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異世界で俺は孤児になりました   作者: 睦月 霊華
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依頼2 ジーン視点

前回に引き続けてのジーン視点です。

「あっ!ジーンさん!お帰りなさい!ところでギルマス知りませんか?」


 俺がギルド支部に着くと、男の職員が一人かけよってきた。


「エンジか。ああ。今帰った。ギルマスか?ギルマスならあそこにいるぞ。」


 俺は自分のはるか後方に見える街の大門を指しながらそう言った。


「え?あそこって大門ですか?いつの間にかいなくなってたと思ったら何であの人はそんなところにいるんだよ!」


 ギルマス。やっぱり勝手に抜け出して来たのか。こいつら職員も大変だな。あの人に何時も振り回されて。


「ギルマスは今、入国手続きしてんだ。帰ってくるのも遅くなると思うぞ。」

「入国手続きですか?何の?」

「ああ。そうか。お前らにはまだ言ってないんだったな。依頼先で子供拾ったんだよ。四歳ぐらいのな。」

「えっ?子供ですか?依頼ってあの魔の森へのフェンリルの討伐ですよね?そこに子供がいたんですか?」

「ああ。そうだよ。」

「へぇ。じゃあ、その子供って魔物なんじゃないですか?」

「ああ。そうかもな。」

「・・・えっ!?そうかもなってなんですか!?その可能性があるんですか!?」


 エンジの疑問に俺は肩をすくめた。


「その可能性はある。ただな。あの子供はフェンリルに襲われていた。魔物が魔物を襲うなんて聞いたことがない。だから助けた。それだけだ。」

「それだけって!うわー!どうすればいいんですか!?そんなの上に報告出来ませんよ!」

「ギルマスは了承している。何も問題ない。それに、上への報告はお前達の専売特許だろ。どうにかしろ。」

「うわー!全部人任せですか!?無理ですよー!」


 俺は無理だ無理だと叫ぶエンジに、一言、「頑張れ。」とだけ言うと、それ以降は全て無視して、ギルドに入った。



「あ〜。ジーンさん。お帰りなさ〜い。」

「ああ。ただいま。」


 俺がギルドに入ると、受付にいた女性ギルド職員に声をかけられた。


「ジーンさん。依頼はもう終わったんですか?」

「ああ。もちろん終わらせてきたさ。ミント、フェンリル五匹だ。処理は頼む。」


 俺が話の途中で、依頼内容のフェンリルを五匹渡すと、ミントは即座に仕事モードに切り替えた。

 こういう所は流石プロだ。まだ二十代なのに仕事が早い。


「あ、はい。確かに五匹受け取りました。依頼は完了です。依頼料は今もらいますか?」

「いや、今はいい。今から行くとこがあるからな。」

「そうですか。では、また後日ですね!」


 仕事が終わると直ぐに元に戻るのもすごいと思う。慣れていないと出来る技じゃない。


「ああ。よろしく。じゃあ、俺は用事を済ませてくるな。」

「は〜い。行ってらっしゃ〜い。」


 俺はミントに見送られながらギルドを出た。外にはエンジはもういなかった。おそらく上への報告に行ったのだろう。

 俺はそのまま真っ直ぐ大門を目指して歩き出した。

 用事とは、あの子供を引き取って家に帰ることと、子供用の服などの必需品を買うことだ。

 俺はめぼしい子供用用品店を確認しながら街を進んだ。





「ジーン!遅いです〜!待ちくたびれましたよ〜!」


 目的地に着くと、ギルマスは既に外で待っていた。どうやら入国手続きはとっくに終わっていたらしい。

 随分外で待たされたと怒られた。


「ああ。遅くなって悪かったな。で、そいつはどうなった?」

「そいつ〜?…ああ、この子供のことですか〜?それなら大丈夫ですよよ〜。貴方の養子にして入国許可証も身分証明書も作りましたから〜。」


 入国許可証はとにかく、身分証明書なんて簡単に作れるもんじゃないぞ。ギルマスの権限でも振りかざしたか?

 まぁ、俺には関係ないな。どうでもいいし。


「そうか。名前はどうしたんだ?身分証明書は名前が必要だろう?」

「それも問題なしですよ〜。この子が起きて、名前が分かったら自動的に書き加えられる仕組みに改造しましたから〜。」

「改造って。いいのか?勝手にそんなことして。怒られるぞ?」

「ふふん〜。大丈夫です〜。許可なら脅、じゃなくて、お願いして取ってきましたから〜。」


 今脅してって行ったよな。

 ・・・はぁ、もう何も突っ込むまい。

 ギルマスに何を言っても意味ないからな。

 俺は一つ大きいため息をつくと、ただ一言、「そうか。」とだけ呟いて、言いたいことを全て飲み込んだ。



 その後は、ギルマスと子供用の服やら食器やら、本やらを買って回った。

 途中で、「なんかこうしてると、子供連れの夫婦みたいですね〜。」とか、おかしな事を言うギルマスをのすことはあったが、それ以外は割と穏やかに買い物は終わった。



 家に帰ってくると、まずは子供を俺の部屋のベットへ寝かせた。

 帰って来てから気付いたが、男の一人暮らしだからベットなんて一つしか置いてない。それに、掃除自体あまりしないから家中が埃っぽかった。

 俺は取り敢えず、家の掃除をすることにした。

 いくら子供とはいえ、こんな汚い家に住みたいとは思わないだろうからな。





 掃除が全て終わり、買ってきた物も全て片付いたのは、夕日が沈む頃だった。

 その間、子供は一度も目を覚ます気配はなかった。

 いくら気絶しているとはいえ、こんなに長い間眠っているものなのか?

