ぷり
ゆっくり、彼女の名前を呼び出す。私の声はひとつの息になって、すぐにばらばらに散らばった。空気は吸うまでもなく私の中に入り込んで、夜の匂いや石けんの匂い、熱の匂いや道路の電灯の匂いなどを配んでくるけれど、彼女のことはなにも伝えてくれない。彼女は今、なにをしているのだろう。遅い時間だからもう眠っているかしら、まだ歯みがきの途中かも、いや、それはもう終わっていて寝る前に明日の授業の準備をしていたりして、それとも、マンガやテレビに夢中になって起きてる、とか?ちょっと悪い子だから......。こんなことをいくら計算したって本当の答えは分からない。でも、どうしても、心に空いた穴から彼女への思いが噴き出してきてしまう。日の当たっているときには堂々と彼女の側にいられる――私たちはトモダチだから。それでも、抱きついたり、匂いをかいだりすることはすごく限られた状況でしかできないし――だって、私たちはトモダチだから――、最近は、手をつないだり、向き合って顔を見合わせたりすることもほとんどなくなってしまった――私たちは、少なくともトモダチ、のはずなのに。......分かってる。トモダチは、彼女のトモダチは、私だけじゃない。私だけに構ってはいられないだろうし、それに、「構ってはいられない」だなんて冷たいことを彼女が思うわけない、だって彼女は優しいんだから、本当に構っていられないんだろう、彼女は優しいから――誰にでも。
そんなことは分かっているけれど、寂しい気持ちは抑えられなくて、いつものようにアルバムをひらく。彼女の写真。私の写真。これはまだ出会ったばかりのときに交換したもの、こっちのは友達だって言えるくらい仲良くなったとき、そしてこれは、彼女のことばかり考えるようになり始めた頃の......。もうずっと写真の交換はしていない。そんなことをしなくても私たちはトモダチ、いや、私が彼女のトモダチの1人、そう、だから必要ない、必要ないのよ......。アルバムが濡れてしまわないように、とじて元の位置に戻す。雨が降っているから空を見上げよう。町の明かりに消されかけながら、☆たちが懸命に光り輝いている。人工の光に対してはもちろん、☆同士でも、どれが一番目を引くか競争しているみたい。
バカみたい。一番輝いているのは彼女に決まっているのだからそんなくだらない競争はどうでもいいし、私の関心を引き寄せて私の彼女への思いを濁らせないで欲しいと思った。
そして、少女は眼鏡を外して夜空を切り裂いた。やかましかった星たちは、少女の素の視界の中では鳴りを潜め、もはやただの背景の一部として無視されている。対して少女の方は、その背景の上に「彼女」を象るための「星」をむしろ積極的に生み出し、それらを結んで似姿を輝かせていた。夜になると大抵、このように新たな星座を描いては自らの思いを慰めているのだった。