ヤクシ6
そろそろ毎日投稿やめていいです?⋯⋯ きつくなってきました。
僕らが帰ってきたときは、全員が寝ぼけ眼で起き出してきた時間だったので、見咎められずに紛れ込むことができた。共犯者めいた気分でユウキと顔を見合わせては少し笑い合う。
シロとヤクシは目を細めて、こちらをすがめて見てきたから察したようだったけれど、何も言わないでくれた。
「じゃあ、私は、ご飯作るね。」
ユウキはキッチンに引っ込む。ヤクシの家にはキッチンがある。⋯⋯ シロ一派だけが料理できない説が急速浮上してきたぞこれ。
ユウキの作った朝ごはんを美味しくいただいた僕たちは、ヤクシの前に座って講義のような解説を受けていた。
「シロからもう聞いてるかもしれないけど、会場があるところを教えよう。」
おおー。僕らは歓声をあげた。シロは無駄に黙秘権を行使して、全然教えてくれなかったから、知りたい。
「まず、ここから、ちょっと降って峠まで行きます。」
「はい。先生。」
「そうそう。私は先生だからね。よーく聞いておくように。」
ちょっとだけ挟んでみたネタに全力で乗っかってくるヤクシであった。
「はいはい。でね。峠まで行ったら、そっから東のあの深い深い谷へ下りましょー。下の結構大きな渓流を越えておんなじくらい登ると到着だよ。」
「簡潔だね。」
「確かに。」
「あんまり言っても人の頭は覚えられないものなんだよ。たくさん言って忘れ去られるくらいならこれくらい簡潔な方がいいでしょ?』
うん。確かにそうだ。ヤクシの言ったことぐらいなら僕でも簡単に覚えることができる。まあ、頭の中の地図を開けば、目的地の同定だけで、どうやって行けばいいかくらいわかるけれども。
「まあ、あとはそうだね。途中の川を渡るのが大変ってことくらいかな。君たちはそれで一回死にかけたらしいし、気をつけなよ。一回くらいなら生き返る魔法でもかけてあげようか?」
ザオリクかよ! なんだこの神様。汎用性とチート性能が随一だ。なんで生き返るんだよ。健康と回復の神⋯⋯ まあ、復活呪文も余裕で唱えられそうだ。復活は神殿と相場が決まっていることだしな。
「そうだね。復活したら私の目の前に来ることになるから、そこだけは注意だね。一旦降りたのにもう一度同じ道を辿らなくてはならないみたいなことになりかねない。」
「ふむふむ。⋯⋯ それって、ヤクシに目的地まで先に転移してもらって死ねばワープ魔法が人にも効果を発揮するってことにならないか?」
「死ぬのが怖くないなら、やってみるといいよー。すっごく痛くて怖いらしいけど。」
ヤクシは冗談っぽくこちらを指差してくらりと小首を傾げた。
「うん。無理。」
いや、どう考えても無理だって。なんでいちいち死ななきゃならないんだよ。人生で一度だって味わいたくない苦痛だぞ。スバルくんすごいなあ。僕は一回死ぬのでさえ想像しただけで嫌になると言うのに。死にたくない死にたくない。
「そう言うところ、人間らしいなあ。私らにとっては、死なんてものはないも同然だから、あんまり怖いと言う感情は湧かないんだけど、多分そう言うことが君たちを人たらしめてるんだろうとは思うよ。」
ヤクシの言葉と表情には、僕たちの考えの中では及びもつかぬものがあった。神として、これまでもこれからも人の生き死にを見つめ、見続けるものの悲哀と承認が。
ヤクシもついてくるのかと思いきや、彼女はしばらく残るらしい。
「まあ、日にちもそこまで残ってないし、あとで行くよー。まだ見回り終わっていないしね。」
ヤクシは時々そうやってカウンセリングじみたことを行なっているらしい。山神が心を乱すと、大きな災害が起こってしまう。それを未然に防ぐのが彼女の役割なのだ。なら、もう少しサクラの方に行ってやれよと思わないでもない。まあ、彼女はいくらカウンセリングされてもすぐにまた爆発しそうであるが。遠いし、他にもたくさん必要な神様はいるんだろうから仕方がないのだろう。
パッと手を振るヤクシに見送られて僕ら一行は山頂を出発した。
大きな山らしく、山稜も大きく、数日前の切り立った尾根道とは好対照をなしていた。問題はなかなか高度が下がらないことか。さすがに大きすぎるぞ。もはや湿原とでも行ったほうがいいような湿地帯が平らな尾根に広がっているなど、距離は稼げているけれど高度は全く下がらない道が続く。
そんな流れで、ヤクシの言った峠にたどり着いた。やはり広い尾根で、横にサッカー場が二つくらいは入るんじゃないかと思わせられる。木々もまばら。草原が広がり気持ちのいい風が吹く。休憩休憩っと。
ア「そういえば、そろそろ僕もお別れだよ。」
石「もうそんな時期か。早いな。」
ア「どうするの? 後任とか考えてる?」
石「一応一人いるんだけど、その人がいなくなったらどうしようか⋯⋯ 。いや、まだ残弾は二つある。」
ア「弾って表現はどうなのかな。」
石「残神? 」
ア「残心みたいだね。」




