ジーンのお願い
一部、内容を変更しました!話の流れ自体は変わっていませんので、安心して読んでください!
―――月日は流れ、俺は七歳になった。
ジーンは約束通り俺に剣を教えてくれた。
お陰で俺はそれなりに剣を扱えるようになった。
まぁ、ジーンには遠く及ばないが。
そして俺、レン・サガラは今も剣の稽古の真っ最中だったりする。
「レン!集中しろ!気が散っているぞ!」
「はい!すみません!」
俺はジーンから注意を受けて即座に謝った。
ジーンは剣の稽古の時は普段の様子とはかけ離れた鬼教師だったからだ。
もちろん初めは後悔した。だが、ジーンは教えるのは上手かった。いかんせん厳しすぎるが、確かに上手かったのだ。それにあの時は他に教えてもらえるような知り合いもいなかったし、仕方なしに無理をしながらも頑張って稽古についていってたらいつの間にか慣れてしまっていたのだ。
「レン!集中できないなら今日はもうおしまいにするぞ!」
おっと、やばいやばい。話しに集中しすぎて稽古を疎かにしていた。
「すみません!ちゃんと集中します!続けてください!」
「分かったならいい。じゃあ、始めからだ!」
「はい!」
・・・・・・それから数時間。辺りも薄暗くなった頃、やっと稽古が終わった。
「今日はもう終わりだ。お疲れ様。」
「はい!ありがとうございました!」
ふー。やっと終わったー。今日の稽古もきつかったなー。
「レン。先に風呂に入ってこい。俺は夕飯を作ってるから。」
「はい!行ってきます!」
俺はジーンにそう言われて流行る気持ちを押さえ、風呂に向かった。
そう!この世界には風呂があったのだ!やっぱり日本人に風呂は欠かせないからな!風呂があるって知った時は嬉しかった。どのぐらい嬉しかったかって言うと、この世界で風呂を作った人に直接会ってよくやった!って言ってキスしてやりたいぐらい嬉しかった。
まぁ、実際にはしないけどな。
「おーい。レーン!そろそろ上がってこーい!」
俺がそんなふうにくだらないことを考えながら風呂に入っているとジーンに呼ばれた。
やばいやばい。俺が思ってた以上に長風呂をしていたようだ。風呂に入れるとはいえ、やっぱり水はこの世界でも貴重なもので毎日は無理だった。だから久し振りに入れて嬉しかったんだ。
「レーン!」
「はーい!もう上がりまーす!」
俺は再度ジーンに呼ばれ、これ以上待たせてはいけないと思い、急いで風呂を上がった。
✽ ✽ ✽
その日の夜。
夕飯を食べ終わった俺がリビングに腰を下ろして静かにお茶を飲んでいるとジーンが話しかけてきた。
「レン。明日なんだけどな。お前を連れて行きたいところがあるんだが。」
「え?明日?」
俺は聞き返しながらも驚いて顔を上げた。
ジーンは基本的に用事がある時は必ず三日前には俺に伝える。だから前日の夜に突然こんなふうに言うなんてことは今まで一度もなかったのだ。
「突然ですね。一体何処に連れて行きたいんですか?」
「…明日、お前を俺の家族に紹介しようと思うんだ。」
「え?」
「すまない!本当はもっと早くに伝えるべきだった。お前を引き取ってからずっと会わせろと言ってきてたんだが、お前が生活に慣れるまではと先延ばしにしてたんだ。だが、2日前についにしびれを切らしたのか、母がそろそろ会わせないと家に突撃すると言ってきてな。本当にすまない!もっと早くに伝えるべきだったのに俺の踏ん切りがつかなくて伝えられなかったんだ。」
家族に紹介って。しかも明日って。
もっと早くに言ってくれよ。しかもどさくさに紛れて色々とぶちまけちゃってるし。引き取ったってどういう意味だよ。家族に急かされてたっていうのも初耳だよ。
・・・・あー、もう!混乱する!
こういう時は色々と考えても仕方ないな。一旦落ち着いて話をまとめよう。
ジーンは俺を引き取った→引き取ったことにより、家族から会わせろと急かされていた→三年は引き延ばしたが、ついに会わせる事になった→それにより、明日ジーンの家族に会いに行くことになった→それを前日になってジーンが言ってきた→俺は驚いた→ジーンは凄い勢いで謝っていた
・・・うん。よく分からん。
まず、俺を引き取っていたって所からよく分かんないし、三年間も引き延ばしていたっていたってところもよく分からん。普通、三年間も引き延ばせるか?会わせないなら家に突入するぞ!って言う母親だぞ?三年間も我慢できるか?無理だろ?
というかジーンって貴族だったよな。だったらその母親も貴族ってことになるから。…俺、やばくね?貴族への礼儀とか知らないんだけど。
「…ジーンさん!明日俺がご家族に会うことは決定事項なんですか?」
「そ、そうだ。すまない。本当にすまない。」
決定事項…。やばい。マジで礼儀作法とか知らないんだけど。
「ジーン!しっかりして下さい!俺は別に怒っていませんから!だから今は先に俺に貴族の礼儀作法を教えて下さい!」
ずっと謝っているジーンに俺は叫ぶようにそう言った。
「え?」
俺の言葉を聞いたジーンは謝るのをやめた代わりに何故か驚いた顔で固まった。何故だ。
「ジーンさん。どうしたんですか?」
俺は一向に動かないジーンが心配になり、恐る恐る話しかけた。俺は何かいけない事を言ったんだろうか?
しばらくしてジーンは俺に震えながらこう言った。
「レン!お前今、俺を呼び捨てで呼んでくれたよな?な?」
…うん?呼び捨て?呼んだか?呼び捨てで。うーん。覚えてない。でも、呼んだなら駄目だったよな。謝るか。
「すみません。ジーンさん。無意識の内に呼んでしまっていました。今度から気をつけます。」
「違う!呼び捨てで呼んでくれって言ってるんだ!誤解するな!」
俺が頭を下げるとジーンは怒ったようにそう言ってきた。
どういうことだ?呼び捨てが良いということか?よくわかんないけど、俺は今、大きく誤解していたということだけはよく分かった。
この話は時間の無駄だ!重要な話ではなく、無駄話だ!今はこんな話をしている場合ではない!
「ジーン。これでいいですか?」
「うーん。本当は敬語も辞めてほしいんだがそれはまた今度でいいか。ああ。それでいいぞ。レン」
「はい!わかりました!では先程の話なんですけど。」
「先程の話??」
あ、駄目だ。完全に忘れてる。はぁー。
「さっき言った貴族の礼儀作法の話ですよ。」
「ああ。それか。礼儀作法は別にいらない。俺の家族に会いに行くだけだし。それにお前の礼儀作法は完璧だからな。」
え?礼儀作法が完璧?どういうことだ?
・・・ああ、そういえば友人から聞いたことがある。日本人のマナーは外国では完璧な礼儀作法だと。流石にあれは冗談だったと思うが、それがこの異世界では冗談ではなく、本当だったと。そういうことなのだろう。
俺がそんなことを考えているとジーンが時計を見ながら言ってきた。
「レン。今日はもう寝た方がいい。明日は早いからな。」
「…あ、はい。分かりました。」
確かにもうすぐ夜中になる時間帯なので俺は素直に頷いた。
「あ、どうせなら一緒に寝るか?」
「いいえ。結構です。」
「ははっ、冗談だよ。」
「そうですか。」
このやり取りは毎回のものでもう慣れた。
俺はジーンの冗談を軽く受け流して寝室へと向かったのだった。