神闘会5
えー。(たぶん)最大のサービス回です。いつもより長いです。筆が乗ったからね。仕方ないね。
街中にある唯一の看板はお湯のマークを指し示すものであった。どれだけお風呂に対して真剣なんだろうか。わかるけどね。僕も携帯風呂を無理言ってシロに運んでもらったから。人のことを言えないというのは正しい。
その看板をたどって行くと、すべての道が合流するところに、格式豊かな日本家屋といった趣の大きな建物がそびえていた。周りの建物の丈よりも一回り以上高い。ここか。力の入れようが違う。ここだけ、他の建物に比べて年季が違う。他の建物が築一年だとしたら、こちらは、築五十年はありそうである。整備はされているので、そこまで古臭くも見えないが。
暖簾をくぐってその中へ入る。見晴らした中身は、まるで料亭か旅館か。豪勢な調度品やら、屏風やらが所々に配置された和風の回廊。風呂を浴びるには早い時間らしく誰一人として人気はない。一番風呂が堪能できそうだ。
「これはすごいわね。」
僕に続いて中に入ったサクラは感嘆したようにそんな言葉を漏らした。
「えっ、この前はなかったの?」
「ええ。初めてよこれ。」
つまり、その間に作ったのか。⋯⋯ この風呂の時間の経ち具合はおそらくヤーンの時間操作によるものだろう。建造と改良に時間を費やしたであろうことが推測できる。だから本編に絡めないんだよ。 なんでそんなところを努力してるんだよ。⋯⋯ ヤーン僕らの記憶を手に入れてから自由に動きすぎじゃない? 僕らの願望でもあるけれど、彼女の願望の方をむしろ叶えられてはいないだろうか。まあ、僕としては歓迎するよりしようはないが。
気分が浮き立つ。僕は、後ろのことを忘れて、奥へ向かった。
廊下の突き当たりに、またも暖簾があった。そこをくぐると、脱衣所である。⋯⋯ ううん? なんか、暖簾が一つしかなかった気がするんだが。いや、気のせいだろう。やったー風呂だ! 僕は歓声をあげて(いや、物理的にはあげてなかったと思う。多分。)すぐさま服を脱ぎ、お風呂の戸を開けてその独特の匂いのする蒸気を思う存分に吸い込んだ。いい匂い。少し硫黄が染み込んだ火山性温泉の匂いだ。僕はお風呂のそばに置かれていた洗い桶を手に取り、そこに水を汲んで、体を洗った。さすがのヤーンといえど、この時代にシャワーに類する機構は作れなかったようである。⋯⋯ 実はあれ、何をどうしたらあんなものが作れるのか全くわからないオーパーツといっても過言ではないからな。なんで、蛇口をひねるだけで流量を調節できるんだよ。
はい。体も念入りに流したことだし、入りますか。僕は、勢い湯船の中に飛び込むような気持ちの跳ねようを持ってお湯に体を浸した。極楽、天国とはここにあったのかと思えるほどの気持ちよさ。これまでの山旅の疲れがお風呂の中に染み込んで消えていっているかのようだ。体が子供の頃のように軽くなる。羽が生えているように動ける。白い湯けむりが立つ温泉の中を僕は滑るように移動する。より良い場所を求めて。かなり広い浴槽。やっとの事で対岸へとたどり着く。途中から、頭上にさしていた屋根がなくなり、代わりに落日が湯を照らす。半露天風呂とでもいうべきその仕様は風流で、僕は大変気に入った。この感想にはその落日が裾野の広い、堂々とした山、すなわち越えてきたヤクシの山へ消えて行こうとしているこの雄大な眺めが預かっていたことも否定はできない。
素晴らしい景色だ。浴槽のすぐそばにまでハイマツが覆い、この高山色豊かな場所の特異さを伝えているのも良い。
そちらで景色を眺めながら僕はのんびりと体の疲れを癒した。
カラカラと脱衣所へと繋がる扉が開かれる音がした。俺の他にも男性客がいたのか。⋯⋯ 、うん? 神様って女性だけじゃなかったっけ?
