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Nearby Monitor  作者: 本田そこ
恋愛の話
2/11

承:惚れた経緯を振り返る

「薫は一年の染坂そめざかさんって知ってる?」

私は、思いきって相手の名前を口に出した。

「うん、知ってる」

やはり有名なようだ。一年生で入学したばかりではあるけど、目立つ存在なのだ。

「確か中学の頃に陸上で全国行ったんだっけ?うちのクラスの陸上部の子たちが話してたよ」

「そうなの」

「もしかして、その子?」

「……うん」

私の返事の後、薫は暫く黙ったままでいた。何かをじっと考えていたようだ。

「それで、相談したいことっていうのは?」

「私、どうしたらいいかわからなくなっちゃったの。誰かを好きになることなんて初めてで、しかもそれが同じ女の子だなんて全然予想もしてなくて、それが後輩だっていうのに自分でも少し驚いてて」

「きっかけは何だったの?」

「え?」

「好きになったきっかけ。相談に乗るならさ、詳しく知りたいよ。染坂さんと、美雪のこと」

「……そんなに大した話じゃないんだけどね。ほとんど一目惚れみたいなものだから」


***


薫は、私が手芸部に入ってるのは知ってるよね?

染坂さんと初めて会ったのは、一年生の仮入部期間の頃。

凄く背が高くてすらっとしたモデル体型の、少し日焼けした顔の爽やかな女の子。

そんな子が、一人で手芸部に見学に来てたんだ。

それが染坂さんだったの。

ショートカットのすごい美人でね、切れ長の目なんだけど、凄く優しい眼をしてるんだよ。

可愛いっていうよりはかっこいいって言葉の似合う感じで、それにあてられた手芸部の皆が、彼女の方に群がってキャーキャー騒いでた。


私?私はね、一目見た瞬間になんだかドキドキしちゃって何も反応できなかったから、一人で椅子に座ってた。一体これはなんなんだろうって、その時はわからなくて、ちょっと混乱してたね。


それで、その時の染坂さんは、皆に囲まれてなんだか少し困ったような顔をしてた。だけど、そういう人たちの扱いには慣れてるみたいだったよ。多分、今までにもそういうことが何度もあったんだと思う。

その日は結局、染坂さんは手芸部の皆に囲まれながらうちの部で作った作品たちを見て回るだけで、すぐに帰っていったの。

それを見て、私は明日からはもう来ないだろうなって思ったんだけど、違ったんだよね。


染坂さんは次の日も来てくれて、少しだけ編み物に挑戦しようとしてたんだ。

やっぱり皆は染坂さんの方に集まってて、それじゃぁ他の一年生が可哀想だなって思ってたら、その子たちも一緒になって染坂さんにあれこれ訊いたりしてたんだよ。

私は相変わらずドキドキしちゃってて離れた場所で黙々とぬいぐるみを作ってたんだけど、皆の話を聞いてると、染坂さんは手芸とかやるのほとんど初めてだったみたいっていうのがわかったの。中学の時、家庭科の授業でやったくらいで、それ以外の経験は何もなかったんだって。

それでね、先輩の誰かが染坂さんになんで手芸部に来たのか聞いてみたら、凄く恥ずかしそうにして黙っちゃったんだ。皆は察してその時は話を変えたんだけど、私はそれが凄く気になっちゃったの。ま、だからってそこで改めて訊いたわけじゃないんだけどね。


それから仮入部期間の間、染坂さんは毎日来てくれたんだけど、その時、何度か視線を感じることがあったの。

視線を感じた方に眼を向けてみると、染坂さんがこっちをちらりと見てて、私はその度に心臓がバクバク脈打ってたんだ。

だから、染坂さんの方を向いたままでいられなくて、すぐに眼を逸らしちゃってたの。この時点でそれがどういう感情なのか気付いてもよさそうなものだけど、なにぶん経験の無いものだったから、わからなかったんだよね。


