神闘会2
ア「そういえば、忘れていたけど、僕、今日からここ抜けるから。」
石「いや、前書きに出張ってきてるんじゃないよ。えっ、マジで。」
ア「なんで、前の話の時に気づかなかったのかなあ。あそこのあとがきに出してくれたら僕だって、もっと余裕を持って別れることができたのに。」
石「すみませんでした。」
ア「というわけで、僕とあと一人、二人も新キャラが登場するよ。」
石「えっ、これから、どうやって乗り切ればいいの。」
ア「なんんとかなるさ。」
石「そうだななんとかなるな。」
ア「じゃあねー」
石「消えおった⋯⋯ 。」
本格的に開店するのは明日からであるようで、今は試し料理をしている場所がほとんどらしい。しかし、ここに着くまでの斜度のきつい、極度の疲労を強いる登りと、美味しそうな匂いのダブルコンボで僕の腹はノックアウト寸前だ。端的にいうと、お腹が空いた。
ちらっとシロを見る。目のあったシロはなんのことかわからないとでもいうふうに、首を傾げた。いやわかってるんだろ。心読めるんだろうが。その心の動きについに流れるように目をそらしたシロ。うん、お前に期待した僕が馬鹿だった。
「ユウキー。」
泣きつく僕。気分はドラえもんにすがるのび太だ。
「私も疲れたよ。」
ユウキはかなり嫌そうに答えた。
まあ、ユウキも同じだけの道のりを踏破して疲れ切っているから大変なんだよなあ。となると俺の嫁の手料理は封印かな。じゃあ、どうしようか。
「ナチュナルに俺の嫁扱いするんじゃのう。」
シロはいつものように呆れ含みで言った。
さて、それなら誰か代わりに作ってくれないかな。僕はそんな下心で他の二人の方を見渡す。
露骨に目をそらされた。どうしろっていうんだよ。ご飯は必要だぞ。
「それなら、心当たりの神に頼んで見ましょうか。」
見るに見かねたのか、ヤーンは提案した。
「ほんと! やったー!」
僕は喜色満面と言っていい笑顔になる。
「剣は子供じゃのう。」
「体はシロの方が子供だけどね。」
「いちいち余計なこと言わんでいいわい。」
そんな日常的じゃれあいを行いながら、僕たちはヤーンに連れられてある建物の前に来た。
その建物は言うなれば洋館。周囲の手軽建物とは一線を画す重厚さであった。即席で建てたのは変わらないはずなのに、壁を蔦が張っていたりと長年の風格を感じさせる建造物であった。
その大きな門の横の通用口を通って、僕らは中に入る。洋館の中も、立派な燭台や、額縁入りの風景画などの多くの装飾に飾られた華やかなものであった。
突き当たりのドアを開けてその部屋に入った僕らを驚いたように振り返って出迎えたのは二人の人物だった。おしゃれなポットでコーヒーのような流体を注いで給仕を行なっている、黒と白の補色同士で目立つ色をしたそうでなくともひらひらたっぷりで非常に目立つゴシックロリータを纏う黒髪の美少女。
そして、給仕を受けている少女は対照的に飾りの少ないシンプルな緑がかかった白のワンピース。そして、高らかにその存在感を主張する頭の上にピンと立った白いウサギの耳。イチフサに続いて二人目となるケモミミっ子だ。その耳の上から耳を巻くようにして後ろへ二つの結び目より髪が流れる。ツインテールだ。なかなか面白いな。絵師さんがいたら大変だろうなって感じの髪型をしている。髪と耳の関係が非常に描きづらいだろう。
「あら、ヒウチもいたのね。」
ヤーンは少々驚きをあらわにした。
「ん。お邪魔してる。」
言葉すくなにヒウチと呼ばれたウサ耳をした神様は応じた。ヒウチ。燧ケ岳、いや、火打山かな。かちかち山の故事は⋯⋯ うさ耳かな。なるほど納得いかないわけでもないな。
「彼女は僕の料理が食べたいって押しかけて来たんだよ。」
ゴスロリ服の少女はちょっと自慢げに言った。
「そうね、あなたの料理は美味しいから。ところでアサマ。この子たちのぶんも作ってくれない? 」
なるほど、こっちの子、ゴスロリ黒髪僕っ子はアサマ、浅間山か。⋯⋯ どこがどうなってこんなことになったのかは全くわからないけど。浅間山としての面影あるか? キャラ作成能力ゴミじゃね。よくわからない存在に対して毒づくなどしてみる。まあ、神様らしく、二人とも美しい人なんだけど。うん。やっぱり文句はないや。
「いいよ。僕の腕前を見せてあげる。」
アサマは簡単に承諾した。そのまま、厨房らしき奥のドアを抜けて消えた。
後には、一心不乱に食べ続けるヒウチの姿が残される。⋯⋯ そんなに美味しいのか。それは期待が持てるな。
取り敢えず、何とは無しにその近くに集まって周りの席に着く。あるテーブルは全て二人席。カップル御用達と言われても違和感ない徹底っぷりだ。まあ、カップルとは言ってもある程度の余裕がある、資産の増え始めた世代に限るような内装と雰囲気だけども。上品だ。元々の世界でいうと、一食1万円かかっても何ら不思議じゃなさそうな場所である。まあ、雰囲気と料理の美味しさは比例するわけじゃないんだけどね。でも、雰囲気も美味しさの一部と考えることもできるから、味の向上に一役買っているのは間違いあるまい。