「もう、剣ったら早すぎるわよ!」
この声は⋯⋯ 大して深い意味も持たずなんとなく引っ張ってきてしまったサクラだ。うん。完全に自覚した。暖簾が一つだったというのは、何も気のせいとかではなく⋯⋯ そりゃ、神様全員女だったらわざわざ男風呂つくるわけないよな。そして、ここが一番重要なことなのだが、神様には身体に関する羞恥心のあまり強くない人たちがいて、その中でも僕が一番よく知っているのがサクラな訳で。
「あっちで考えてる音が拾えるわね。そっち行くから待ってなさい。」
湯煙に紛れているのか高い天井で反響しているのかわからないが、何はともあれ、そんな声が聞こえてきて。
うん。不可抗力だ。神の恩寵の元に、僕は拝謁する権利を得たんだ。⋯⋯ 思考のテンパり具合がいつもの比ではないぞ。自分でも何を言っているかわからないとはまさにこのことよ。
湯煙の中からサクラはこちらにその完璧に均整のとれた美しい肢体を表した。いつかのように水着を纏うことなく、そして、湯煙さんとか謎の光がその勤勉な仕事に取り掛かることもなく。彼女の水面より上、すなわち腰上から頭部にかけてこの言葉が適切ではないことは重々承知しているが、彼女と言う山に抱く憧れと羨望を表して、そう、彼山すべてが一望のもとであるといってみよう。
「ここにいたのね。うん? 何よ。そんなにジロジロ見たりして。っっ。」
サクラは僕の思考を読んだのかなんなのか分からないが、唐突に顔を赤くしてその体を温泉の中に沈めた。
「見たわね。」
僕は素早く首を振る。
「見てたでしょう!!!」
「はい。」
サクラの剣幕にはかなわない。僕はおとなしく罪を認めることにした。
神妙にサクラの前で裁きを待つ人のように身をすくめる。⋯⋯ 少なくとも、下に関しては守らなくてはならない。僕の名誉とこれからにかけても。⋯⋯ これが噂に聞く前屈みってやつか。トリケンさん懐かしいな。まあ、あんな中年サラリーマン着ぐるみのことは置いておくとしてだ。
「まあ、私は、安心したし、嬉しいわよ。」
長い沈黙の後、サクラはぽつりと言った。
その表情を確かめるように顔を上げると、彼女は柔らかい表情であった。
「いいの?」
僕は恐る恐る聞く。
「⋯⋯ そうね。そうなるのは両性を持つ生物としては当然のこと。まあ、私をその対象として思ってくれたってことでしょ。」
サクラはそれはそれは綺麗な表情で、僕の肩の上、すっかり暗くなった空のあたりを見つめる。その僕とは目を合わせようとしない様子は確かに何かを物語っていた。
「ねえ、剣。」
サクラは、なおも言葉を紡ぐ。
「私ね。あなたたちと、そしてなによりあなたとここまで旅してとっても楽しかった。幸せだった。私の長い人生の中で最良の時だって思うこともあったわ。あなたと行った山々、あなたと共に屠り、戦った日々。」
⋯⋯ あれ以来、クマを撃退するくらいしか使わなかった気がするんだけど。⋯⋯ いやユウキと戦ってたか。
「あなたのことは気に入っているわ。これが異性としてなのかはわからない。私たちに異性なんてものはいないし、必要ないからね。でも、その前に、あなたはやり残したこと、やらなくちゃいけないことがあるはずよ。」
サクラは僕の方へ近づくと、僕の手を握って、宙へ、祈るような姿勢へ変化した。それが誰への祈りであるのか、そんなんかとはわからない。ただ僕にできるのは、下へ、双丘へ行ってしまいそうになる視線を鋼の意思で押しとどめ、じっと、サクラの目を見つめることだけだった。
「それは、あなたがこの世界に来た目的、あなたがここに止まる理由。あなたが、共にいたいと願った人。」
サクラの、文字どおり桜色の艶やかな唇から、そんな言葉が漏れ出る。
「あなたは、いろんな理由をつけて、そこから逃れようとして来た。直視しないように。責任を取るのが怖かったからかしら? あの人はずっと待っていた。それを、今日だって、あの人ではなく私を連れ出した。それは単なる逃げだったんじゃない?」
「そんなことはない。僕はあいつのためにここにいる。それは絶対に変わらない。」
僕は自信を持って答える。そうだ。そこは変わらない。でも、本当にそうだろうか。いつもいつも、山で疲れているだろうからなどと通り一遍の理由をつけて逃げていたのは僕の方ではなかっただろうか。弱気の虫が頭を擡げる。サクラの言うことは正しい。なんてったって神様なのだから。
⋯⋯ でも。
思えば、遠くに来たもんだ。
昔の高校生活を振り返って、僕はそんな感慨に打たれるのを止められない。それはすべてユウキの、僕の大切な唯一の幼馴染のためになし得たことだ。彼女がいなかったら、僕は絶対にこんな道行きを旅する勇気は湧かなかっただろう。そんな精力は持ち得なかっただろう。この道はユウキのために、そして、この体もユウキのために。
