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異世界山行  作者: 石化
第4章:神闘会

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登山6

登山だけを書いて生きていたい

 タテの山の右肩。今日の朝、剣以外の人物が向かうことを主張していた乗っ越しへと下りついた一行は難しい選択を迫られていた。具体的に言うと、進むか、止まるかだ。すでに太陽の位置は中天を過ぎ、午後へと移り変わっていることを知らせる。先ゆく道がどのようになっているのかを知るすべを持たぬ剣は、最善策を取ることができるのか不安であった。もし、休憩に使えそうな場所がどこにもなかったら。肩の上から見上げる山はその嫌な予感を裏付けるかのように高く険しく聳え立っている。剣はその嫌な予感を振り払うように首を振った。



 自分で悩んでも何にもならないと悟った剣は仲間達に相談してみることにした。


「行きましょう。」

 やる気満々で答えるのはサクラだ。猪頭猛進とはまさに彼女のためにあるような言葉だろう。


「なんだろう。今、僕の中で先に行くべきじゃないんじゃないかと言う気持ちが膨れ上がってる。」



「失礼ね。」

 怒って腕を組んで顔を背けるサクラであった。そして、その関係を修復しようとしないのもまた剣の特徴なわけで。

「二人はどう思う?」

 サクラを放っておいて、シロとユウキに問いかけた。それもまた剣である。

 二人は長い付き合いなので、まあ仕方がないよとサクラに目配せして慰めると言う高等技術を見せた。


「わしは、先へ進むべきだと思うわい。なにせ、どっかの誰かさんのせいで今日の行程は大幅に遅れておるからのう。行ける分は行っておくべきじゃろう。」



「私も、シロに同意見かな。」


「わかったよう。僕が悪かったよう。」

 遠回しに責められていることに気づいた剣は唇をわずかに尖らせるも、それを素直に受け入れた。ここは剣の美点と言っていいだろう。素直に悪かったと認めることができる。簡単なようで、その実とても持ち続けるのが難しい能力だ。


「⋯⋯ 私に振ってくれないのは信用されていないということですか。」

イチフサは不満げに唇を尖らせた。事実、剣はイチフサには何も言わなかったからだ。一人だけ仲間外れにされたようで寂しかった。


「⋯⋯ いや、でも、イチフサって基本シロと同じことを言うから、聞く必要もないんじゃないかってね。」

「それは認めますけど、でも、礼儀として一言くらい欲しいものですよ。」

「わかった。これからは一応聞く。」

「よろしい。⋯⋯ 一応ってなんですか。」

意を得たように反り返って頷いて、そして剣の発した言葉に引っかかって咎めるイチフサ。鋭くないわけではないのだ。



「よし、行こう。」

「りょうかーい。」

「どんどん行きましょう。」

「そうじゃの。」

「ねえ、無視しないでください。」








 話はまとまった。最後のセリフは聞こえなかったことにされた。イチフサは不憫である。時刻にして、14時ごろ。中天を通り過ぎた太陽が鈍色に光を放つ。地上の中でも太陽に近い方であるこの地。照りつける日差しもそれに比例するかのように厳しい。その代わり、気温は低いため、快適である。すなわち、気づかないうちに日に焼けてしまうということになりかねない。神三人はともかく、ユウキにとってはちょっとした問題だろう。剣に関しては気にしない。ユウキもちゃんと、長袖の服を選んではいるのだが、歩いているうちに熱くなってきたらしく、袖を捲り上げてその柔肌を日の下に晒している。





 剣はそちらが気が気でないようだ。まあ、白い肌が陽光の下に晒されて輝く様子は見事なものであるから無理もない。その上、日焼けの影響はないであろうとはいえ、サクラもシロもついでにイチフサも割と露出の多い服装を着ている。肩がすっきり見える和服ミニスカート姿の桜は言うに及ばず、シロも何を思ったかずいぶんな軽装で二の腕を露出させている。イチフサはおそらくシロの真似をしているのだろう。色使いだけが違う同じような服である。




 かように欲望をこらえきれずに、ちらりちらりと四人の少女の方を見ていた剣が頂上に着く頃にはその余裕もなくなっていたのであるから山登りは偉大である。


 息も絶え絶え、なんとか、急坂を登りつめた剣達の前に待っていたのはこれまでとはまた違った風景であった。先日止まった丘のある台地が丘陵をいくつも作り、低い潅木に覆われて緑に満ちている姿は大変美しいものであった。そして、超えた先には、この山よりも少し小さいが、それでも十分に大きな峰が鋭く天をついていて、これからの道を思う者の胸を沈ませた。だが、その先は、それを補って余りある山の大群青。二重三重どころではない。十重二十重もの山々が視線の先に広がっていた。



 重厚な山容を誇る鈍峰が大きく裾野を広げるかと思えば、腹に楽園を抱えるかのように窪んで特徴を作り出しているような山。はるかかなたには、まるで槍のような尖った岩峰が望めた。ここからあの形に見えるなんて、本来はどれほど大きいのだろうか。剣の中の冒険家の血が沸き立っていく。



「よし、行こう。僕らの楽園へ!」

 ただ山の姿を見ることだけで体力を全回復させた剣は、そんなことを宣言して、三人を促して、自分は先に降り始めた。


「あっ、ちょっと、こら! 待ちなさいよ!」

 サクラは慌てて剣の後ろを追いかける。

「そうですよ。先に行かないでください!」

イチフサも続く。


 それを見るユウキとシロは完全に優しい目となっていた。


「楽園だってさ。」

「わしとしては嬉しくはあるんじゃがのう。」



「さて、あのバカリーダーを追いかけるとするか。」

「そうだね。」

 二人は頷き合い、下り道へ歩を進める。まだまだ旅路は長く果てしない。






ア「さて、これであとは初日の始まりと一回戦の終結までかけたらひと段落つけるくらいだね。」

石「なぜ貴様がそれを。」

ア「監視してます。あなたの隣で。」

石「いやだ、ホラーは嫌い。」

ア「さすがに冗談だよ。」

石「良かった。」

ア「それはそうと、やっぱり僕も本戦に出場させてよ。」

石「そんな予定は⋯⋯ 善処します。」

ア「やった。これは確定したと思ってもいいやつだね。ようし、頑張るぞ。」

石「君は、予選敗退だったはずなのに⋯⋯ ドウシテコウナッタ。」

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