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異世界山行  作者: 石化
第一章:山。山? 山!
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三郡3

 

 左の尾根に下る道を行く。ソコソコ標高が低いからだろうか。きちんと道が作ってある。森の中を行くのはやりにくいことこの上ないのでありがたい。



 広葉樹は姿を消し、針葉樹が現れ始めた。


 狭くはあるが、緩やかに両側につながるために危険を感じることのない道である。ポツポツとおそらく切り残されたのであろう幹が捻れた木が残されて、大木と化している。


 運が良かったな。まあ、かの縄文杉も、節目が木材として使いにくかったから残ったという話もあるから、木にとっては必要な能力なのかも。進化の結果、節が曲がった木がたっぷり生き残ることなるかもしれない。



 林間に生えているのは灌木のように少し樹高が高い木々だ。おそらく、不揃いな針葉樹の大きさによって光が差し込むからだろう。


 緩やかになったとはいえ、尾根上である。下から眺める山の形には何の影響も及ぼさないであろうが、移動してみると地味に体力を削るアップダウンが存在している。だから、ここの下りは走って次の登りに突っ込んで運動エネルギーを有効活用しなきゃもったいないぞ。⋯⋯ わかってます。山では走りません。はい。



 僕の体感で、行くと定めた尾根に行く道だと思われる道を選び取った。尾根は真っ直ぐ続いているけどそろそろ曲がらないと、あちらに行けない。他の分岐よりゆったりと降っていたのも判断ポイントである。コンパス欲しいな。地図とコンパスだけで現在位置を知るのは無理ゲーに近いって、大会の度に言ってた気がする。


 山岳部大会では読図として、ランダムな道中のチェックポイントの場所を配布された国土地理院二十五万分の一地形図に書き込めという課題があった。地図上には表示されないアップダウンとかもあり、なかなか把握しておくのが困難だった。周囲に見える山の地形と、そこに生える植物、その場所の地形をきちんとわかっていないとだめだ。


 しかも、万全を期すならば、下見と称してそのコースを何度もなんども登る必要があるのである。しかしまあ、テストもあるし、計画書の配点高いし、どう考えても文化部なんだよな山岳部って。決められた時間内にゴールにたどり着くくらいか? 運動部らしい大会内容は。


 奥深いけど、変なところで減点されて審査員へのヘイトが高まる減点方式はどうにかして欲しかった。加点方式にしません?


 まあ、今更だけどね。あちらに帰れる日が来たとしても、僕の目が良くなったままの保証はない。それにこちらとあちらの時間の進みは少々の差はあるとはいえ同じくらいなのだから、高校山岳大会なんて出場できるはずもなし。おじいちゃんになって帰ったとしたらどう辻褄を合わせるか知りたいところですね。帰れたとしたらだけどね。



 というわけで、下り道。なかなか育っている針葉樹林の下。明かりを通さないんだろうなと窺えるような下草のない荒れた土を、踏みしめて高度を下げる。



 何層にも道が小さく分岐し、消え、合流し、地肌を削っていく。

 無闇に道を作るとこんなことになるんだよ。獣道ができる原理の拡張編みたいな感じだ。体重が乗ることが続くとその道は少しずつへこむ。それが続くと、雨水の通り道になり、さらに侵食が進む。こうして登山道は他よりも一段低くなる傾向が見られるのだ。そしていつしか谷となって地形改変の出来上がりだ。人の力で成し得ることに感心すればいいのだろうか。


 だらだらとやっぱり走りたい下り道を下りきった先には、石橋があった。こんなところに川があるのか?

 近づいた僕らが見下ろしたのは街道だった。橋の下に、かなり大きな道が峠を越えるように伸びていた。なんだろう。ここで待ち伏せしたらいとも簡単に積荷を奪えそうな気がする。


  盗賊警戒令かな。でもよく考えると、盗賊って山に住んでいるのか?

 というか住めるのか? こんな急な斜面しかないところに。アジト作れるような平地あったらとっくの昔にチェックされているだろうに。




 そういえば、日本の盗賊って山に出るのは一人二人だな。宇治拾遺物語とかで考えると。大規模な盗賊団を養える誰にも知られていない場所が少ないんだろう。ヨーロッパで考えると、無視できない大型の肉食獣の狼という存在があったから、普通の人は森に近づけなかったし、平野が多かったから、結構な戦力があったら森の中にアジトを構えるくらいはできそうだな。日本オオカミはそんなに大型でもないし、群れを作ることも少なかったようだから、日本は少人数でも盗みで生計を建てられたのだろう。そこも日本と西洋の盗賊団の形成力の違いか。面白いな。


 この世界でいうと、平野の森に近づかなければ大丈夫そう。すなわち山を越え移動している分はなんの問題もないな。なんという選択の妙。自画自賛してしまった。


「そういう問題じゃないじゃろうに。」

 シロに突っ込まれたけれど。

「山ありきじゃったろうが。今更そんな後付け片腹痛いわい。」

「肯定理由が増えたのは歓迎すべきことでしょ。」

「⋯⋯ それは認めるがのう。」


「そんなことより、そろそろ休憩しない?」

 会話に参加できなかったユウキが拗ねたように口を尖らせて提案した。

 正直そんない疲れてはいないけれど、これから登りが続きそうなので、それもアリだと思う。元気を貯めるんだ。





 石橋を渡った先に、ちょっとした草原(くさはら)があったので、街道を見下ろしながら休憩をとることにした。



 まだ、太陽の位置的に10時ごろ。昼飯を食べるには早い。おやつで我慢だ。

 糖分の塊を取ってエネルギーを補給する。飴によく似た菓子を何個か口に入れる。糖分は貴重らしく、砂糖ですら、街ではあまり見かけなかった。


 まあ、もともとの世界でも、奴隷階級が南で増産するまではかなりの貴重品だったらしいし。仕方のない部分はあるかな。こんな風に手に入りにくい食材に関してはヤーンの出番である。彼女の瞬間移動はこの星を網羅しているために、僕らの欲しい食材の増産と調達を一手に引き受けてくれた。

「私も食べたいからよ」

 ヤーンはそう言って笑っていた。懐が広い主神様である。





 やっぱり神様はチートなんですよ。原義から考えてもそりゃそうだけど。転生させてくれる神様は基本その時与える特典自分でも持ってるはずだから。


 









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