始まりの日
俺がこんな目にあうことになった全ての始まりは13年前に遡ぼる。
俺、相良 蓮司は日本という国の少しだけ裕福な一般家庭に生まれ育った漫画やラノベ小説なんかが好きな平凡な男だ。小学校から高校まではエスカレーター式の学校に通い、大学からは東京に上京して医学部に行っていた。両親も健在で、親しくはないがそれなりに友人と呼べる奴らもいた。
いつも朝起きて大学に行き、終わったら帰って寝る。そんな代わりばえのない毎日を送っていた。
その日も俺はいつも通りの生活を送り、眠りについた、はずだった。
だが、目が覚めると俺は森の中にいた。何故か3・4歳ぐらいまで、体が縮んだ状態で。
言っておくが俺は確かに漫画や小説は好きだったが異世界に召喚されて勇者になりたいとか、ハーレムを作りたいとかそういう願望は一切なかった。
なのに何故こんな所にいるのか。そもそも俺は誰かに召喚されたのか。それとも誘拐されて森に捨てられたのか。だが召喚されたにしては誰もいないのはおかしいし、誘拐されたというのも俺みたいな平凡顔の大学生の男をさらう奴なんて早々いるわけないし、そもそも何故体が縮んでいるのかわからないし。
そんなふうに考えながら俺は半ば呆然と座り込んでいた。
それから少したち僅かばかりの冷静さを取り戻した俺はいろいろと考えた末、まずは暗くなる前に森を抜けて人を探す事にした。空はまだ明るいから今は昼ぐらいだろう。急げば夜になる前に森を抜けれるかもしれないな。
まず、言っておこう。結論から言えば俺の考えは甘かった。
昔の人は「森で遭難したらそこからやみくもに動くな」とよく言ったものだ。
俺は別に遭難したわけではないがそれと似たようなものだろう。
気付いたときには真っ暗な森の奥深くに入り込んでいた。
空さえも木の枝や葉っぱに隠されて今が昼なのか夜なのかすら分からない。
俺はずいぶん前から歩いているが子供の体ではやはり限界があるのか、それともただ精神的にきついのか、とうとう疲れ果てて座り込んでしまった。
それからどれくらい経ったのだろうか。突然すぐ近くから『グルルッ』という鳴き声が聞こえた。
どうやら俺は疲れて少しうとうとしていたらしい。
俺は驚いて声の方振り返るとそこに十数頭の狼がいるのを見て気絶しそうになった。
なんでよりにもよって今なんだよ!おかしいだろ!俺はもう疲れたんだって!
だが俺のそんな思いが狼達に届く筈もなく、奴らは俺の方へ向かって来た。
ギャー、最悪だ!
俺は奴らから少しでも離れるべく走り出した。
うん?疲れはどうしたって?そりゃあ、疲れて足もガクガクだけど命には変えられないだろ!
それからどれくらい奴らとの追いかけっこは続いただろう。
いつの間にか森の奥深くから抜け出したようで周りは少し明るくなっていた。
だが俺は逃げるのに精一杯でそのことにすら気付いていなかった。
そして気づけばもう狼達は追ってきておらず、やっと狼を巻いたことで安心した俺は今までの疲れが一気に押し寄せてきたのかその場に座り込むとそのまま眠ってしまっていたのだった。