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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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ヤクシ

毎日更新⋯⋯。1週間くらいならば続けられるかと。

 


 あくる日。この日は正面の大きな山塊を目指すこととなる。高いというよりもひたすらに巨大だという感想が出て来る。巨大なものは当然標高も高いが、それでも目立つ頂がないと存在感は小さくなるはずだ。だが、この正面の山はひたすらにどっしりと構えて、こちらを懐深くまで入れる度量を持っている。鋭峰など、なくともなんの問題もない。山はただ純粋な質量を持って存在しているだけで、十分に美しいし、素晴らしい。


 ここから、草原と化した広い尾根を登っていく。丈の高い緑の花。葉と同じ色をしていて、大きいのに地味だ。高山らしい丈の低い、下界のススキなどとは全く違った種類の草原を、強い風が吹き抜けていく。草野さわさわと揺れる音が絶えず響き、いっときも休まらぬ自然を表現しているかのようだ。


 天気は、良くもなく悪くもない。一面に雲が広がっているが、雨が降る気配もなく、むしろ日光を遮ってくれており、ありがたくも感じる。雲の切れ間からは光がまるで柱のように地面に向かって放射されているのが見て取れる。普段は意識しない太陽の光というものが、この地上に確かに降り注いでいるのだと実感できる。


 左手をもう一度見てみよう。谷が近くなった。切り立った渓谷が千メートルほどの落差を持ってほぼ垂直に落ちる。そして、前日まで僕らと並走していた尾根は、新たな山。これも大きな、山肌の赤い山だ。この山の影に隠れて見えなくなっていく。少しばかりの悲しみと追憶を持ってそれを見送る。本当にこの領域は山が豊富だ。それに満足して、とりあえず取りかからなくてはならぬ難物に眦をあげて相対し、足をあげていく。急ではないし、きつくもない。だがそれでもその山の長大さは、僕らの呼気を徐々に荒くしていく。長さはときにそれだけで罪である。抗いようもない暴力性を表すのだ。



 幾度となく頂きへたどり着き、その上にさらなる高みを確認して、後悔するという流れを経験し、謎の打たれ強さを得た僕達。尾根が長すぎるのが原因である。下から見ると、少しばかり尾根の傾きの角度が変わっただけの場所でさえ、立派なピークの一つとして見えるのだから。




 徐々に、踏みしめる足元も、草原から、土、そして、バラバラの岩石片へと様相を変えていく。標高が高すぎて、分解作用が追いついていないのが原因であろう。つまり、かなり登ってきたということだ。その証拠に、周囲の展望の広さのレベルが一段階上がった。先ほど前は見えなかった南の方に、秀麗な圏谷を抱える峰、そして、タテのあたりから見たあの三角錐の山が、大きくその姿を見せている。あの屋根を覆い隠した赤い長大な山は、別の山へと繋がり、そこからも多くの山々が数珠のようにアップダウンを繰り返して繋がっている。気の遠くなるような山の連なり。だが、これこそが僕の待ち望んだ光景だ。一生ここで過ごしたい。





 ある平らかなピークをやり過ごした僕らはガスに巻かれ始めた。頭上の雲の領域まで足を踏み入れていしまったのだろう。かなり登ってきたものだ。雲は、動かない水の集まりと言い表すことができる。すなわち、雲の中につっこむということは、土砂降りの雨の中を行く覚悟をしなくてはならないのだ。まあ、服が濡れるくらいであまり実害はない。それが唯一の救いだ。雲との遭遇は避けようがないから。




 ああ。それともう一つあった。雲の中は方向感覚がなくなるとともに、視界がかなり制限されてしまう。

 これは登山においては、かなり致命的な問題だ。最悪の場合、同じ場所をくるくる回ったり、全く逆の方向へ進んでしまうこともある。




 慎重に、ゆっくり進むことにした。ちょうど良い具合と言っていいかわからないが、急なへりが尾根の左側を切り込んで縁取っているのでそこを目印としてその切り立った崖の横を落ちないように注意しながら歩いて行く。




 神経を消費する道のりが続く。一歩間違えたら、左側の崖に真っ逆さまだ。右側に逸れたら、霧に巻かれて確実に迷う。僕は、一行の最後列で、前を行く四人が足並みを乱さぬように見張る。先頭を行くはシロ。その豊富な経験を用いて、最適なルートを撰び取る。彼女は歩いてさえいないから、肉体的な負担はゼロで、その意味でも、先頭を任せるに足る人材だと言えるだろう。





 その後ろにはサクラ。シロに対抗するべく急ぐが、やはり浮けないのがネックとなり、どうしても追いつくことができていない。山登りにおける割と不憫枠だ。


 真ん中はユウキ。この世界に来てから多くの山行経験を積んだため、その足取りには迷いなど見受けられない。正直、足のある山神二人よりもはるかに技術的には滝水準にあると言えるだろう。


 僕の前は、イチフサ、一番経験がないからだろうか、まだまだ頼りない。時々よろめいて、僕が手を貸すべく歩み寄ることになる。



 こうして、苦戦しながらも僕らはこの大きな山を順調に登っていた。
























ア「山書けてよかったね。」

石「悪くない。」

ア「もっと素直に喜んだら? ちょっと頰がひくついてるよ」

石「わーい!山登り、たのしー!」

ア「なんか違う気がする⋯⋯ 。」

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