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異世界で俺は孤児になりました   作者: 睦月 霊華
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依頼 ジーン視点

 俺、ジーン・アーカーはその日、冒険者ギルドの依頼で魔の森までフェンリル(狼型の魔物)の討伐に来ていた。

 俺はS級冒険者でフェンリルのようなB級の魔物討伐はBかA級冒険者のする仕事なのだが今回は魔の森に発生したということで討伐ランクが一気にAへと引き上げられた。それだけならギルドにいるA級冒険者が行けばよかったんだが運悪く俺以外のA級以上の冒険者が依頼で全員出払っていたのだ。

 そんな訳で俺は渋々と今回の依頼を引き受けた。


「ああ〜、きつー。何で俺がこんな仕事しなけりゃいけねぇんだよ。たくっ。もう帰るかなー。」

『駄目ですよ〜。依頼を引き受けたからにはしっかり完了してくださいよ〜。』

「うわっ!………なんだよ。あんたかよ。驚かせんなよ。」


 俺が突然聞こえてきた女の声に驚いて、声の発生源を見ると、変な物体が空を浮遊していた。

 俺はこの物体に見覚えがあった。

 そう。これは、俺の登録しているギルド支部のギルマスの持ち物だからだ。

 この、犬と猿が合体したような変な物体はギルマスが開発した魔法通信機で、見た目はあれだが性能は最高という優れものだ。


『なんだよじゃありませんよ〜。帰っちゃ駄目ですからね〜。』


 この間延びした声も久しぶりに聞いたな。

 というか、やっぱ、この喋り方なんとなくイラッとするよな。無駄に高性能なのもこういう時はいらないものだ。


「ギルマス。解雇されたんじゃなかったのか?何で俺に通信してきてるんだ?」

『解雇?どういうことですか〜?私は解雇なんてされてませんよ〜。』

「そうか。いや、一ヶ月ぐらい見なかったからついに解雇されたんじゃないかってギルドの奴らと噂してたんだよ。」

『も〜。失礼ですね〜。どうせレイとセンリでしよ〜?貴方達は酒ばかり飲んでないできちんと働いてくださいよ〜。』

「うるせぇーな。別に働かなくても食っていけてるんだからいいんだよ。というかさ、何でこの通信機ってここにあるんだ?俺、持ってきた覚えないんだけど。」

『ふふふ。聞きたいですか〜?聞きたいですよね〜?それはですね〜。』

「いや、やっぱりいい。」

『え?何でですか〜?聞いてくださいよ〜。』


 俺はため息をついた。聞いた自分が馬鹿だった。ギルマスはこういう人だ。ウザくなるのは分かっていたのに、別にそこまで気にしていなかった事を聞いた自分が馬鹿だったのだ。


『うぅ。無視ですか〜?無視ですよね〜?酷いです〜。こうなったら、エイッです!』

「は?」


 ギルマスは俺が無視していると、ついにおかしくなったのか、変なことを言い始めた。


「ギルマス?何してるんだ?ついにおかしくなったのか?」

『う、うるさいです〜。今そっちに行きますから待っててくださいよ〜。』

「は?こっちに来る?ホントに大丈夫か?ギルドからどれぐらいかかると思ってるんだ?そんな長時間待つわけないだろ。」

『ふっふっふっ〜。それがですね〜。この魔法通信機を使えば一発でそちらに行けるんですよ〜。新しい機能を組み込んでみました〜。どうですか〜?凄いでしょう〜?』

「はい?ホントに何言ってん……………っ!まぶし!なんだ!?」 


 ギルマスがおかしなことを言うと、すぐに魔法通信機が光り始めた。俺は光を真正面から受けてしまい、眩しくて反射的に目を瞑った。





 しばらくすると、光は徐々に弱まり、消えた。目をつぶったまま瞼の裏からなんとなく状況を把握していた俺はゆっくりと目を開けた。


「今のは何だったんだ?まぁ、どうせまたギルマスが何かやらかしたんだろうけどな。」


 俺は突然の出来事に驚きながら、そう呟いた。


「酷いです〜。ずっとそんなふうに思ってたんですね〜。流石の私でも泣きますよ〜。」

「………は?…ギル、マス?」


 目の前に突然、銀髪赤目の美少女、が現れた事に驚いた俺は分かりきった質問をしてしまった。


「そうですよ〜。それ以外の何に見えるんですか〜?」

「いや、ちゃんとギルマスに見えてるぞ。…じゃなくて!どうしてここにいるんだ!?」


 危うく相手のペースに流されそうになったのに気付いて、俺はようやく正気を取り戻した。危ない。危ない。見慣れているはずの顔なのに、いきなり目の前に現れたから驚いたじゃねぇか。 

 というか、いつ見ても少女にしか見えないな。これでもう二十五歳超えてるんだからすごいよな。中身ババアで外見子供。これこそまさにロリババアだな。


「ジーン?何か失礼なことを考えてないですか〜?」

「えっ?い、いいや?得には何も?」

「そうですか〜?」

「ああ。そうだ。」

「・・・・ジ―――――。」

「・・・・ジ―――――。」

「・・・ふぅ。分かりました〜。貴方を信じましょう〜。」


 しばらくの見つめ合いの後、先に目をそらしたのはギルマスだった。

はぁ。良かった。なんとか誤魔化せた。何でこういうのには鋭いんだよ。逆に怖いんだが。

 まぁ、それについては今は良いか。というか、今ので忘れてたが、先ずはさっきの質問に答えてほしいな。


「なあ、ギルマス。あんたは結局どうやってここに来たんだ?」

「え?言いましたよね?魔法通信機を使って行きますって。」


 ・・・確かに聞いた。聞いたんだが、あれってホントの事だったのか!?じゃあ、ホントに魔法通信機を使って来たというのか?だとすれば、さっきの光はその時のものだよな。というか、魔法通信機に移動魔法かけるって何だ?それってもう新しい魔導具じゃないか?ということは、ギルマスはまた世界ではじめての魔道具を作り出したって事か?