 俺は疑問に思いながらも、明日も目を覚まさないなら医者に行こうと決めて、今日は夕飯を食べて早めに眠ることにした。 


✽✽✽


 翌日。


 俺はいつもより早く目が覚めた。

昨日早く寝たからだろう。外では丁度朝日が登っていた。

 俺はベットが使えないためソファで寝ていたが、寝室へ様子を見に行くと、子供は昨日と同じ様に眠ったままだった。

 息はしているから生きてはいるんだろう。ただ、まるで置物のようにピクッとも動かないのはおかしい。

俺は後で医者に連れて行くと決めると、目が完全に覚めて二度寝する気分でもなかったので、朝食を食べることにした。




 昼頃。


 俺は子供を連れて医者に会いに来ていた。


「ジャック!来たぞ!いないのか!?うっ!」


 俺が声をかけながら扉を開けると、凄い悪臭が漂ってきた。

 家の居間へ入ると、衣類や使った後の食器、意味のわからない魔道具など、色々なものがそこら中に散らばっていた。


「いるよ〜。今手が離せないからそこらへんに座ってちょっと待ってて!」


 部屋の奥からジャックの声が聞こえた。

 座っとけって言われても困るんだが。一体どこに座るんだよ…。この汚い部屋で。

 取り敢えず、俺は風魔法で散らばっているものを退けて、小さい空間を作り出すと、そこに座った。






「お待たせ〜。」

 

 しばらくすると、奥から一人の男が出て来た。

 長い腰まである黒髪は背中で無造作にくくられており、顔は長い前髪のせいでよく見えない。辛うじて黒い眼鏡をかけていることが分かるぐらいだ。

 これぞ、ザ・不潔と言うぐらいの見た目の男だ。


「ジャック。この部屋の惨状はどうした。何時にもまして酷いな。」

「そうか?このぐらいなら普通だと思うが。」


 俺の質問に首を傾げるジャック。

 俺はその無頓着さに苦笑するしかない。


「普通じゃねぇよ。これが普通でたまるか。」

「ははっ。それもそうだな。ところで、今日は何しに来たんだ?」

「ああ。そうだったな。今日はこいつを見てもらいに来たんだよ。昨日、魔の森の前で拾った子供なんだが、フェンリルに襲われててな。気絶してるだけの筈なんだが全然目を覚まさねぇんだ。」


 俺はそう言うと、ジャックに子供を見せた。


「へぇ。この子、キレイな顔してるな。これは将来美人に育つぞ。」

「ああ。そうかもな。」


 先に目がいくのはやっぱりそこかよ。たくっ。


「にしても、魔力が少ないな〜。この子、本当に生きてるの?」

「ちゃんと生きてるよ。でも、やっぱ魔力が少ないのか。」

「うん。魔力の器は魔族並みに大きいのに、それに魔力量が伴ってない。多分目が覚めないのはそのせいだろうね。」

「そうか。」


 魔力の器は魔族並みに大きいのか。じゃあ、この子供は魔族か?だが、それにしてはおかしい。魔族の特徴はエルフと同じで耳が尖っていることと、黒髪黒目の所のはず。この子供は黒髪だが、耳は尖っていない。それに、人間にも黒髪はいるからやっぱり、人間の可能性の方が大きいし。


「あっ!」


 俺が考え込んでいると、ジャックが突然驚いたような声を出した。


「どうした?」

「あ、いや、この子、魔力の自動回復してるみたいで。」

「は?魔力の自動回復?それが出来るのは使族だけのはずだ?」

「そのはず、なんだけどね…。」


 ジャックはそういったっきり、何かを考え込むように、黙り込んでしまった。



 しばらくすると、ジャックはもとに戻った。

 何を考えていたのか聞いても、「教えな〜い。」と言ってかわされた。

 まぁ、今はいい。だが、いつか絶対はかせる。


「この子は後2・3日位で目が覚めると思うよ。」


 俺が内心で何を考えているのか薄々気づいてるだろうに、ジャックはそれだけしか言わなかった。

 俺はそれに頷き、「今日は帰る。」とだけ言ってジャックの家を出て、そのまま真っ直ぐ家へ帰った。


 帰って来てから気づいたが、ベットを買ってくれば良かったと思う。


✽✽✽


 翌日も、その翌日も、子供は目を覚まさなかった。

 俺はその間、冒険者家業は休み、ずっと家にいた。子供が心配だったのだ。

 毎日お風呂や着替えの世話をしている内に、何故かこの子供は自分が守らなくては!という気持ちが湧いてきたのだ。自分でも不思議に思うが、一度思ったことはどうしようもない。


 そして、その日もいつもと変わらず、子供は目を覚まさなかった。



 だが、更にその翌日。

 この変わらない状況に変化が訪れた。子供が目を覚ましたのだ!


 俺は家の中で人が動く気配を感じて、直ぐに寝室へと向かった。

 扉を開けると、いつも寝ていた子供が目を開け、体を起こしていた。子供の目は黒だった。魔族と同じ、黒髪黒目の特徴。だが、不思議と恐怖は感じなかった。

 魔族は使族の敵であり、使族に庇護されている人間の敵でもある筈なのに、だ。

 俺はひとまず、何処から来たのかと、名前を聞いた。

 子供は孤児で、名前はレン・サガラというらしい。


 これからこの子供、改め、レンは俺が守る。絶対に!

 俺はそう決意した。









 






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