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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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神闘会1

⋯⋯ここまで更新する気は無かったんですけど、こうなったらいくところまで行きます。それと、字数が少しばかり多くなるかと。約二倍ですね。

 谷底から、上へ割と急坂を結構苦労しながら登りきった僕らの前に広がったのは、こんな秘境中の秘境には全くもって不釣り合いな光景だった。


  様々な木造建造物が、軒を連ねる、簡易的な街のようなもの。簡易的というのは、どう観ても真新しい上に、簡単な屋台のような構造の建物が多数を占めていたからである。やろうと思えば一晩で撤去可能なそんな雰囲気に建物が軒を連ねている風景は何だかお祭り騒ぎの残骸のようで現実感がなかった。


「ここ、なの?」

 多分間違いはないんだろうけど、気になって確認を取る。

「そうよ。」

 サクラが短く答えてくれた。


 他の二人、シロとイチフサも頷く。そうなのか。まあ、疑ってはなかったけどね。こんな山の上に建造物を起こすのは山神の仕業以外にありえない。



「ようこそ、この場所へ。」


 かけられた懐かしい声に振り向くと深青色の髪をもった女神、ヤーンが入り口で微笑んでいた。体の線を隠すようなゆったりとしたトーガ、だが、材質が透けるようであるために、そのエロティクな魅力は余すことなく伝わってしまう。豊かな髪は腰より少し上のあたりまで伸び、前やら横やらに流されて、まとわりつき、髪の長い女性にしか現れない複雑な動きを描いて、僕の目を楽しませる。



「久しぶりじゃ。」

「お久しぶりです。」

「しばらくね。」

「どうもー。」

「こんにちは。」

 5人でてんでんばらばらに挨拶する。大丈夫。被ってないから。


「そっちの世界で言うところの聖徳太子だったかしら? そのくらいはできるわ、曲がりなりにも神だもの。」


 ヤーンは優しく微笑んだ。


「で、そこの神さん? 言い訳なら聞くわよ。」

 そのまま笑顔でヤーンはイチフサへ問いかける。⋯⋯ そうだった。イチフサは無断でヤーンの指示に背いたんだった。忘れてた。

「すみません。全ては私が悪いんです。」

 怒られるのを覚悟してイチフサは俯く。その犬耳は下を向き、尾も垂れ、叱られるのを待つ子犬みたいだ。


「⋯⋯ 何方かと言えばワシの方が責められるべきじゃろう。わしは止めることならできたんじゃから。」

 シロはイチフサをかばうように前へ出た。主神たるヤーンに少しも気圧されていない、堂々たる姿勢だ。まあ、身長が足りないので、浮かんで目線を合わせていると言う事実には目をつぶってあげよう。


「そうね。私からいっておきたいのは一つよ。今後、こんなことするときには私に連絡しなさい。色々とやることもあるのよ。勝手に持ち場を離れられたら大変なの。」

 ヤーンは胸に手を当てて、心底といった風にため息をついた。


「⋯⋯ 辛辣なこと言ってる風だけど、許すってことだよね。」

 ユウキは、殊更に明るくイチフサを励ますように言った。


「そうですね。ありがとうございます。ヤーンさん、ユウキさん。」


 イチフサはユウキの狙い通り、そのもともともつ明るい性質を示すような百合の花が咲くような笑顔になった。眩しいその感情の発露にこちらのテンションも引き上げられてしまう。


 それはイチフサの、そしてユウキの才能なのかもしれない。アイドル顔負けの美貌をほころばせれば、周囲に花咲くような正の影響が生まれる。男としてただ一人それを堪能できる幸運を神に感謝すべきかもしれない。⋯⋯ ここにたくさん神様いるし、全員美人だから直接的にその幸運に寄与しているわけだけどね。ありがとう神様、幸せです。






