閑話 「オスカーの追憶」
三章に入る前に上げておかなきゃならない気がした。オスカーさんです。
私はオスカー。発明家だ。今、故郷の町で、観光の目玉を運営している。もともと天を衝く巨塔だった私のバベルを、移動手段として用いるのだ。もともと、空気の薄い上空でも安全なように作っておいたので、内部の気候は一定に保たれる。それゆえ、寒いところに移動しても何の問題もない。雪珍しさと多分移動塔珍しさもあって、かなり繁盛している。
この一年。神様に二人知り合えたというのは誇れるかもしれない。⋯⋯ というより、世界を終わらせる機械を作っておいてこの程度で済ませるとはなかなかぬるい神様だなとは思う。まあ、私としてはありがたい。⋯⋯ 神さまと聞くと嫌な感情が湧き上がってくるのはなぜなのだろうか。何か遠い昔に、絶望をもってその名を呼んだ。そんな気がする。気のせいだろう。あの変な神様達とそんな関係であったはずがない。
変といえば、あの異世界から来たという2人組だ。ユウキと剣。突飛すぎる状況ではあったものの、おそらくあの二人のおかげで、この世界は救われたと言っていいのだろう。神絶結界のせいで唯一動けた神までも拒絶してしまった私としては感謝してもし足りない。しかし不思議なのはなぜかあの二人のいう産物が自分の元にももともとあったという気持ちが時々することだ。だから、私はいとも簡単に作り出せたのがもしれない。
私は時々夢を見る。ここではないどこかで必死に戦う夢を。敵は強大で、味方は少ない。一瞬でも気を抜いたら命はない。そんな極限の戦いを。アレはどこで起こったことなのだろう。前世というやつなのだろうか。
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「オスカー!」
「了解」
相棒の声に従って結界を起動する。神絶結界。この中に、神本人からの攻撃は届かない。
「助かった。」
「いいってことよ。」
神の放つエネルギーの塊が、壁に当たって溶けるように消える。
その間に息を整えているのは紫の髪を持つ優男、マンテセ。理不尽な俺たちを弄ぶ神に共に反旗を翻した大切な仲間だ。他の仲間達はとうに消えた。あるものは肉親の死を見せられた後で、またあるものは勝利の宴の最中に。人の思考を操る奴に対しては、一瞬でも気をぬくと命取りとなる。
そんな死の群れと仲間達の犠牲の上に俺たちはようやくここに、神まであと一歩のところにたどり着いた。神絶の概念は守護に関しては完璧なところまで育ったが、攻撃手段が足りていない。隙を見て何度もなんども攻撃したが、まるで効いている様子がない。神滅の概念をもってしても、この敵、この星の神には届かない。
俺たちを睥睨して、神は玉座より立つ。見事な白鬚を持つ、世界中で信仰されてきたこの男。絶対に滅ぼしてやる。俺たちの中から尽きることのない闘志が湧き上がる。
俺たちの戦いは一日中続いた。最後の一撃、俺とマンテセの渾身の剣の突きがやつを貫いたのは俺たちが気力体力すべてを振り絞ってようやく掴んだ僥倖だった。
神の洗脳が解けた人々は俺たちに感謝を捧げた。この星の指導者だと。だが、絶対君主神権神授制のせいでこのような悲劇が生まれたのだ。俺はそれを断った。
だが、マンテセはそうは思わなかったようだった。愛し合っていた恋人を失い、神を殺すことだけを考えて生きてきたマンテセは、自分をこの星を導くに足るものだとみなして自分を保つしかなかったのだろう。俺も請われてマンテセのそばにいた。こいつは俺の最後の仲間だし、その危なっかしい行く末を見届けるのも俺の役目だと思ったからだ。
そうして幾年が過ぎた。もともと高かった技術力を持って、俺たちは星間飛行を成す術を宙の船を生み出した。全く新しいことを生み出すのは非常に楽しかった。責任者として監督し、主導した俺にとってその完成は例えようもなく嬉しいことであった。
マンテセが俺を呼び出したのはそんなある日のことだった。
次回は、sf調になるかも。閑話の続きです。




