山場
那珂ちゃんセンター一番の見せ場です!
⋯⋯ というわけで、多分この話の一番の主人公がかっこいいシーンが始まるよ。すぐに化けの皮が剥がれるのはご愛嬌ということで、一つ手を打ってくださいね。
前触れもなく地が揺れる。
脈動する大地は本来の堅固さを失い、頼りなく存在する。地盤がめくれ、その上に大木を乗せたままに地面が盛り上がる。木は折れないが僕らの上にその幹を叩きつける軌道だ。シロのカバーは間に合わない。
僕は静かに腰の刀を抜いた。そのまま一閃。なめんなよ。僕だって昔は真剣に剣道の練習を積んでいたんだ。神刀と呼ばれるにふさわしきその刀は流石の切れ味を見せた。触れたところからスパッと豆腐を切るように折れる幹。あれっこれ直撃コースなんじゃ? 想像していたのと違って全く空間が空かない。そのままの質量で幹は崩れ落ちてくる。全く危険を回避していないことに気づいた僕は真っ青になったが、僕の動きは無駄ではなかった。切ったことによる運動エネルギーのわずかな減衰によりシロのカバーが間に合った。
凍りつく木。止まった。シロの両手から飛び出した白い氷はとっさだからか本調子ではなさそうだったけれど、木を凍りつかせるのには十分だった。
ユウキと女の子が気になって振り返ると、こっちは両断された木が散乱していた。シロの氷の助けを借りることなく、ユウキは自力で倒壊する木々を切り抜けたらしい。技量が人間レベルを飛び越してる気がするんだけど。気のせいか?
剣技の神様みたいな称号持っててもおかしくないだろこれは。多分称号システムなんてこの世界に実装されてないだろうけど。
とりあえず、無事でよかった。かなり大きな地震だったからな。シロの判断ぐっじょぶ。刀持っててよかった。
みんなひところに集まってみた。二人の子は再度の地震に恐怖心を呼び起こさせられたみたいではあったが、その度合いは最初よりも小さかったように見える。自分を守ってくれる者がいるという安心感がそうさせるのだろう。心持ち手に預けられる重さが増えたような気がする。足じゃあるまいし、おそらく気のせいだろう。
「とりあえず、方針としては変わらないよね。」
僕は全員に確認を取る。
「そうじゃのう。」
「そうだね。」
「方針? 」
「首をひねらないでよ、姉さん。僕らの村に向かうってことですよね? 」
男の子の方が問いかける。姉弟だったんだね、薄々知ってたけど。そして姉ちゃんかなり残念だな。
「そのとーり! むしろ早く帰ってみんなを安心させないとね。」
僕は大きく頷いた。
「わかりりました。こちらからもお願いします。」
頭をさげる男の子。姉は少し慌ててそれに倣う。
「よろしく!」
そして致命的に模倣に失敗してた。なんで弟の頼み方を見て、そんなサムズアップをして笑うなんていう行動をしようと思ったんだろう。まあ、これはこれで子供らしくて好感が持てるけど。
「じゃが、ちょっと待つのじゃ。」
シロは進もうとする僕らにストップをかけた。
「集落の被害を確認しておいた方がよかろう。もしかしたら別の場所に避難した可能性もあるじゃろ。わしが偵察してみるわい。」
確かに戦さの基本は情報だ。集めておいて損はない。
「でも、地に聞けばわかるんじゃないの?」
ユウキは首を少しかしげて見せた。
確かに、たいていのことはわかりそうなものなのだがな。
「地に聞くことでわかるのはかなり荒いんじゃよ。地の揺れの正しい時間もよくわからんじゃったし、地形も大まかに分かる程度じゃ。」
シロの話は頷けるものだった。ただ地の話を聞くだけみたいだし、言葉上にあげられる情報が少ないのは活版印刷後の技術の隆盛を見てもうなずける話だろう。
「というわけじゃ。この子らは任せるわい。」
シロは信頼を込め僕らを見回した。二人して頷く。満足そうな表情をしてシロは空に飛び上がった。飛び立つ飛行機をそばで見ているかのような感慨と風圧が僕らを包んだ。あの小さな体が宙を行くことはやっぱりこっちに来て感動したことの一つに入れておかなくちゃならんだろう。二人の子は口をぽけーっと開けてそれを見送った。しっかりしてそうな弟の方までそうしているのを見るのはなんだか興趣を掻き立てられる光景だった。
とりあえず、あっちが集落の方向らしい。視界が少し開けたのをいいことに確かな足取りでシロの向かった方へ足を進めた。
シロの跡を辿るのが困難になってきた。まあ、なんといってもシロは飛んでるからね。
地震で木がなぎ倒されてなかったら方向さえもほとんどわかりはしなかっただろう。そこは不幸中の幸いだな。