「⋯⋯ もう少し、叱咤が必要かと思っていたけれど、気のせいだったみたいね。あなたは強い人だわ。だからあなたは、その関係性を一歩前に進める義務がある。私に見とれる暇なんて、これっぽっちもないはずよ。」
サクラはそう言うと、僕の目の前で勢いよく立ち上がって見せた。⋯⋯ いや、その、ユウキのためにとはいうけれど、でも限度というものがあって。さすがに勝てなくてもしょうがないんじゃないかなこれは。さっきまで隠されていたものが再びあらわになる時の破壊力は想像を遥かに凌駕し、僕は桃源郷へと誘われようかという瀬戸際に追い込まれた。
「全く、それじゃいつまでたっても変わらぬではないか、剣よ。」
幼い声に似合わぬ老練な口調。サクラの横にいつの間にやらシロが立っていた。⋯⋯ 君も何も着てはいないんだね。知ってた。見事なまでの幼女体型で、これはこれで逆に素晴らしい。全国のロリコンはスタンディングオベーションを始めるであろう。
「ふむ。まあ、わしは完璧じゃからな。」
うん。その成長しかけた膨らみも最高だと⋯⋯ いや、こんなことをしている場合ではないんだったな。サクラだけでなく、シロにも背中を押されてしまったからにはかなわない。
「先に上がるよ。」
僕はその言葉を残して、そのお風呂から上がった。⋯⋯ 振り返らなかったら格好良かったんだろうけれど、さすがにこんな一生に一度あるかないかの大チャンス、ふいにはできずにチラチラと振り返ってしまったのは人の業ってやつだ。ギリシャ以来の伝統ですよ。女神様の水浴びを覗くっていうのはね。そう、僕は何も悪くない。悪いのは世間である。
「サクラよ。いいのか?お主があやつと結ばれると言う運命もあったじゃろうに。」
風呂場に残ったシロは、湯の底に沈むサクラへ声をかける。サクラの髪が水の中へ広がって、桜の彩る石畳を思わせる。
「私はいいのよ。第一、武器主としてのあいつの役割はもう私のものだしね。まあ、そこくらい譲ってやってもいいのよ。」
浮上してサクラはそれに答えた。割と子供っぽいところのあるサクラは、こうした遊びも好きだ。それが目の涙を消していつも通りの自分になるための方便だったとしても、それはもうシロにも知って欲しくない自分だけの秘密だ。
「それに、何かは知らないけどハーレム? ってのもあるらしいじゃない。なら、私にもチャンスはあるわよ。」
「それは、創作物の類にしか登場せぬ幻の世界じゃ。」
「まあ、そうよね。私だって、少しくらい嫉妬の炎は持っているわけだし。でも、あの子ならいいかなって。ぽっと出の私なんかよりも何倍も剣と一緒にいたあの子なら。」
「⋯⋯ そうか。ならば何も言うまい。無粋であったのはわしのほうじゃったようじゃのう。」
「そうよ。ああ。月が出てる。綺麗ね、シロ。」
「そうじゃな。」
炎の神と白の神は並んで、その神秘に浸る。風呂の中は穏やかだ。ライバルだろうがなんだろうが、問答無用で気を緩ませられる。
そして、二人が立ち去った後、静かになったお風呂には、ひとひらの桜の花弁がサクラの本当の気持ち、心残りを象徴するかのように浮かんでいた。
オ「思ってたより激しいサービス回でしたわね。ちょっと、いや、かなりドン引きですわ。」
石「というか、あの状況になってあれだけで済む主人公すごくないか。割と何一つ止めるものがない状況だっただろ。」
オ「それをやったらノクターンの方に移動になるんじゃありませんの? 」
石「R15もついていない健全作品だからね。中途半端な知識がなければよくわからない表現に終始できたと思ってる。」
オ「なかなかに信用のおけないセリフですわね⋯⋯ 」
石「大丈夫大丈夫。」
オ「まあ、5000字近く書いたようですし、その努力は認めますわ。ところで、私の名前が被っている件はどう責任取るおつもりで? 」
石「モブだったから。」
オ「それ、この前も言ってませんでした? 」
石「まあ、名前被りとは言っても、困るのはあとがきくらいなものだし、気にしなくてもいいと思うよ。」
オ「今絶賛あとがき中なのですが⋯⋯ 」
石「誕生日会の時に出てきたオの人と、今ここにいるオの人は別人です。」
オ「オの人って、なんですの?! なんだか尻尾がある人みたいな感じがして許せないのですけど。」
石「許しいてくださいなんでもしますから。」
オ「ツイッターで流れてくるネタだなという認識で使うのは無知という話で終わりますわ。しかし、あなたは元ネタを調べたのですよね? なら、安易に使わないでいただきたいものですわ。」
石「無知って罪だね。」
オ「そういうことじゃありませんわー! 」




