神闘会4
さて。
アサマの館を辞する頃合い。僕たちは席を立ってアサマにお礼を言った。それで、今日の邂逅はこれっきりになるはずだったんだけど⋯⋯ 。
「あのね。大変申し訳ないんだけど、建物を建てすぎてしまって、もう家を作るスペースがないの。」
ヤーンが衝撃の事実をぶちまけた。えっ、じゃあ、どうするの? テント泊? 嫌だよ、こんな街みたいなところに来てテント泊は。
「そこで、アサマ、この屋敷、部屋割と余っていたわよね。」
「そうだけど⋯⋯ まさか!」
「そう、申し訳ないけど、この子たちのご一行を泊まらせてもらえないかしら。」
「急すぎるよ! もっと前に連絡くれててもよかったじゃん。」
「いやー、みんな勝手にどんどん建物建てるから。やっと事態に気付いた時にはもう取り返しのつかないところまで進行していたのよ。」
「どこの病魔だよ!」
⋯⋯ アサマのツッコミ、切れいいな。いや、この場合はヤーンのボケが見事であるというべきか?いや、お笑いじゃないことは知ってるけどね。
「わかったよ。そのために僕の食事を食べさせに来たんだろ。客人としてもてなすよ。」
アサマはついに観念したらしく、ヤーンに降参を宣言した。
「よろしくお願いします。」
「お世話になります。」
「すまんのう。」
「あなたがどうしてもっていうのなら、泊まってあげないこともないわよ。」
「ありがとうございます。」
「⋯⋯ やったー。」
⋯⋯ ちょっと待て。サクラがツンデレなのはいつものことだし、あれは肯定ってことだからいいんだけど、なんか僕ら以外の感情の薄い声が混じってなかったか?!
「うん。」
短く僕の思考に肯定の返事を出すうさ耳の神様。
「えっ、ヒウチも?」
アサマは戸惑ったように聞き返した。
「⋯⋯ だめ?」
上目遣いでアサマを見るヒウチ。実にあざといが、効果は抜群だ。僕は胸を押さえて地面に転がらないよう耐えるので精一杯だったし、もろに浴びたアサマは言葉を失ってただ頷くしかなかったようだった。
「ヒウチについては予想外だったけど、決まったようでよかったわ。テントで一泊させることになったら招待した人としてあまりに無責任だものね。」
ヤヌスは安堵の息を漏らした。
「大会は明日からよ。今日はゆっくり寝て疲れを癒しなさい。⋯⋯ 温泉もあるわよ。」
そう言ってヤーンは一人でアサマの家を出ていった。最後にとんでもない爆弾発言を残して。ちょっと待て、温泉だと、そんなもの行く以外の選択肢が存在しないじゃないか。
僕は希望に満ち溢れた目で仲間たちを見渡す。
「仕方ないわね。」
最初に根をあげたのはサクラだった。
「そんなふうにおやつをもらう前の子供みたいに喜ばれたら、反対するのが申し訳なくなるわ。」
「ありがと、サクラ。」
いつも色々とめんどくさい人で、迷惑もたっぷりと言っていいほどかけられてるけど、今僕の口をついて出たのはそんな飾り気のないシンプルな感謝の言葉だった。
「べっ、別にあなたのためってわけじゃないんだからね。私だって入りたかったんだから⋯⋯ その、勘違いしないでよね!」
それでもやっぱりサクラはサクラでそんなツンデレの王道を行くセリフをはいて顔を少しばかり赤く染めて腕を組んでそっぽを向いた。⋯⋯ ツンデレとはいいものだ。そんな現実ではありえないであろう属性なにがいいんだと思っていた昔の自分をぶん殴りたい。
「やめて。そのくらいにして。」
さらに一段階桃色となった肌を抑えるようにサクラは許しを請うた。うん。自分の素直な気持ちの良すぎないとはいえ、この辺で勘弁しておいてやろう。⋯⋯ この表現でいいのかは微妙なところだ。どう考えてもサクラの方が地位は上だし。
「よし、じゃあ、サクラ。早速出発しよう。」
「早くない!?」
「なに言ってるんだよ。お風呂っていうのは長く浸かればつかるほど、気持ち良さが長く持続し、幸福総量は膨れ上がるんだぞ。行くしかないでしょ。」
「でも他のみんなは。」
「私たちはもう少ししてから行くよ。あんまり大勢で行っても迷惑になるだけだしね。」
ユウキはサクラを促すように言った。
「でも⋯⋯ 。」
なおもサクラはためらう。
「じゃあ、行こう。」
僕は有無を言わさぬようにサクラの手を掴んだ。
「えっちょ、待って。」
サクラの顔が再び赤くなるが、僕にはお風呂以外のことは見えていない。
そのままぐいぐいとサクラを引っ張って外へ出る。
「わしも行こうかの。お主らだけじゃ不安じゃ。」
シロはそんな僕らを追いかけるようにして、気軽の同行を申し出た。
「シロはもうちょっと僕を信用してくれてもバチは当たらないと思うんだけどなあ。」
「無理じゃの。後100年は経験を積んで出直してくるのじゃ。」
「死んでるよ!?」
「じゃあ、私とユウキさんはここに残って、泊まる準備を整えておきますね。」
イチフサはこちらが指示するまでもなく、自分がするべきことを導き出していた。よくできた後輩だ。⋯⋯ その実年齢は比べ物にもならないほどに上なので後輩と呼んでは失礼にあたるのかもしれないが。
「いってらっしゃい。」
ユウキも快く送りだした。なんだか複雑そうな表情をしていたけど、まあ、いいや。それよりお風呂だ。
石「ここでは、登場間近のキャラたちとこの石が話すことで、期待を煽ると同時に、キャラの性格を掴んでいこうのコーナーを開催しようと思います。」
ヤ「そんなこと言って、自分がキャラの性格をつかめていないのではないですか? 」
石「うっ、痛いところを⋯⋯ 。ま、まあ、それも込みでね。僕がつかめたらいい影響があると思うし。」
ヤ「納得しました。じゃあ、まずは私からということですね。」
石「そういうこと。君はまだ誕生日会の時は設定ができていなかったからね。」
ヤ「もともとセリフのないモブだったらしいですね。私を無視するのはよくないですよ。」
石「ひっ、笑顔が怖い。ちゃんと出すから、突かないでください。」
ヤ「台詞だけでそんなことを言っても伝わらないでしょうに⋯⋯ 。」
石「いや、君が登場した時には意味がわかるから。高度な伏線だから! 」
ヤ「ここに伏線埋め込むのいい加減にやめましょう。私に関しては名前の時点で出落ち感があるのですし。」
石「いい名前だと思うけどなあ。」
ヤ「ツルギといい私といい、そのものじゃないですか!」
石「だってそれが由来なんでしょ?」
ヤ「くっ、そちらの世界の話はやめましょう。」
石「もう、気づいた人は気づいたんじゃないかなあ。割と有名な山だし。」
ヤ「多くの人はフジ以外知らないと聞きましたが?」
石「全くもって嘆かわしいね。少なくとも三千メートルを超える山は言えるようになっておこう。」
ヤ「いや、多分あなたも言えませんよね。」
石「いや、いける。北岳。奥穂高岳。間ノ岳。や」
ヤ「なに自爆しようとしてるんですか。さすがに私の名を明かすのは本編で、です。いいですね。」
石「危なかった⋯⋯ 。」
ヤ「この作者で大丈夫なんでしょうか⋯⋯ 。」