で、仮入部期間が終わったあとは皆の予想通り、染坂さんは正式に入部してくれた。今年入ってきた一年生は五人だったかな。最初の部会の時に一年生たちが並んで立ってたんだけど、やっぱり染坂さんだけ飛び抜けて目立ってたよ。

それでね、うちの部は未経験の子とか希望する子には先輩が何人かついて色々と教えたりするようにしてるんだけど、そしたら、染坂さんが私に教えて欲しいって言ってきたの。


私、びっくりしちゃった。

話したこともないのに何でだろうって。


ドキドキはその時にも止まらなくて、どうしたらいいかわからなくなったんだけど、そうこうしてる内に割り振りが終わっちゃって、結局、染坂さんに私がマンツーマンで教えることになったの。

そうなったら黙ってるわけにもいかないから、頑張って話しかけてみたわけ。


でもさ、普通、自己紹介から始めるじゃない?

私、焦っちゃって、いきなりなんで私に教えてもらいたいって言ったのか訊いてみたのよ。

そしたら、うちの部で一番可愛いぬいぐるみを作ってるのが私だから、だって。

そんなこと言われたら嬉しいに決まってるよね。

私はそれで余計にドキドキしちゃって、それに何て答えたか、全く覚えてないの。多分、変なことは言ってないと思うけど。うん、そうだといいな。

自己紹介はそれからだったかな。名前と出身中学を言いあったくらいであっさりしてたね。

最初の日は針の使い方や糸の縫い方から教えて、それだけで一日が終わったと思う。本当に初めてみたいで苦戦してたよ。


次の日からは、とりあえず一つぬいぐるみ作ってみようかってなって、確かイルカだったかな、一緒に作り始めたんだ。

その時に訊いてみたんだよ、どうしてぬいぐるみ作りたいのかって。

そしたら染坂さんは、頬を赤らめて恥ずかしそうに、家にいるぬいぐるみ達の新しい家族を自分の手で作りたいからだって答えてくれた。

失礼かもしれないけど、染坂さんってそんな風には全然見えなくて、ちょっと驚いちゃった。ギャップっていうのかな、かっこいい女の子が家ではぬいぐるみを愛でてるっていうの。


それで気付いたんだよ、前に先輩から訊かれたときに答えなかったのは、こういう部分を人に晒すのが恥ずかしかったからなんじゃないかって。

多分、中学の時も今と同じように皆からかっこいいとか言われてきたんだと思うんだけど、そんな環境だとそういう趣味を話しづらくなっちゃうのかもね。

で、訊いてた私の方はというと、そのギャップのせいで余計にときめいちゃって、何も言えなくなっちゃった。お互い黙ったままだったから、少し気まずかったかもしれないね。


うん。もうその頃には完全に惹かれてたんだと思うんだけど、私の方は全然自覚してなくて、その時が来たのは、染坂さんが入部してから一ヶ月くらい経ったころだったかな。


本当に些細なことだったの。

二人でぬいぐるみ作ってて、私が取ろうとしたフェルトに染坂さんも手を伸ばしてて、そしたら不意に染坂さんの手が私の手に触れて、それで一気に緊張しちゃった私が慌てて手を引っ込めたら、バランスを崩して椅子から転げ落ちそうになったの。

その時、咄嗟に染坂さんが腕を伸ばしてくれて、私を支えてくれたんだけど、反射神経が凄いよね、さすが元陸上部って感じ。

でね、その時、染坂さんの顔が私の顔にぐっと近付いてきて、つんと尖った睫毛とか薄めの紅色の唇とか、そういうのが全部目に入ってきて、心臓が破裂しそうになるくらいに動いたの。


多分、顔も凄く赤くなってたと思う。

大丈夫ですかって声も喉の奥に響くくらいに綺麗で。


その時気付いたんだ。

あ、私、この子のこと好きだ、って。

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