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異世界山行  作者: 石化
第3章:思い出話

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白黒世界6

  上がった先は一階と同じような広場。⋯⋯ いや、迷路だな。壁がそこかしこに立ち上がり行く手を阻む。少し離れてもう一つ小さい塔が上の方まで続いていっているのが見える。あちらに行くためにはこの金属壁の迷路を攻略しなくてはならないらしい。なんでそんな面倒なことするかなあ。


「⋯⋯ 娯楽施設という扱いらしいわい。一応。」


 資料を確認したらしきシロが教えてくれた。どちらにしろなんでだよ。これ、行きも帰りも攻略する必要があるじゃないか。めんどくさいことこの上ないぞ。



「でも、シロが設計図持っているなら、最速攻略は可能だよね。」

 ユウキがとりなすように言った。


 そうだね。情報チート的あれだね。原始的すぎるけど。無線機くらいだよ。ちゃんとチートって言えるのは。


「確かに地図はあるのう。曲がり角の指示くらいは出せると思うわい。」


 よし。ナイス。火急速やかに装置を止めないといけないのだから、この際少しくらいチートに頼ったところで問題ないだろう。


「⋯⋯ 隠しルートとかもある気がするんだけどなあ。」

 ユウキは難しい顔で考え込む。そうだね。開発者だけが知ってる隠し扉とか存在しそう。



「わしの見る限りでは載っておらぬし、素直に攻略した方が良いと思うぞ。」


 シロの言葉もあって、仕方なく僕らは迷路を攻略することにした。



 なんら変哲のない、ただの道だったけれど、性格の悪いことに一番遠回りのコースが正解で、かなり歩かされた。



 ユウキも持っていた神様チートの飴をエレベーターの中で舐めながら、次の階に対する心構えをする。おそらく後一回くらいは乗り継がないとダメだろう。




「次のアトラクションは巨大ゴーレムとの戦闘体験じゃ。⋯⋯これ、ほんとかのう。普通に侵入者を皆殺しにする機械という可能性もなくはないかもしれぬ。」

 シロは少し不安そうだった。今までは一応長いだけで緩い試練だったけれど、今回はちゃんと戦闘らしい。怖いかもな。⋯⋯主に、シロが不安を煽るようなことを言ったせいだが。


「後ろの方に行動不能にさせるスイッチがあるようじゃから、そこを狙うといいじゃろう。」

 有益なアドバイスはありがとうございます。


「これくらいしかできぬからの。」

 肩でもすくめたような気配がした。確かにシロの立場ではどうしようもないのは事実か。⋯⋯ それより結構離れている気がするんだけど、それでも心読めるんですね。


「動いてる人間は二人しかおらぬからの。さすがに把握できるわい。」


「そうして聞くと、詰んでるよね、この世界。」

 ユウキはしみじみとした感情を覚えたようだった。





 そうこうしているうちに次のフロアに到着したらしく扉が開く。正面に、片膝を曲げて座り込むように、機械の体が現れた。


 身長は2m長。青い装甲。洗練されたスタイリッシュなデザイン。素早い動きを可能としているであろう、極限まで無駄を削ぎ落としたフォルム。ロボットものにはあまり食指が動かない方だけれど、これは素直にかっこいいと思ってしまった。


 目に光が灯る。機械の体から放出されるは、生身と遜色ない殺気。


 ロボットは腰から棒を取り出しこちらへ放る。⋯⋯ これ、ゴーレムとは呼べないだろう。ロボットという概念がまだなかったならゴーレムが一番近いのかもしれないけれど。


 放った棒はユウキの手の中に。なんの殺傷能力もなさそうなただの棒。世が世ならひのきのぼうとでも名付けられていそうだ。


 もともとチャンバラみたいな遊戯を想定した場所だったのだろう。だから、こちらにも武器を渡した。


 だが、設定ミスか、それとも色エネルギーを回収する機械の影響か、相手のロボットは、ユウキの手にその棒が握られたと見るや、すごい勢いで殺到してきた。手にはユウキの持つものと同じひのきのぼうが握られている。これ、殺す気だろ。



 とりあえず、僕は離脱する。二本くれよ。なんで僕だけ武器なしなんだよ。


 反対側へ逃げ出したユウキを追いかけるように、ロボットは急制動する。風が吹き上がり、放出される。浮き上がる機体はそのままユウキを追尾する。⋯⋯ 武器を持った人に反応する性質でもあるのだろうか。


「ちょっと待ってよ。」

 ユウキは慌てている。それはそうだ。ロボットのスピードが速すぎる。だが、その振り下ろしに的確に棒を当てて相殺していくことはできた。さすがユウキ。剣道全国二位なだけはある。僕にはあれを受け切れる自信はないからな。僕に武器が渡されなくてよかった。



 体をぶち当てれば良さそうなのに、攻撃するのは棒だけでとでもいう制約でもあるのか、窮屈そうにユウキを追い込むロボット。もともとアトラクションだったみたいだし、そんな鬼畜難易度にはできないでしょ。うん。


 さて、ユウキが囮となって引きつけてくれているうちにっと。


 ⋯⋯ 動くなよ。振り返るなよ。僕はそうっと後ろに近づき、背中に目立つスイッチを押した。これで勝てるっていう神様情報があったしね。


 ぶうん。ロボットの目から光が消える。エネルギーを失ったように、ロボットは、その場で動かなくなった。一時はどうなることかと思ったけど、何事もなくてよかった。


「怖かったー。」

 ユウキは露骨に気を抜いて、素直な感想を漏らす。戦闘をしているときは目に光でも灯ったみたいに集中していたのに、なかなかすごい切り替えだ。いつも気を張っている人より、いざという時にスィッチを入れられる人が強いというのは聞いたことがあるし、そういうことだろう。






「お疲れ、さすがユウキ。」

 ねぎらっとこう。ユウキがいなかったとしたら、僕では受けきれなかっただろうし。


「剣こそ、ナイスだったよ。私の位置からじゃスィッチを押すのは難しかったからね。」

 ユウキはあっけらかんと笑った。危険な目にあったことはあまり気にしていないようだ。なんというか、精神力が強いというべきかな。



「次の上昇設備で終了のようじゃ。」


 戦闘の間は気が散らないようにと黙っていたシロから通信が入る。


 ようやくか。これで、元の世界に帰れるな。この世界でのユウキとの冒険も楽しかったけれど、結局僕らは高校生だ。自分の人生が待っている。夢として、目覚めるのがいいだろう。


「どうしたの剣? 」

 エレベーターのそばへ駆け寄ったユウキが動かない僕をいぶかしむように振り返った。綺麗な横顔が正面へと周りきる様は美しい。


「いや、なんでもない。」

 考え事の内容は、別に伝えるほどでもないだろう。


 僕はそう返事して、最後のエレベーターに乗った。





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