「⋯⋯ 」

 気づけば、シロとサクラの視線が僕の方に痛いほどに突き刺さってきていた。


「⋯⋯ 何か?」

「それで、何もわからないふりをするなんて、図太過ぎて、神経の繊細なとこ、あなたの世界に落としてきたんじゃないかしらって気になるわよ。」

「剣は、直接的すぎるからの。そして、仕方のないことだとは思うが、脳内で考えていることが常人の比ではないくらいに多いから、さらに墓穴を掘ることも多いと。⋯⋯ 仕方ないことだとは思うが、気をつけるんじゃぞ。」

 サクラとシロは割と苦々しい顔でそう苦言を呈する。



 まあ、語り手だからね。仕方ないね。僕は悪くない。⋯⋯語り手=僕ならどう考えても悪いな。まあ、いいや、気にしても始まらない。


「まあ、ともかく、よくきたわね。特にユウキに剣。ここまでくるのは大変だったでしょう。」

 ヤーンはこの話は終わりというようにイチフサから目線を外して、僕らを捉えた。


「確かに。」

 真面目な顔で頷くユウキ。

「⋯⋯楽しかったって言っちゃダメなんですか。」

 恐る恐る言ってみる。

「剣くらいよ、そんなの。」

 サクラの呆れ顔が僕の心に突き刺さる。やっぱり僕は異常な精神の持ち主なのか。⋯⋯ いや、唯一無二の個性ではないか。他人との差別化は行ってなんぼだ。人と同じ画一化された考え方なんてつまらない。そう我が名は黒炎守護者ダークフレイムマスター。⋯⋯ダメだ、これただの典型的中二病患者だ。あんまり人と違うことをしようっていうのもダメなんなだなってよくわかる。


 まあ、結論としては、僕はこれくらいの山旅は大歓迎だよと。こんな秘境に至る機会をくれてありがとうってことである。


「⋯⋯異常性はなんら減衰していないのじゃが。」

「そんなことはないさ。感謝の言葉を述べるだけで、人は常識人へと急速にその姿を変えることが可能だ。だから、とりあえず、この世の全てに感謝を捧げておけば、どんな突飛な物語も格好がつくようになる。」


「ト●コのことかな?」

「具体的な名前を出すと何かに睨まれそうなのでやめてね、ユウキ。」

「大丈夫だよ、終わったんだし。」

「それもそうか。」


 というか、割と昔の、過去のことになっているというのにまだまだ覚えてるのな。まあ、こっちには娯楽も少ないし仕方のない部分はある。



「あなたたち、歯止めがないと、そのままずっとしゃべり続けてしまいそうね。」


「山旅は、話して気分転換していくことも重要だからね。」


「なるほどね。納得させられたわ。」


 感心したようなヤーンの表情と声。やったね。主審もとい主神から一本もぎ取ったぜ。副審もいないと本物の一本とは認められないけれども。



「そろそろ話が進まなくなりそうだから、早めに案内しておくわ。私についていらっしゃい。」


 そう言ってヤーンは長い紫髪を宙に舞わせて180度方向転換し、街の中、一応申し訳程度に作られている門の中へ入っていった。


 その後に親を慕う雛鳥のように僕ら5人は続く。地の利がないから。新たな地域に入ったらその場に住んでいた人の案内を乞うのは当然のことだ。


 まあ、僕らは先人のいない領域に分け入り登るということを繰り返していたので、この当然のことを実行したことは今までなかったのだけれど。

 我ながら冒険心に富んでいることであったよ。



 周りに立ち並ぶのは即席で建てられたことが見て取れる軽そうな木材で構成された建物群。一目見た印象としては屋台だ。まあ、もちろんそれよりはきちんと作られてはいる。そして、なぜだか知らないが、何かの料理のいや、料理達の匂いが、種々絡まって、複雑なでも、美味く、格調高い匂いとなって辺りへと充満している。


「⋯⋯ いつからここは料理大会の会場となったのじゃ。」

 シロが心底呆れたような声音で嘆息した。


「それいいアイディアかもね。」

 いきなりこちらを振り向いたヤーンがそれいただきとばかりにニヤリと笑った。


「やめるのじゃ。」

 シロは墓穴を掘ってしまったことに気づいて青くなってしまった。⋯⋯ まあ、絶望的だものね。大丈夫だよ多分。欠場くらいなら認められるはずだから。しかし、ここは、戦闘力を競う大会の会場だと聞いたんだけど。なんで、みんな料理作ってるんだ。


