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異世界山行  作者: 石化
第3章:思い出話

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白2



 そして、わしはついに、原因と思しき記述を見つけた。



「ようやく閃いた。塔のバランスを保つには、エネルギーが必須。そんな大量のエネルギーをどこから持ってくるか。悩んだ甲斐があった。色だ。万物には色がある。それをエネルギーとして変換することはできないだろうか。」


 


「実験は成功した。彩度の高いものほど良いエネルギーが取れるようだ。これを循環させる方法さえできれば。」


「振り出しだ。燃料は色を失う。すなわち、一回使った燃料はもうエネルギーを利用できなくなる。最上階に設置すべきなのに、このままでは燃料供給が追いつかない。」



「街のお偉方にせっつかれてしまった。一応、揺れを解決する方法ならありますと言ってしまったのがまずかったようだ。それを使わないと殺すと言われている。願わくは、うまくいかんことを。」


「今日設置だ。これでようやく、ご恩返しは果たせただろうか。記憶喪失の俺を受け入れてくれたこの街へ。」


「この塔があれば、人が集まる。人が集まれば、この街は栄える。⋯⋯ 悪いことであるわけがない。そうだ。そのはずだ⋯⋯ 。」


 なるほど。


 わしは、その日記を閉じた。つまり、その色をエネルギーに変える機械というやつが暴走したのじゃろう。世界から色を完璧に消し去るまで止まらなかったと。



 ⋯⋯ なら、何でわしは無事なのかのう。


 己の手をしげしげと見つめる。


 見事なまでに白い白色の腕だ。目の端を揺れる髪もまた、真っ白。


 ⋯⋯ 白という概念を司る神になった覚えはないんじゃが、どうも、そういうことらしいわい。ため息をつく。景色がモノトーンになっているということは、最初から、白または黒だったものには何の干渉もしないのだろう。



 やはり、わしが頑張るしかなさそうじゃの。


 理論的裏付けを得て、自分の特異性を認識した。


 ⋯⋯ とはいえ、どうやら、機械は塔の最上階にあるようじゃ。そして、停止させる方法は設計図に書いてある。とはいえ、そこまではわしの力ではいけぬ。


 なぜ、神だけを排すような結界をこの男は作ったのじゃろうか。わしらはほとんど下界には干渉していないはずなんじゃが⋯⋯ 。


 首をひねった。


 また手詰まりじゃ。一つ確かに前進したと思ったんじゃがのう。





 そういえば。主神からのメッセージを思い出す。人間を二人、こちらに召喚したから、導いてあげなさいというメッセージだ。


 状況把握を優先した彼女はとりあえず無視することに決めた指令だが、今思い出すと、この状況を打破する手段として有効だ。


 人間二人を召喚するとは⋯⋯ 。もしかして、あやつ、この塔のことをすでに知っておったのではないか。急に疑念が出てきたわい。


 だが、この際、手段はそれしかないかの。ヤーンがこの世界のどこかに召喚した人間を見つけだして、あの塔の最上階で機械を止めてもらう。それだけじゃ。





 さて、どこにおるのじゃろうか。わしは、道の真ん中で、首をひねった。ヤーンの言葉によると、わしの山と原因の場所の中間付近に召喚したらしいのじゃが。 

 ⋯⋯ 全然気にしてなかったのう。気づかずに飛び越えてしまったようじゃ。

 さすがに、この有様じゃから、獣に食われておるなどということはないと思うから、その意味では安心じゃが。この世界で動ける獣など、おるまいて。




 彼女はとりあえず、自分の山へ帰ることにした。中間にいるというのならば、空から俯瞰すればわかるだろう。そんな心算こころずもりだ。




 飛翔する。わしの飛行は、浮遊と転移の合わせ技。自分の体を少し浮かせて、その状態のまま転移。そして浮遊が切れないように掛け直して、もう一度転移。高高度になればなるほど、浮遊の技はなぜだか効果時間が短くなる。




 塔を少し振り返って、その大きさをもう一度実感して、その街に背を向けた。


 正面には、刈り入れ前の麦畑が続く平地。その後ろに山脈が立ち上がり物々しい雰囲気で睥睨する。


 こちらから見る雰囲気はいいのう。



 山脈は、三つの頭を掲げる峰へと続いていく。その連なりを眼下に捉えながら、上空を飛翔する。







 なぜどこにもいないんじゃ。山まで戻って、もう一度引き返しながら、わしは毒づく。人間でなくてはあの塔の結界は超えられぬ。どうしても人間に協力してもらう必要があるのじゃが⋯⋯ 。



 今度はさらに広い範囲を捜索する。先ほどは行わなかった屋内の捜索までした。だが、見つからない。どこにもいない。徒労感が身を包む。神の身とはいえ、疲労するのは確かだ。それも精神的な疲労が大きければなおさら。


 あまりの見つからなさにふてくされたわしは、自分の山に戻ってふて寝することにした。




 かなりの時間が経った。不貞寝をし続けることにさすがに罪悪感を覚えて、ようやくわしは起き上がった。雪に閉ざされた自分の山の頂上下の快適な地下室。このところの自堕落生活が実を結んで、かなりごちゃごちゃした散らかり方をしている。自堕落生活で実が腐ったとかが正しい表現かもしれない。



 もう一度、飛んで見ることにした。今度は、大捜索のような手間はかけない。飛んでる時間は楽しいものだし、飛んでりゃいつかは発見できるだろう。義務だと思わずに、遊びだと思うのがミソだ。


 自由気ままに空を飛び回る。ほおを当たる風が気持ちいい。ここ数年ほどは、外へ出歩くこともなかったので、街の変化を興味深く見物する。普段なら叱責するはずの主神も、今や色を奪われて固まっているのだ。もはやわしの寄り道を止めるものは誰もいなかった。



 散々飛び回って、それでも無視することはできなくて、わしは、再びあの塔の近くに戻って来た。飛び回っている間中、視界の端には常にその巨塔が見えているのだ。無視などできようはずもなかった。


 そこに人影が見えた気がした。わしは、転移する。それが、探していた人であるという期待を胸に。







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