というわけで、僕とユウキ、サクラとイチフサ、ヤーンとシロというふうに互いのパートナーが決定する。うん。コンパの時の席選び次第で今後の人生が変わってしまうことだってままあるからな。パートナーという言い方は言い過ぎではない。
席に着いた僕らは一息をついて、互いに話に興じる。僕ら、つまり僕とユウキは、全く新しい環境であるところのこの店ひいてはこの高原について思うところを述べるという一見さんらしい話の選び方をし、会話が弾んだ。ひと段落したところで別のテーブルにちらりと目を向けて見る。イチフサとサクラは何やってるんだろう。なんかお互いの唇が密着しそうなほどに顔を近づけている。⋯⋯ しばらく見ない間ない何があったお前ら。いきなり百合路線を持ち込むんじゃない。歓迎しないわけではないけど。百合は綺麗だからな。⋯⋯ 最終的に、互いの手を握り合って笑顔を浮かべるという何だかよくわからない感じ、例えるなら健闘を讃えるみたいな雰囲気になっていた。謎だ。
シロとヤーンの方は、いつもは余裕綽々なシロがヤーンにいいように弄ばれていた。なんかもう涙目のシロを見るのって初めてな気がする。まあ、主神様だからね。勝てなくても仕方ないよ。
「シロはからかい甲斐があるわ。」
ヤーンが口角を釣り上げるようにして笑ったのを目撃した僕には鳥肌が走った。その瞳に映る感情が無邪気な困らせたいという願望だったのが原因だろう。⋯⋯ いたずらっ子みたいだ。まあ、いたずらっ子に身にあまる力を与えるとえらいことになるというのは常識なので不安になるのも無理はない。どう考えても、本当に核ミサイル発射ボタンがあって、それをいたずら好きの子の前に置いていたらいつのまにか息を吸うように発射されている未来しか見えない。
「大丈夫。ヤーンは身内にだけしかあんなことにはならないから。」
無機質なあまり感情のこもっていない声とともに僕らのテーブルの真ん中にうさ耳がピコンと差し出される。ヒウチが僕らのテーブルのそばで身を屈めていた。整った美貌は無感動で、でも耳がぴょこっと動いて彼女が感情を持たない生き物ではないということを教えてくれる。
「ヒウチ?」
「うん。」
問いかけに答える声も短い。でもちゃんと答えてくれるし、話しかけられるのが嬉しいかのようにちょこっとうさ耳が上下するのが可愛い。
「⋯⋯ ソースがついてる。」
そんななかこんな指摘をしなくてはならないのは心苦しいものがあった。彼女の口元には、ケチャップらしき跡が残っていた。まあ、美貌を損ねずアクセントのようなものとなっていて、神様の潜在能力に震えるしかなかったりもしたが。
「ほんとだ。」
少しほおを拭ってそれを確認したヒウチは何事もなかったかのように僕らのテーブルの付近で口元を拭った。⋯⋯ それ使うんだけど。
「ごめん。」
素直に謝って、別の余っているテーブルから持ってくる。うん。いい子。⋯⋯ 僕のいい子の基準が低すぎなのは目をつぶってくれ。そんなもんなんだよ、男って。
「で、ヤーンの話だったよね。」
ユウキは、ずれた話の軌道修正をするのが得意だな。⋯⋯ 今、デフォでフレンズなんだねって言おうとしたのは流石に汚染されすぎ。まあ、どうでもいいんだが。
「そう。ヤーンは基本的には立派な主神。でも、その本質は、いたずらっ子。心を許した相手には、全力でちょっかいを出す。」
脅すようにヒウチは僕たち二人を見た。
「まあ、ちょっかいを出されたらその時は光栄に思うよ。認められったってことだと思うから。」
「そうだね。私もちょっと嬉しいかな。」
「さすが世界を救ったものたち。」
その反応を確認したヒウチは満足そうに頷いた。えっ? なに、広まってるのそれ。少なくとも僕たちとヒウチは初対面なはずなんだけど。
「ヤーンが、少し前に周知してた。あなたたちがここに来ることが決まったからだと思う。」
無表情に淡々と、ヒウチは事実を事実としてあるがまま伝える。
「ここは、神しか立ち入れない場所だから。」
改めて、とんでもないところに連れてこられたなという思いが芽生えて来る。一応僕らは一般人なはずだ。神を剣にして扱っていたりもするけど、一般人なはず。⋯⋯ よく考えると、僕がこっちに来てから知り合った人の数って、割と神様と普通の人がいい勝負している気がするんだけど。実は僕は神の世界に片足を突っ込んだ人物だったのか。謎の感動に震える。
なら仕方ない。ここで得られるものを全て吸収するだけだ。⋯⋯神のレベルの試合観戦って、初心者の役に立たないとは相場が決まっているものだけど。
知り合いになった人数は神様の方が多い主人公。⋯⋯ いや、山に行かないと普通そんなことはならないんだけれど。神様の方が少ないんだし。




