登山4
久しぶりの彼女の登場です。
⋯⋯ テストはまあ、聞かないでください。
なんとか剣が、ツルギの山の方に過剰な興味を持つのを阻止することができて、一安心した4人であった。
右側の方へ、当初の予定通りタテの山に歩みを進めることにした。割と険しい道である。先ほどと同じように岩がゴロゴロと天をついて転がっている。先ほどの違いといえば、周りが山肌で囲まれていないと言うことぐらいだろうか。周りには蒼の空間がどこまでも広がっている。蒼穹とはこのような空を言うのであろう。皆、山道歩きは手慣れたものであるとはいえ、これほどまでに周りの山々の連なりが見える尾根道は初めてであった。目線をさえぎる草木が存在しないのが大きいのだ。
青空の下には残雪の残る峰々が多種多様な形を見せて聳え立っている。鋭く尖って天にその存在を主張するかのような峰。大きく裾野を広げて、柔らかな山容を見せる山。山の絶対数が多い。アップダウンを繰り返し、峰に次ぐ峰が繋がり、一つの流れを作っている。これが山脈というものなのだろう。
砂礫が続く場所を選んで剣達は登っていく。岩の上は、滑り落ちやすいものである。できるだけその上を歩かないようにするのも又技術のうちだ。
一つ目の山頂に到着した。当然これで終わりのはずもなく、四人の目の前には次なる山が立ちふさがる。今まで見えてこなかったすなわち山の向こうにあった山肌に氷河の上部だけが露出したものを見つけるなどもした。
もう一つ登る。相変わらず展望は素晴らしい。振り返っては後ろに残してきたあの山を未練がましく見つめようとする剣を制するという一手間が必要だったが、気にしないことだ。そういうこともある。
その後も二、三の山々を超えてゆく一行。それは、この先の旅路の困難さを予告しているかのようであった。
ようやく、なんらかの建造物の元へ四人はたどり着いた。御多分に洩れず、山頂に建っていたそれは円形のドーム状となっていて、空へ丸い天井を向けていた。
シロが5人を代表して扉を叩く。
「タテよ。在宅か?」
しばらくして応えがきた。
「はい、ちょっと待っててくださいね。」
扉が外へ開かれて、そこに立っていたのは銀の長髪を一つ結びにして肩から垂らした年の頃24ばかりの美女であった。ただし、服装としては、なぜか男性物のタキシード。ビシッとした黒に、襟元に覗く白いカラーがアクセントを添えている。そして、それを押し上げる胸。どうして男性物の服を着ているのかよくわからないほどに自己主張している。
雰囲気としては艶があるというより、硬質な美というべきものがあると言えるだろう。触れたものを固く弾きそうな孤高と言い換えることもできるだろう。彼女は警戒と興味の入り混じった目で剣とユウキを見つめた。
「シロ、この子達は?」
「ヤーンから聞かされてはおらぬか?あの色災厄の解決者じゃ。」
「ああ。なるほど。」
タテのこちらを見る目つきが柔らかくなる。
「ようこそはるばるこんなところへ。」
「剣がいなかったらスルーできたんじゃがのう。」
「何? シロは私に会いたくなかったっていうの?」
静かな怒気があたりに満ちた。タテの放つものだろう。シロのそれと勝るとも劣らない凄まじいものだ。
⋯⋯ というか、やっぱりそこ気にするんだね。立ち寄ってよかった。
「さすがタテさん。」
サクラが小声で呟いた。
剣とユウキの首捻りにサクラはこそこそと耳打ちをして教えてくれた。
「タテさんは神々の中でも有力な三つの山の一人よ。その守護を突破できるものは誰もいないと言われているわ。」
「へえ、それはすごいな。で他の二人は?」
「えっと、フジと⋯⋯ シロよ。」
複雑そうにサクラはそう言った。自らがライバル視している山が、自分とは違う領域にいるのを認めるのが悔しいらしい。
「シロさんは最強ですから。」
イチフサは輝く瞳でそう力一杯主張した。
「⋯⋯ そうね。」
いつもは言い返すはずのサクラが若干死んだ目になっている。
「大丈夫だよ。いつかシロにも勝てるって。」
「すでにある領域では圧倒してるしねー。」
うん、料理だな。その通り。
「私は、戦闘力が欲しいの!」
「そんなサイヤ人みたいな。」
「何それ。」
サクラの冷たい視線が剣に突き刺さる。いや、多分言い得て妙な気がするけど。
そうこうしているうちにシロとタテの間で話がまとまったらしい。
「ちょっと休憩させてもらえるそうじゃ。」
「やったー! ありがとうタテ。」
「あなた、馴れ馴れしいわね。」
タテは剣から若干距離をとる。
まあ、剣は若干距離不審人物くさい。
人との距離をつかむのが下手なのだろう。それが上手く作用することもあるが、今回は裏目に出てしまったようだ。
ともかく、なかに通された。
天蓋も丸く、まるでモンゴルの住居のようだ。
謎の装飾品がたくさんある。怪しげな民間芸術みたいな作品だ。
ユウキが尋ねてタテが答えたところによるとこういうのを集めるのが趣味なのだそうだ。⋯⋯ 変わった趣味をお持ちでと剣は軽率にも考え、タテに読み取られて睨まれてしまった。割とかわいそうな主人公である。
石「彼女の魅力を伝えるにはどうすればいいんだろう。」
ア「あれじゃない?いつもの。なんかイベントを起こしてだね。」
石「それを解決か。いや、あんまりそればっかりしててもダメだと思っててね。」
ア「適切なエピソードが思いつかないだけじゃ⋯⋯ ?」
石「まあ、それもある。」
ア「相変わらず正直だね。」
石「何はともあれ、最後までの見通しがようやく立ってきたことは喜ばしいことだ。」
ア「⋯⋯ それがテスト勉強から逃れるための方便であったことに目を瞑ればね。どうだったの?」
石「聞かないでって言ったでしょうが!⋯⋯ まあ、もうちょっとくらい勉強しとけばよかったなって感じだったことは否めないかな。」
ア「いや、それ再履修の科目だったよね。しかも語学だよね。まずいでしょ。」
石「なんとかなると信じて残り22話仕上げます。」
ア「公約を守ろうとする姿勢は素晴らしいんだけど、それは、勉強を優先したほうがいいんじゃない?」
石「どっちも頑張る。」
ア「僕は何もできないからとりあえずエールを送っておくよ。頑張れ。」
石「おっす。」




