表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界山行  作者: 石化
第一章:山。山? 山!
6/251

三郡4

  十分に休んで気力が回復したところで僕らは立ち上がった。橋のこちら側から始まる広葉樹林の中に登り道が吸い込まれてくのに同調するように僕らの足も進む。



 最初はゆったりと登っていた道は徐々に傾斜を増していき、壁とは言わないまでも、登るとしたら体力をかなり消耗してしまう程度の坂道が続いて行った。左には植林されたと思しき針葉樹林、右には天然林のはっきりとした境界線上をいく。傾斜が急な方に針葉樹林がないのが面白い。やはり、林業をする上で足場を確保するのは大事だからな。



 緩やかになったり、急になったりを繰り返しながら尾根道はぐんと高度を上げていく。木々の隙間からの展望が広がっていくのは、一種の快感である。

 2時間ほど登っただろうか。

 僕らはようやく西、すなわち右側が大きく開けた山頂にたどり着いた。木々を切り開いたのか、もともと風が強くて生えていないのか、やはり草原(くさはら)と成っていた。

 よし、休もう。草原を見つけたら休もうとする癖はどうにかしたいけど、快適だから仕方ないね。




 さあ、今度の展望はどうだ。







 変わらぬ街の光景。だが、今度は、先ほどは見えなかった北側がよく見える。大きく広がる街。なんという大都市だろうか。その先は、キラキラ光る白い地平線。おそらく海だろう。初めて見た。この世界に来てからだとね。


 なかなかの好立地の港町が内陸に伸びていった最終進化系みたいな街なのだろう。何その都市格付けみたいなやつ。都市を育てるゲームかよ。⋯⋯ 意外と面白そう。シムシティって言うんだっけ。


 その都市の向こうの山脈は、前に見た時は左手にあった山が前面にでて、その高くはないが横に長い山容を主張する。主峰は、その三角形を奥で掲げている。街の市街地に張り出した付属山は街を分断し、憩いの場を提供している。あれこそ裏山ってやつだろう。ここでドラえもんの裏山についての考察を披露してもいいけど、どう考えても関係ないので割愛します。



 ここから尾根道は南東の方へ折れ曲がるようで、西にしか空いていないここからでは先の様子は分からなかった。





 ここで昼食を取ることにした。ラーメンのようなものを作っただけだし別に書かなくてもいいよね。そんな慢心がミッドウェーの大敗北につながったのであった。⋯⋯すみません。もう赤城さんネタは使いませんから許してください。





 満足感とともに昼寝に雪崩れ込むのを踏みとどまって僕らは出発した。今日は尾根上をいく予定なので、できるだけ今のうちに距離を稼いで、ちょうどいい幕営地に足を運ぶ必要があるのだ。ここで泊まるには少し早すぎる。



 急激に下る。さっきのも結構大きな山容の山だったんだなとわかってしまった。最初の山から見たときにも、わかっていたことではあるんだけどね。でも登りが長すぎてほんとにここが山の山頂になのか。まだ登る必要があるんじゃないかと疑心暗鬼に陥ってしまっていたので、一安心である。この次は確か、1番大きな山だな。遠見では距離的に遠いはずなのに、さっき登った山と同じくらいに見えたからな。遠近感を考えると、1番大きいで確定だろう。



 割とスルスルと下れて、茅の原と、森林の境界線の稜線を峠としてまた登ることとなった。峠というものは下道の最果てにあるものという印象があるが、通常の旅人にとっては登りが終わる最上点なのだなと思うとなんだか面白い。



 再び広葉樹林の中の道を登っていく。標高が上がったからか、針葉樹は全く見られなくなった。

 自然な状態では針葉樹は広葉樹の北側に分布するのであろうが、人の手によって植えられた針葉樹は里に近い低い地域に生育するようになっている。そのため、ある程度南の山では広葉樹の方が寒さに強いんじゃないか疑惑がある。

 そういえば、針葉樹が北に分布するのは短い日照時間に耐えられるようにするためだったはずだが、同じ山ならそれは変わらないはずだ。となると純粋に寒さに強い方が上部に来ている可能性がある。果たして、人の手によるものだけが、下針葉樹上広葉樹という状況を作るのだろうか。興味深い。





 そんなことをつらつらと考えながらダラダラ登る。変化は少ないにもかかわらず、結構な登り道であるという一点が、この道をキツイものにしている。

 下草に赤い花を見つけたりして変化を無理やりつけてみる。カタクリソウのような独特な形状だ。掘って下に持って下りたら高く売れそう。⋯⋯ こんな思考をする人がいるから貴重な高山植物が絶滅してしまうって僕知ってる。お金には困ってないんだ。そんなこと考える必要はない。



 1時間ほど経っただろうか、周りの木々が灌木レベルの大きさに変じてきた。俄然視界も開ける。⋯⋯ まあ、ちょうど目線くらいの大きさの木が多くてそこまで見えるわけではないのだが。でも、進む先の山は見えた。緑の草原に覆われた開放的な山だ。

 あそこなら360度の展望が楽しめそうだ。



 進む道にも短い草が生え、踏みしめるのが簡単になった。快適な草原歩き。天上遊歩とは言わないまでも、十分に快適な道が僕らを歓迎するかのように続く。


 そして、ようやく、頂上についた。

 期待した通りの開放感あふれる草原。その一段高くなった場所にある岩の上が頂上。まさにそこである。

 遮るもののない絶景。街。海。街の向こうの山脈。これまで来た道がある北の山脈、これから向かう南の山脈。

 そして、今までひたすらに木に遮られて見えなかった東側の風景も一望のもとだった。正面に独立した山、こちらより200Mほど低い。目視でだが。その右かなり後方に鋭い峰から続く三連山。さらに後ろに頂がやはりこれも3つに分岐している山がうっすらと見えている。総じて、広い範囲に山が点在する、平野の少ない風景だ。うんうん。やっぱり、かくあるべきだよね。平野なんていらないよね。こういう風景を渇望していたからこそ、ずっとじっくりと見ておきたい。僕は、どうしようもなく風景が好きだ。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