気球に乗って
心地良い風が頬をなぞる。
私はサンドイッチの入ったバスケットを持って小高い丘を歩いていた。
「もう少しで着くはずなんだけど。」
私は昼食を持ってくる様に父に言われ、初めて一人でそこに行くのだ。
バスケットがカタリカタリと揺れる。
しばらく歩いて行くと小さな小屋が見えてきた。
黄色の屋根が可愛らしく全てを木で作っているためか、とても温かい雰囲気の小屋だ。
中に入ると誰もいなかった。
「仕事場かなぁ……。」
父はここにいないときはたいてい仕事場にいる。
私は小屋を出てすぐ後ろへまわった。
そこには幾つかの工具と大きな布、そして眼鏡をかけた父がいた。
父は何やらわからない紙を見ながら布についている金属をいじっていた。
「お父さん!お昼持ってきたよ!」
私がそう叫ぶと、父は
「あぁ、済まないなぁ。」
そう言ってこちらへ来ると、私を抱き上げた。
「もう一人で来れる様になったのか。お父さんは嬉しいよ。」
満面の笑みで告げる父にわたしも嬉しくなって、うんと言い返した。
小屋に入ると私たちは早速お昼を食べることになった。
バスケットを開けるとお母さん特製のふわふわした卵のオムレツにみずみずしいレタスの入ったサンドイッチが入っていた。
「母さんの料理はいつも美味しいな。」
「今日は私も手伝ったのよ!」
「そうか、偉いな。」
和やかな雰囲気の中で私は父に尋ねた。
「今回は何を作っているの?」
父は家にいることが多いが、物を作る時だけここに泊まり込むのだ。
「気球という乗り物だよ。空を飛ぶんだ。」
「羽も無いのにどうやって飛ぶの?」
そう聞くと父は満足げに答えた。
「お前は大きな布をみただろう?そこに暖かい空気を入れるんだ。そうすると飛ぶんだ。布と籠を大きくすれば何人乗ったって大丈夫だぞ!」
「じゃあ、百人乗っても大丈夫なの?」
「もちろん!」
「へぇー!すごいなぁ!乗ってみたいなぁ……。」
父はそう言うとにっこり微笑んで言った。
「完成したら一番に乗せてあげるよ。だから良い子にしてるんだよ。」
「やったぁー!ありがとうお父さん!」
私は嬉しくなって叫んだ。
夜もふけて父は私に言った。
「今日は泊まって行きなさい。お母さんには言っておくから。」
私はベットに入って、虫たちの声に耳をすました。
しばらくして私は眠ってしまった。
その晩、私は夢を見た。お父さんの作った気球で空を散歩する夢。
気球はゆっくりと上昇して、空を登って行く。
どこまでも続く緑の草原を駆ける馬の親子や黄色の屋根が遠くに見えるその景色はまさに絵の様で、私は夢中だった。
父はその隣で一緒に景色を眺めている。
とても幸せな時間だった。
目が覚めると朝になっていた。
「夢だったんだ……少し残念。」
だけどあの感じ。空を登る感じは確かに残っている。
お父さんに話そう。
そう思った私は父がいるであろう向こうの部屋へつながるドアを開けた。
以前書いたお題小説です。気球に乗ったことはありませんが、いつか乗りたいです…!