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異世界山行  作者: 石化
第3章:思い出話

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閑話「白黒世界の創世」





 ある山の上、豪勢とは言わないまでも十分に豪華な建物が尖った山を無視するようにしてそれを取り囲む形状を作っていた。どうして下へ落ちていかないのか不思議な形である。その館に、今、訪問客が訪れた。



 美しい女性だ。深い青色の長くストレートな髪をして、紫色のローブで体のラインを隠してはいるが抑えきれないスタイルが主張される。ローブはまるで星でもちりばめられたのかのように時折キラキラと煌めき、その美しさはとどまるところを知らない。



 彼女は巡っている。神神の住処を。そしてこの世界を観測している。それが彼女の仕事。いつの間にか決まった天職であった。ここの神に会うまでの長い廊下を歩みながら彼女は気を引き締めるために目を瞑る。



 そして、いきなり見開いた。体は歩みを止めないままに彼女の世界の観測は続いていた。

 








 観測している世界に異常が生じていた。世界の神々たちが次々と消えていくのだ。慌てて自らの感知能力を最大にする。地図型能力のように天空から俯瞰しているだけの状態から、己の視覚を飛ばし、つむった左目に異常の生じているあたりの映像を映しだす。




 見えたのは山。そして平野だった。どこにでもあるその景色。


 しかし、異常はすぐさま襲来した。遠くに横たわった緑の山が黒の膜に覆われた。空は灰化し、青が消え、曇り空となった。確かに太陽は昇っているにもかかわらずだ。


 慌てているうちに、自分の目のある所にもその色が迫ってきた。まるで津波のように速く大きく黒い、そして、気配を探っても、何も感じない不気味な波。




 ぞくり。心が粟立つ。ついぞ感じたことのない恐怖だ。直感する。あれに物理的に対処するのは不可能だ、と。


 目として用いた分体は、蹄を駆って、全速力で逃げ出した。だが、目で見て速さがわかる現象に勝てるはずがない。雲だって時速にすると結構なものだ。必死の努力にもかかわらず、獣の脚力はその黒に勝てはしなかった。分体からの意識の切り離しが間に合わずその灰黒に触れた途端、彼女はその奇妙で異様な感覚に思わず意識を手放しそうになった。




 今までのような余裕を失い、廊下を走る。長いローブがまとわりつくが、彼女の足は止まらない。



 扉を開けた先には驚いた顔を見せるこの館の主人の姿があった。


 観測者たる彼女は地位として主人よりも高く、いかなる時でも冷静にして沈着、弱みなど見せるはずがなかったはずだったのだ。こんなに取り乱した姿を見たのは主人も初めてだった。 



 館の主人は白の(かんなぎ)を連想させる装い。折れ目のはっきりついた黒の袴。腰と肩を大胆に見せる切れ込みが彼女の雰囲気を端麗にして可憐なものとしていた。肩を越える長さの黒髪も相まって、地球で言うならまさに和風美人である。



 青い髪を乱して彼女は主人に見たものを話す。しかし、人は実際に自分の目で見ないと本当の意味で危機感を抱くことはできない。主人もその例に洩れなかった。業を煮やした彼女は主人の手のひらを掴んだ。そのまま星の反対側に瞬間移動を行う。これで少しは時間が稼げる。そうひとりごつ青髪の女。なりふり構わぬその姿を見て主人の方もここにきてようやく彼女の焦りを自分のものとした。





  一方、観測者たるこの星の主神はそれを見て自分を相対的に落ち着かせることができた。しかし、落ち着いた状態で考えてみても、あの現象は異常だ。認識を危機段階レベルとして最大級に設定する。このままいくとこの星は終わるだろう。



 しかし、彼女は慌てはしなかった。先ほど落ち着きを取り戻せたのが大きい。一息を吐き、彼女はひとまずあることの準備をする。その儀式を知っていた主人もオロオロしながらではあったが協力した。地に陣が描かれる。複雑な文様が出来上がっていく。






 不意に、彼女にある通信が届いた。灰色に飲み込まれたにもかかわらず、何の影響も受けなかったらしいテンパった神からのものだった。なぜ動けるのか。その考える価値の高いことに対して考察を巡らす間もなく彼女はその神に後を託すことにした。色々と伝え、通信を切る。






 その時にはもう、星の反対側に逃れたはずの彼女たちの眼に写る範囲に灰色の大波が迫っていた。二人は慌てず儀式を始める。召喚という名の儀式を。


 彼女の指定した条件は2つ。2人であること。その2人の間に強い絆があること。




 彼女は先ほど主人のおかげで落ち着けたことを忘れてはいなかったのだ。あっという間に作り出される召喚可能者の表。彼女の眼はそのうちの一つに引き寄せられる。先ほど消えていった神々、そのうちの1人、そして今ここにいる1人の名を持つ者に。


「大丈夫よ、ツルギ、私たちが居なくてもきっとなんとかなるわ。」

 顔をあげ主人の名を呼んで、主神は言った。

「だってあなたの名前を持つ子よ。」


 自分に言い聞かせるような響きのそれを聞いたツルギは力強く頷いた。

「その通りだ。信じよう。その子達の力を。」

 そこには先ほどまでの焦りは少しも感じられなかった。その心強い励ましに主神は笑う。

「そうね。」




 目の前に迫った黒波を前に時間を止めた。この時間にはツルギも入っては来れない。固まった彼女にもう一度感謝の視線を送って彼女はその2人を選んだ。


「お願い。この世界を救って 」

 そう言うと彼女は、2人を無事だった神と異変発生地の間に設定したポイントに向けて召喚した。時の停止が終わる。黒波は無慈悲にも彼女とツルギを飲み込んだ。







ーーー



 時は少々前にさかのぼる。青髪の女神が異変に気付いたのと同時刻、ある場所に存在する神殿にてもう一人の女神が異変に気付いた。すぐさま杖を持った彼女は自らの神殿の大広間に赴き、召喚の準備をする。この危機に立ち向かえる勇者を召喚するのだ。準備を終え、彼女の口から呪文が漏れ出る。荘厳な雰囲気の中、儀式は進行していく。控えている神官たちも威儀を正して並ぶ。儀式完成まであと一歩に迫った時、黒波が白亜の神殿を飲み込んだ。



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