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異世界山行  作者: 石化
第3章:思い出話

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白黒世界7

  箱が、細長い塔の中を上へ上へと移動していく。



 ぶうん。ロボットと同じような駆動音がする。先ほどは気づかなかったが、子の塔の機械類は、同一のメカニズムで動いているものが多いようだ。地球に何か近い原理で動くものがあった気もするけれど、思い出せない。もしかしたらなかったかもしれない。そんな独特だけど、どこか聞き覚えのある音だ。




 もう最後の上昇装置だ。空気が薄くなってきていてもおかしくはあるまい。下から見上げた限りにおいて、この塔はエベレスト並みの標高を誇っていたからな。そんな所に三回の乗り継ぎだけで行けるなんて、このエレベーターもしかしてすごく優秀なんじゃ? だって、移動速度も地味に早いなあと、重力を感じながら思ってたもの。


 まあ、こんな不思議塔を作り、色からエネルギーを取り出して見せた天才の作品の一つだと考えれば、そうおかしなことではないのか。



 手持ち無沙汰なのでユウキと会話しようと口を開きかけた時には、すでに扉が開いたあとだった。速度が速すぎるのも良し悪しだ。



 ともあれ最上階。


 ガラスが埋まっているということもなく、ただの金属壁が覆う1フロア。展望塔としての機能を有していないとは、なかなか斬新だ。まあ、この高さになったら、下を見ようにも雲で遮られることが多いのだろう。そう考えると納得できる。

 フロアは広く、上に行くにつれ全周が小さくなるのが当然の塔の中にあって、一階とあまり変わらない広さを誇っていた。やはり技術力か⋯⋯ 。スカイツリーも見習ってくれ。



 下の二フロアは、娯楽施設という意味合いが強かったが、ここは一階と同じ心臓部という印象を受ける。機械類が所狭しと並べられている。見学はここまでとでもいうつもりか、こちらとはロープで区切られている。





 その中に、ひときわ異彩を放つ機械があった。光が管の中を動き回り、活発に活動していることが容易に見てとれる。白だけではなく、奪われたはずの赤や黄色、緑などの有彩色も機械を彩るかのように点滅している。何もかも白黒のこの塔の中、この世界で、それは、確かに美しかった。



 床に接続し、エネルギーを塔に供給しているらしき管は4本。まるで将棋盤だな。⋯⋯ 全然将棋盤じゃねえ。なんでこんなくだらん例えを。




 そして、人。白衣を着て、口を大きく開けて機械の方へ駆け寄ろうとしながら止まっている苦みばしった渋いおっさん。開発者かなあ。かなりかっこいい。やっぱりヒゲなんだよ。ヒゲはかっこよさの勲章ってそれ一番言われているから。なんで日本では髭剃りが推奨されてるんだろうか。生えてくるものは育てたほうがいいと思うけど。生産生産っと。







「ようやくじゃの。その機械を止めれば終わりじゃ。」


 シロの声は嬉しそうだった。それはそうだ。僕らとは比べ物にならない愛着があるんだろうから。⋯⋯ シロは世界を戻すため。僕らは元の世界に戻るため。方向は違っても戻すという意思は同じ。さあ、最終段階だ。やるぞ。



「で、どうすればいいの? シロ。」

 とは言っても、複雑すぎて僕の手には負えないわけで。仕様書を持っているシロにお伺いをたてるしかない。



「単純なことで良いようじゃ。レバーを引くだけで機械は止まると書いておる。おそらく、暴走に備えて簡単に止められるように設計しておいたのじゃろう。」



「あれだね。」

 ユウキが指す先には、突き出すレバー。⋯⋯ なんかここだけ原始的だな。まあ、わかりやすいからいいや。


 区切りのロープを越え、恐る恐る近づく。変な機械はそこかしこにあるから、踏んでしまわないか不安だ。変な挙動を起こさないとも限らないしね。


 なんとかたどり着いて二人で引っ張る。だが、どうしても引き抜けない。


「本当にこれでいいの?」

 シロに疑いの声を届ける。いや、神様でも間違うことは多々あるようだし⋯⋯ 。


「おかしいのう。⋯⋯ なるほど。それらしき記述を見つけたわい。起動と停止には、ある薬品を飲み干すことが必要ということじゃ。」


「なるほどなるほど。で、その薬品は下にしかないとかいうオチじゃないでしょうね。」

 そうだそうだ! もっと言ってやれユウキ。ここからもう一度戻ってたら日が暮れるぞ。




「肌身離さず身につけておるということらしいから、開発者のポケットでも探ってみればあるんじゃないじゃろうか。」


 なるほど。いいアドバイスだ。


 僕とユウキは一旦、男のそばに行くことにした。白衣をゴソゴソと探る。まるで時間停止ものだな。やってることは間抜けの一言だけど。スリの人とかこれを気づかれることなくやるんでしょ。すごすぎない?


「あった! 」

 見つけたのはユウキだった。



 黒い液体が入った瓶。まるで石油のような禍々しさがある。


「じゃあ、飲むね。」

 僕が止める間も無く、ユウキは思い切りよくその液体を飲み干す。


 もうちょっとためらっても良かったんだよ。僕が飲む用意はできてるんだから。そんなことを思いつつも、普通なら嫌がることでもなんでもないことのようにやるのはユウキらしいなと思った。


 ユウキの喉に黒水が落ちて行く。


 なぜか知らないけれど、その様子に不吉なものを感じてしまった。その黒水が体を蝕む毒であるというかのように。



「これでいいのかな? 」

 飲み終わったユウキは何事もなかったかのように、首をかしげる。

 形の良い眉が斜めになって、女の子としてのユウキが強調される。彼女は強いけれど、ちゃんと美人な女の子だ。幼馴染として出会っていなかったら、僕だって衝動的な告白をしてしまったかもしれない。


 お互い、恋愛対象としては見れていないように思うけど、世界で一番大切なのは誰かと聞かれたら、ユウキと答えるのではないだろうか。それくらい、僕の中でユウキという存在は大きい。


 黙ってしまった僕に、ユウキは胡乱な眼差しを投げる。


「なんでもないなんでもない。」

 僕は大慌てで打ち消した。見とれてたとか、そんなことは恥ずかしくて言えやしない。


「⋯⋯ まあ、いいけど。」

 ふっと視線を逸らして、追及をやめるユウキ。この微妙な距離感が、幼馴染というやつだろう。


「よし、これでいいはずじゃ。この騒ぎを、終わらせるんじゃ。」


 少しの間空気を読んで黙ってくれていたらしいシロの通信が入った。そうだな。これで解決できるはずだ。


 僕とユウキはうなずきあう。



 一緒に引く意味はないと思ったけれど、自然と二人で手を重ねて、一気にレバーを引いた。




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