
「た、たべらへまふ!」
「まず喋れてないじゃねぇか」
私は口の中にあったお餅を食べた。
「…喋れます!」
「おい、あまり遊びすぎるなよ」
「分かってるって、お前気になるところは無いのか?」
「気になるところ?…あの、ちょっとやってみたい事が」
「やってみたい事?」
「はい!私が大好きな事です」
そう言って私はニッと笑った。