だが、シロもそこまで高高度を飛んでいるわけではなく、地平線に消えていった。いや、地平線というよりは未だ倒れていない木の後ろと言ったほうが正確だろうが。
あんまり、木が残っているところに行くと、シロが見つけてくれる確率が下がりそうだしこの辺りで待っとくか。
唐突に僕は立ち止まる。その訳を尋ねられたが、話すと納得してもらえた。物分かりのいい子たちで嬉しいです。
風が吹く。盆地には周りの山から風が吹き下すため、最終的にすべての方向が混ざり合い、どこから吹いてきているのかよくわからなくなる。ひところからの風を感じたと思えば、すぐさま別方向に変わり絶えず流動していく。行く風の流れは絶えずしてしかももとの風にあらずみたいば感じだ。やっぱり俺まじ隠者だな。
妙な感慨に打たれている倒壊木の上。座り込んで思考をとりとめもなく流していく。
妙に落ち着いている僕を見て、二人の子もやすらった様子で気を緩めた。
これが包容力があるってやつだな。影響力か? ⋯⋯ 違う気しかしない。
謎の沈黙。僕は沈黙は苦にならない性質だから気にはならない。ユウキもそこまで口数が多い方じゃない。重要なところだけに口を挟むのがユウキだ。それに、思考を読んで話題を提供してくれるシロが加わって、僕らは会話を進めていた。
しかし、そのシロがいない。双子は姉の方はおしゃべりみたいだけど、こんな時に何を話していいかわからないみたいだ。さっき歩いている途中で色々と話していたのもそれに拍車をかける。初対面同士の乏しい話題はその時に尽きてしまった。
人は彼をコミュ症と嘲笑うだろう。後ろ指を刺されまくってる気分だ。つらい。つらみ。なぜエムジオンが入るんだろうね。形容詞なんでもみをつけたらいいってもんじゃないぞ! 多分ツイッター界隈でしか使われていないであろう謎の言語にひとしきり突っ込む。無論頭の中でだが。だってどう考えても話系列を無視してるじゃん。こんなの言葉に出してたらとっても危ない人だよ。
さてと。問題がある。気温が下がっている。時刻はすでに夕刻。太陽の恵みたる陽光も陰りを見せる頃合いだ。今までは歩いていたため、体を温めることはできていたが、腰を下ろしていてはそれも望むべくもない。ただ体温が下がるのに甘んじるだけだ。
初冬の山上。聞くだけで寒そうなのに、これに夕方とか休憩とかいうワードを追加してみろ。もう耐えきれないの確定だよ! どう考えてもすでに家をいうか泊まるところを見繕っておかなくちゃいけないんだよな。おとといユウキに注意されたばっかりだし。素早く終わらせてやんよ。この護衛ミッションを完遂して、すぐに温かい家で眠るんだ! 僕は決意を新たにした。
そっとシロの消えた方向に目を向ける。もちろんシロの姿は見えない。先ほど大啖呵を切った手前、いいにくいけど、もう少し距離を詰めてみるか。寒いしな。
みんなの表情もかなり寒いという色が表れている。これは一刻の猶予もないな。
「そうだな。みんな、体が冷えてきたようだし、シロの入った方向にでも行ってみようか。」
先ほどの説明とは矛盾したことを堂々とのたまう僕にユウキと男の子はじと目となったが、女の子は何も考えていないのか、二つ返事で賛意を表明した。いい子だな。ちょろいとも言うが。結局ユウキも男の子も寒さが耐えがたくなったのか渋々賛成した。
歩く。木々の中をひたすらに。揺れる。風によって葉が揺れる。秋も深まるこの季節。ギリギリ耐えていた葉っぱたちもその色を赤く変えると共に持久力のメビリが著しくなってしまったらしく、一枚また一枚と舞い散っている。美しき秋、晩秋の光景だ。
まあ、結構まだ緑色にて頑張っている木もあるから、視界は開けないんだが。あれだ、ここ思っていたより南かもしれねえ。鹿児島でギリギリあり得そうな植物相ができている気がする。そろそろハブの生息圏内じゃないか。毒ヘビに注意して進んだ方がいいかもな。
そんなこんなで一列縦隊で進んでいた僕らだった。障害らしい障害もなく、道を踏破していく。シロばっかりに頼り切ってた気がするけれど、意外と何もしなくてもいけるじゃない。自分に酔いしれるという謎の陶酔が僕を襲った。
これがエロスの悲劇の始まりの状態か。
ごめん。僕、思考を見張ってくれる人がいなかったり楽に歩けて別のこと考える余裕があったりすると何言ってるのか自分でもよくわからなくなるみたいだ。⋯⋯ よく変人だと思われてなかったな。まあ、声に出していないし、セーフセーフ。
さあ、この話も後はまとめるだけですよー⋯⋯ たぶんね。1番難産だったのがここからです。双子を考えつくまでも結構悩みましたけど。やっぱり閉じるのは難しい。




