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異世界山行  作者: 石化
第3章:思い出話

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再び世界を渡るもの

 

 ヘッドライトを頭に着け、暗中登山に出発する。懐中電灯は手がふさがるため、転んだ時に危険なのだ。ヘッドライトで両手を自由にしておくのが暗中登山の鉄則だ。


 初頭の寒さが骨身にしみる。ヘッドライトで向かう道を照らしつつゆく。ライトは一部分しか照らしてくれない。ときどき足を止め、宙を振り仰ぐ。輝くばかりの星々の明るさを背景に白山が暗くそびえている。ところどころくらい山肌が明るいのは雪だろうか。



 標高が上がってきた。運動している体は熱いはずなのに冷気がその上から刺してくる。雪がちらほら登山道に積もるようになり、ついには一面の銀世界となった。登山靴にアイゼンをつける。これがないと、滑って思うように動けないのだ。雪の上を進む。他にはだれ一人おらず、ただ僕の足が雪を踏む音だけが響く。孤独だ。ユウキもあちらの世界でこんな思いをしているのだろうか。シロがついてるはずだから、大丈夫だといいけど。




 ついに僕は山頂の神社にたどり着いた。満天の星空のもと、僕と雪と神社だけが存在する。僕は正式なやり方で神社にお参りする。確か、2礼2拍手1礼でよかったよな。まあ、仮に違っていたとしてもシロの性格なら、大丈夫だろう。気にしない。


 それから僕は頭の中でシロに呼び掛ける。何度も、何度も。


 動くことをやめた体を冷気が容赦なく襲う。寒いという言葉では言い足りない。なにも起こることなく、ただ時間だけが過ぎていく。






 始まりは、何だったのだろう。最初は小さな鈴の音を聞いたような気がした。いつの間にか神々しい音楽が辺りに響きわたっていた。そして、神社の前に白い、服も髪も体もすべてが白くてスタイルの良い美女が立っていた。

「お主か、わしの真名を呼び続けておったのは。」

 その女の人は口を開き、言った。僕は驚きのあまり口を閉じることができなかった。シロが、成長している。雰囲気的にもヤーンとためを張れるだろう。

「ふむ。 」

 おとなシロはそういうと、僕の顔をじっと見つめて来た。ちょっと恥ずかしくなり目をそらしてしまう。が、シロはちゃんと僕がここに来た理由を読み取ってくれた。

「お主がここに来た理由は分かった。大変じゃったのう。」

 シロが、思いやりにあふれている。僕は感動した。

「確かにわしなら、お主の招かれた世界にいたわしと連絡が取れるじゃろう。しばし、中で待っておれ。」

 シロがそう言うと、ひとりでに神社の扉が開いた。現代日本にもちゃんと神様という存在はいるんだなあということに感動を覚えた。

 中に入ると、下へ続く階段がちょうど現れるところだった。下に向かう道ができる。これ、日本だよな。どこのファンタジー世界だ全く。

「こっちじゃ。」

 先導するシロが僕をいざなう。


 階段の下には、普通の部屋があった。普通のマンションの一室みたいな所だ。窓がないのが特徴か。まあ、地下だしね。ハリポタの魔法省みたいなのはさすがに無理か。地下の窓の外を魔法で描くという発想はさすがだ。


 そしてひときわ目を引くのが、真ん中に設置された炬燵である。すごく温かそう。⋯⋯ シロがこれ使ってるんだよな。意外と寒がりなのかシロは。しかし、雪に閉ざされる山の化身としてはどうなんだそれ。

「わしが使うんじゃないわい。客人をもてなすためのものじゃ。」

 客人? 誰が来るんだ? こんなところに。

「他の神じゃよ。わしが訪問しに行くこともあるがのう。」

 あっぶね。シロが居る時に来てよかった。いなかったら間違いなく凍死していただろう。

「さ、遠慮なく入るがよい。お主もわしの客人に違いはないのじゃから。」

「じゃあ、遠慮なく。」

 正直、凍えてるからな僕。ここに暖房がなかったらヤバかったかもしれない。そして、僕は炬燵に吸い込まれた。寒さで凍えていた足が解凍されていく。無意識のうちに炬燵の上に用意されてある蜜柑に手が伸びた。

 恐ろしいほどにくつろいでいる僕を見て、シロは苦笑いをした。


「さて、連絡をとるわい。」

 シロはそう言うと目をつぶった。向こうのシロに呼び掛けているのだろう。僕は邪魔しないよう、ひたすら炬燵でだらけていた。


 用意されていた蜜柑がなくなったころ、シロが言った。

「話はまとまったぞ。」


 ヤーンが僕をあっちの世界にもう一度召喚してくれるらしい。

「 『目をつぶりなさい。 』 だそうじゃ。 」

「ありがとう、シロ 」

「いやいや、わしも楽しかった。人間に真名を呼ばれるなど何百年ぶりだったしのう。」

 シロはそう言うと笑った。さびしそうな笑顔だった。

「シロ⋯⋯ 」

「気にするな。これがこの世界の流れじゃ。わしも別に死ぬわけじゃないしのう。それよりお主はあちらの世界に大事な用があるのじゃろう 」

「うん」

「なら、眼をつぶるのじゃ」

 シロはそうきっぱりと言った。


 目を閉じる。

「眠ったほうがよかろう 」

シロの声を聞いたような気もしたが、その前に僕は眠りの渦に飲み込まれていった。



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