「それだけじゃつまらないでしょう。せっかく普段は会わない神たちが一堂に会するのだから、その舌を唸らせたいと思うのは当然じゃないかしら。」


「そんなにみんな料理好きなの? 神としておかしいと思うんだけど。」

 ユウキは小首を傾げる。


「えっと、あなたたちの記憶をのぞいてたら嫌に美味しそうな記憶がたっぷりあったから、周知しちゃったのよね。みんなに。そしたら、こっちでも再現したいってことになって、⋯⋯もっとも、シロは全く知らない振りをしていたのだけど。さすがに、苦手すぎると思うわよ。」

 ヤーンの答える言葉は、いつのまにかシロへの攻撃に変化していた。まあ、シロの弱点ってそこしかないから。


「ほっとくのじゃ。」

 シロはバツが悪そうに目をそらした。料理できないというのが少なからずコンプレックスと化しているみたいである。


「これに関しては私の圧勝みたいね。」

 サクラは、中庸の胸を張る。強調されるは双丘と形容可能な膨らみ。もっともっと威張るが良いぞ。少なくともこの点においてはシロが威張るよりも何倍もいいのは事実だ。


「確かに、サクラが作ったあの朝ごはんは絶品だったな。」


「でしょでしょ。」

 さらに胸を張って、その上で褒められたことが純粋に嬉しそうに笑顔を見せるサクラ。狙いの胸よりも何倍も強くその可愛い顔に意識が引き寄せられた。うん。いい顔見た。




「つまり、そのはまった神様たちが、他の人にも振る舞いたくなって、こんな美味しそうな匂いを撒き散らしてるわけだね。」

 ユウキはようやく納得したようであった。うん。僕も納得した。


「そうよ。大会中は屋台みたいにして手で食べられるやつをたっぷり作る予定よ。」


「お金なんて持ってないけど。」


「心配しなくてもいいわよ。私たちはそんなものには縛られないもの。」


「まあ、神様だもんな。」


「金運隆盛とかいうご利益を謳った神様もいた気がするけど」

「あっちの世界だから。こっちとは違うものだから。」


「そういことね。」

 ユウキは納得して頷いた。



「そういえば、イチフサ、どうしたの? 大人しいけれど。」

「ここへ来るのは久しぶりですから。」

 緊張を隠せぬようにイチフサは犬耳をペタンと頭につけて話す。


「そういえば、あなたはあまり参加してなかったわよね。一応自由参加にしてるからいいのだけど。どうしてかしら。」

 ヤーンは不思議そうに手を頬に当てて首を傾げた。


「⋯⋯私は、そんなに友達も知り合いもいませんでしたから。」

 イチフサは寂しさをにじませた表情で薄く笑った。


「⋯⋯イチフサ。」

 シロはその姿を見て複雑そうになんと声をかけていいかわからぬようにシロは言葉を詰まらせる。


「いいんですよ。もう、友人と呼べる人たちを私は手に入れることができたんですから。」

 イチフサは僕らを見回して微笑んだ。


「そうだね。」

「ああ。僕らは友達だ。」

 僕とユウキはノータイムで頷く。


「まあ、私もそう認めるのはやぶさかじゃないわ。」

 素直じゃないサクラでさえもイチフサに向かって、優しく微笑んだ。


 それを見てイチフサは感極まったように目頭を押さえた。神として年若い彼女にはそんな簡単な友情でさえもなかなか得難いものであったのだろう。まあ、彼女がなかなか行動を起こさない神であったのも大いに関係しているかもしれないが。そりゃ、こんな懇親会も兼ねているような行事に参加しないんじゃ、友達もできないよ。違いない。



 そんな余計な考え事はイチフサには聞こえなかったようで。僕は内心安堵した。




なぜだか恋愛面が多くなる気がします。あれ、バトル展開を描きたかった気がするんだけれども⋯⋯

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