 ・・・って、いかんいかん。こういう事は考えても無駄だ。昔からギルマスはこういう事をする人なんだから。


「ギルマス。ここに着た方法は分かった。だが、どうしてここに来たんだ?俺は今、一応、依頼中なんだが?あんたも戦うとか言うのはなしな。あんたに戦闘力なんて皆無だからな。」

「ひどい言い様ですね〜。まぁ、事実ですから別にいいんですけどね〜。ふふふ」


 おい。気にしてない風に言ってるけど絶対気にしてるだろ。目が笑ってねぇよ。


「あっ!あと、さっきの話ですけどね〜。私は…………。ねぇ。ジーン。あれって…」


 ギルマスは突然話すのを辞めて、震えた声で喋りながら俺の後ろを指差した。


「うん?何だよ?」


 俺もそれにつられて後ろを振り返った。

 そして、俺がその先で見たのは、まだ小さい子供がフェンリルに食われそうになっている姿だった。


「なっ!?子供!?何でこんな所にいるんだよ!」


 俺は驚きと苛立ちでつい悪態をついた。


「ジーン!今はそんな事より早く!フェンリルを!あの子は私が保護しますので!」

「チッ!分かってるよ!」


 俺は一旦苛立ちを抑え、ギルマスに促されるようにして剣を抜いてフェンリルに斬りかかった。


「はっ!」


 突然の横からの攻撃で、とっさに避けることが出来なかった三匹のフェンリルはそのまま絶命した。


 俺は仕留め損なった残りの二匹をさらに追いかけた。

 二匹は俺の攻撃にも動じず、剣を爪で受け流しながら森へと向かっていく。おそらく逃げる気だろう。仲間が半分以上やられた事を考えると当たり前の行動だ。


「だがな!逃がすかよ!ウインドエッジ!」


 俺は中級風魔法を唱えた。

 すると、出現した風の刃は背中を向けて逃げていた二匹のフェンリルへとあたった。

 攻撃を受けたフェンリル達は、傷を負い、そのまま絶命した。


 フェンリルを仕留めた俺は、ため息を吐くとギルマスが保護しただろう子供のもとへと向かった。





「ギルマス!その子供はどうだ?」


 俺がギルマスのもとに来ると、子供は膝枕をされて横になっていた。


「ジーン。大丈夫ですよ〜。ただ眠っているだけみたいです〜。」

「寝てる?はっ。のんきなものだな。魔の森の前で眠るなんて。」

「仕方ないですよ〜。まだ子供みたいですし〜。でも、この子着ているものは一級品なんですよね〜。親は何処に行ったんでしょうね〜?」

「知らねぇよそんなこと。で、その子供連れて帰るんだろ?お前が面倒見るのか?」

「え?貴方が見るんじゃないんですか〜?」

 

 ・・・・は?何当たり前みたいに言ってんだこいつは。なんだ?こいつの中ではこの子供の面倒は俺が見る事になってんのか?…あり得ないだろ。


「ギルマス?何言ってんだ?俺がこんな小さい子供の面倒見れるわけ無いだろ?」

「え?そうなんですか?」

「そうに決まってるだろう?」

「そう、ですか。」


 そんな残念そうに言われても困るんだが。俺は、俺が子供の面倒を見るっていう時点で意味がわからない。俺より適任者は山のようにいるだろう。


「でも、この子供訳ありそうじゃないですか〜。もし貴族とかが来たら地方ギルドのギルドマスターでしかない私じゃ守ることは出来ないんですよね〜。ですから男爵子息とはいえ、貴族の端くれである貴方の養子にすればすんなり渡すことは防げるでしょう〜?そ・れ・に、この容姿ですよ〜?貴族以外からも狙われる可能性があるでしょう〜?」

「・・・・はぁ。だから俺が引き取って養子にしろと?はっ。嫌だな。第一、俺がこの子供を襲うという可能性もあるんだぞ?それなのに俺に引き取れと?」

「え?ジーンは幼児愛好者だったんですか〜?変態さんですね〜。」

「なっ!ちげぇよ!例え話だよ!例え話!俺は大人の女が好きなんだよ!出来れば胸のでかい女がな!お前も知ってるだろ!」

「ふふふ。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ〜。ちゃんと知ってますから〜。貴方の女好きは〜。ぶふっ。」


 どうやらからかわれただけらしい。

 俺はそれに気付くと、黙って歩き出した。


「え?ジーン。帰るんならこの子を背負って行ってくださいよ〜。流石に私じゃ無理なので〜。」


 後ろから何か声が聞こえるが、俺はすべて無視して歩き続けた。
































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